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第3章-3

 風の国ヴェントルの首都エクセレビス。地の国アーステラの首都ダーラムからは、街道とトア・ル森を抜けるルートだ。森の中は道を外れるとたちまち迷い、魔物に出会えば戦力がないと命の保証はない。


 この森は、道中は必ずと言っていいほど魔物と遭遇するはずなのだが、どういうわけかヘイレンと一緒にいると奴らは鳴りを潜める。完全に魔除けのお守り状態だ。


 エクセレビスに着いて宿の部屋を借りた後、ウォレス王の待つウィンシス城へと赴いた。ヒトと獣の血を分ける「半獣」が多く住むこの街は、門番もそれである。


 虎の身体を持つ半獣の門番はシェラたちを認めると、大きな扉ではなく彼らが使う小さな扉を案内した。開ける時間をも惜しむ程、事態は一刻を争っているようだ。王室に入るまで、わりと小走りで移動していた気がする。


 シェラは息が上がってしまい、王室に入るなりしばらく豪奢なソファに座らせてもらった。なんとも情けない醜態晒しだが、王は事情を把握していたので酷く心配されてしまった。ある使いには冷たい紅茶を用意させ、別の使いには扇を煽らせて風を送るよう指示した。


 四半刻(約15分)程経って、シェラは落ち着きを取り戻した。ヘイレンもまとわりついていた汗が引き、涼しげな顔をしていた。ウォレスは使いたちを下げさせると、シェラと向かい合うように反対側のソファにゆっくりと腰掛けた。ややあってシェラが先に口を開いた。


「招集状をヴァロア様から受け取ったけど、これ送ったの結構前だよね?遅くなってごめん」

「とんでもない!意識が戻らない間は私も不安でしたが、こうやってお会いできてよかったです。暑い中ありがとうございます」


 こちらは明らかに王に対しての口調では無いのに対し、王であるウォレスが丁寧な口調なのが滑稽だ。ヘイレンはこの逆とも言えるやりとりに眉を顰めている。


「ウォレスとは旧知の仲だと以前話したよね?」

「うん……そう聞いたけど、でも、なんだか立場がつい逆に見えちゃってボクどうしようかと……」


 確かにそうだ、とシェラは頷いた。かといって今から急に丁寧に話しだすと今度はウォレスが戸惑いそうだ。王を一瞥すると、案の定、視線を左右に動かしていた。


「ヘイレン殿……私は王と言っても代理なのです。先代が早逝してしまい、今の王子がおとなになって継承出来るまで、私が代わりに務めることになって……」

「そんなことってあるんですか!?」


 ヘイレンは目を丸くして口をぽかんと開けた。ウォレスも王家の血筋ならわかるが、全くのたにんだそう。単なる先代王の側近という立場であったのに、妻の現王女が彼を任命した為、前代未聞の展開に至った。


「側近でも最高位だったし、王妃様に気に入られていたのもあって、こうなったんだよね。噂では王妃様はウォレスに恋焦がれていたとか……」


 シェラがそう言うと、ウォレスはたちまち顔を赤らめ、大きな翼をばたつかせて全否定した。


「そんな噂……!それがもし事実だったら大問題でしょう!王妃様の威厳が……というか、ウィンシス家の威厳が潰れてしまいます……」


 息荒く反論するウォレスだったが、シェラは涼しげな顔でそうだよね、と頷いた。


「と、とにかく……そういう経緯で王を務めているので、その……かしこまられるのは性に合わなくて……。昔から私をよく知る仲間はみんな、今まで通りの接し方でお願いしたんです。だからシェラも気軽に話してくれます。一方で抵抗感があって丁寧な口調に変えた方もいますが……。話し方はもう、皆さんにお任せしています」


 ぱたぱたと顔を手で仰ぎながらウォレスは言った。ヘイレンはしばらく唖然としていたが、興味が薄れたのか、おとなしくシェラの隣にお行儀よく座り直した。


「さて……本題に入りましょうか。例の赤毛のオッドアイのジンブツについて、おふたりが知っている事を教えていただけませんか」


 ふとヘイレンに目をやった。彼はやや俯き、ローテーブルに置かれているカップを見つめていた。この件は彼から話したほうがいい。そう思ってシェラは彼が口を開くまで待った。ウォレスも、ヘイレンが話すのだろうと思ったのか、彼を見据えていた。


 チラッとヘイレンがシェラを見た。黙って頷くと、彼はひとつため息をついた。これから話す事は夢で見た事だから、と前置きした上で、ぽつぽつと話し始めた。


 赤毛のオッドアイのジンブツ……名はロキア(ロキアーシュカ)。テンバを保護し育てていたという。牡のテンバ、つまりヘイレンが時空の裂け目に飛び込みいなくなってしまった事を知り、ロキアも時空の裂け目に飛び込んで後を追ったらしい。同じ時代に飛び出せたのは奇跡としか言いようがない。


 容姿としては、アルスのようながたいの良い体格、という程ではなく、背は高いがどこかしなやかさがあり、声質も相まってロキアは女性ではないかと思ったらしい。


 トア・ル森で起きたおとな数名を虐殺したジンブツは、『黒っぽい服を着た身体の大きな男』で、女のヒトっぽい霊体を出していた、との証言がある。が、証言元が唯一の生き残りである少年である事から、信憑性は当初よりだいぶ薄れてしまっている状況だという。


「ロキアが女性なら、少年の証言のジンブツと異なることになりますね……。時空の裂け目からやってきた旅ビトであれば、『女のヒトっぽい霊体』でも無いですし。しかし……ヘイレン殿を街中で襲った事には変わりありませんので、虐殺犯ではない別の容疑で捕獲せねばなりません」


 ウォレスは顔をしかめた。王はまだ、少年の証言を信じているようだった。あるいは嘘をついていると思いたくないのか。


「とにかくも、ロキアを捕獲せねばなりません。その……言いにくいお願いなのですが……」

「ボクが(おとり)になって、ロキアを誘き寄せたらいいんですよね」


 彼の口からそんな言葉がさらりと飛び出し、シェラもウォレスも目を向いた。王はおまけに口元を震わせてどう返事をすべきか言いあぐねていた。


「ボクひとりなら、たぶんロキアは姿を見せてくれる気がします。分身とはいえ、シェラが召喚士であることは知ってると思うし、警戒もするはず。それに、騎士たちと一緒にいたら、捕まると思って出てこないとボクは思います」

「そ、それは……そうかもしれませんが、しかし、おひとりでは危険過ぎます!」

「でもほかに方法はありますか?」


 ヘイレンの真っ直ぐ王に向ける眼差しが、怯えを見せぬ力強いものだった。シェラが入院している間に、またうんと成長した……のだろうか。ウォレスもシェラも、何も返せなかった。






 結局、トア・ル森でのロキアの捜索は、ヘイレンだけで行うことになった。正確には森の中央部にある「道標の池」のある吾妻屋まではシェラも同行する。ウィンシス城に仕える騎士団の半数が、彼らの護衛にあたってくれることになった。


 弓を携えた屈強な半獣の騎士たちは、各々で支度を整えていた。そんな中、ひとり半獣ではない者が一際大きな体格の半獣騎士と話をしていた。


 シェラはそのヒトの姿を見るなり胸がざわついた。奥底から湧き立ってくるのは、疑念と少しの憎悪。何故右腕の事を黙っていたのか。何故(コア)を肩に入れたのか。後者はおそらく当時の最高戦力だったシェラが倒れ、奥の手としてやったのだろうとは思うが。


 話を終えたらしく、半獣の騎士が離れていったのを見て、シェラは彼に近づいた。声をかけるまでもなくラウルは瑠璃色の眼をシェラに向けたので、反射的に立ち止まった。


「久しぶり。大変だったみたいだけど、もう大丈夫なんだね?」


 シェラは何も言わずに頷くだけした。ラウルは良かった良かったと小さく何度か頷くと、右手に視線を落とした。ぴくりと指が動く。


「里長の話は本当なの?ヘイレンが聞いたみたいだけど」


 竜の腕、という言葉を出さずに聞いてみる。当事者なら勘付くだろう。案の定、ラウルはハッと顔を上げて表情を曇らせた。


「君が僕の肩に核を入れたって。黒曜石(オブシディアン)の核だ、って。それはどこから得たの?何故入れた事を黙っていたの?」


 矢継ぎ早に質問を投げるその口調は、ラウルの目を見開かせた。持っていた弓を手放すと、光を伴って消えていった。彼の弓は魔力でできている。


 ラウルは一瞬視線を地に落としたが、そうか、と呟くと、シェラに向き直った。


「黒曜石は、シェラが乗っていた飛竜がやられた時に飛んできたもの。身体は貫かれたが核は無傷だった。あの攻撃をもろに受けて核が砕かれていたら、黒曜石は死んでいた。肩に入れ込めなかった」


 これで完全にシェラの右腕の主はディアンであると確信が持てた。


「以前、腕の力を使う度に支配されていくような感覚があるって言ってたよね」とラウルに問われる。


 寒期の頃、トア・ル森を抜けてダーラムに戻る途中、ロキアの分身に襲われた。その時シェラは相手の魔力でガントレットを壊された。竜の腕へと変化(へんげ)すると、分身に殴りかかり、地に叩き落とし、馬乗りになって首を握り折った……らしい。


 あの瞬間、シェラは自我を失っていた。ただ、あの分身を屠るという意識は残っていた。その意識が竜……ディアンに伝わり、ディアンがシェラに代わって屠った……のか。我に返った時には分身は霧散していた。右腕の様子を見て咄嗟に凍らせた。


 先日のヘルアラネアに対しても、自らガントレットの封印を解いたわけだが、あの時も「あの蜘蛛を屠る」意識はあった。が、自分が何をしたのか実のところ覚えていない。腹を貫かれて動くことすらままならない状況だったのに、どうやって屠ったのだろうか。


「支配されていくというよりは、竜の腕に変化させた時にはもう、僕は「僕である」という意識がないから、正確には支配されてしまっている、なのかも。でも、一生支配されるわけじゃなくて、目的を達成したら意識が自分に戻ってくる。目の前にいたはずの敵がいなくなっていて、何が起きたのか一瞬わからなくなる」

「そうか……。竜の力を発揮している時は、シェラは記憶……というか自我を失っているのか。いや、竜がシェラの身体を『自分のもの』として、その一瞬を『生きている』んだな」

「生きている……」


 コア族は、核が破壊されない限り生き続ける。心の臓もあるが、それを潰されても核が壊れていなければやがて再生する。彼らにとって核こそが心の臓。()()()()()()は血液を送るだけの器官。コア族と悟られないためのダミーでもある。


 ディアンは雄大な体躯を盾にしてシェラを守った。その際、核は邪神竜の一撃を避けて身体から飛び出し、ラウルがそれを回収した。そして、右腕も意識も失ったシェラに、ディアンの命を入れ込んだ……。


 ディアンの身体が再生されなかったのは、核が身体から離れたから。核は身体を、姿を、その生命体を形成するものである。シェラが失った身体の一部として、再生されたのである。


「黙っていたのは、君の飛竜がコア・ドラゴンだったことを隠すため。コア族の(かく)は、ある意味不死身の力を秘めているからね。あと、肩に核が埋まっていると気づかれると、身体に核を入れて不死身の身体を手に入れようとする不届き者に殺されかねないから、シェラの命を守るためでもある。でも……」


 ラウルは一瞬言葉を切った。


「それがかえって君を不安にさせていたんだよね……すまなかった」

「この竜が邪神竜だったら……と片隅で思っていてずっと怖かった。ヘイレンが里長から聞いた話と、今ラウルから聞いた話で、ようやく信じていいんだなと思えた。この腕はディアンのものである、と」


 そう言ってひとつ大きくため息をつくと、心の深淵に(わだかま)っていた闇が一気に払拭された。


「これで気兼ねなく竜の力が使えるね」


 ふと笑みを浮かべるラウルに、シェラは首を横に振った。自分の意識が無い間、何をしでかしているのか把握できないのは怖い。取り返しのつかない事をしていたらと思うとぞっとした。


「ディアンには僕の力ではどうにもならない時、死にかけてる時に助けてもらうよ。所謂『奥の手』かな」


 ふと『竜と対話せよ』という言葉を思い出して右手を見つめる。見慣れた自分の手が空色の眼に映る。ガントレットが手首から上、肘の手前までを包んでいる。魔力でできているので、竜の力を抑える事が出来ている。


「ただ、核の存在は極力知られないほうがいい。腕をもぎ取られるのは嫌でしょ」

「そうだね。ましてや利き腕だし、気をつけるよ。……ありがとう、ラウル」


 彼がこうしていなければ、シェラはヘルアラネア、ロキアの分身、いや、もっと前……邪神竜に殺されてこの世に存在していなかっただろう。


「僕の命を助けてくれたのに、食ってかかるような聞き方をしてごめん」


 今度はラウルが首を横に振った。


「さて……(くだん)の話に変えるけど、ヘイレンは大丈夫なのか?」

「ひとりにさせるのは正直嫌だ。だから、吾妻屋で待つとは言ったけど、後をつけようと思ってる。いざという時に守れるように」


 うむ、とラウルは頷く。彼もまた、地に溶け込んでヘイレンを見守るつもりでいるらしい。その力を分けて欲しいとつい羨む気持ちを抑える。


「でも、すぐに気づかれそうだな。ラウルだったらきっとバレない気がする」

「さて、それはどうかな。第六感が鋭そうだし」


 それはそうかも、とお互いに微笑した。






 トア・ル森に入る前夜、シェラは静かに身体を休めているヘイレンの横で、上半身を起こして己の右手を見つめていた。ガントレットで見えないが、手首の少し上に深い傷があるらしい。確かにディアンの右手にはそのような傷があった記憶がある。


 ガントレットに左手を当て、そっと目を閉じる。自分の呼吸が、やがて潮騒の音へと変わっていく。低い唸り声がする。シェラは瞼を開けた。


 青黒い身体に青い眼。骨格がはっきりと見えるが立派な筋肉を纏っている。己の身体をすっぽり覆いそうな程の大きな翼、振り回せば山をも破壊しそうな長く硬い尾。ゆっくりと呼吸をしている。


 ディアンはゆっくり顔を下げると、額に触れるよう促してきた。手を挙げようとして、はたと気づいた。右肩から先が無かった。そうだ、本当なら右腕は喰いちぎられたんだった。シェラは左手を挙げて、そっと額に触れた。白い光が淡く額を照らす。


 刹那、全身に電気が走ったような衝撃を受けた。心の臓がどくん、と大きく鼓動する。シェラの目が大きく見開いた。真っ白な光に包まれ、ディアンの姿が見えない。身体は硬直し、手も降ろせない。


 微かに唸る声が耳に届く。ふう、と温かい息吹を背後に感じた。そして、両肩をそっと掴まれた。もう一度シェラは右肩を見ようとしたが、動かせたのは視線だけだった。目の端に鋭い爪を持ったディアンの手が映った。


『我の存在をようやく認めたか』


 竜の声が頭の中に響き渡る。酷い頭痛がする。思わず眉間にしわが寄るも、じっと耐える。


『我を恐れているか?』


 その問いに、一瞬躊躇う自分がいた。信頼してきたはずの相棒に対し、恐れてなどいないと即答できなかった。それが本音だった。


 僕は……正直、怖かった。僕の相棒となってくれた後も、本当に僕でよかったのか、諦めが悪い奴だと呆れられて、仕方なく相棒になってくれたのではないかと、そういった不安が最後まで消えなかった。互いの力を干渉せずに発揮し、数々の困難を乗り越えてきた。折り合いも良く、シェラの命に忠実だったディアン。それなのに、僕はずっと、君を恐れていた……。


 だから、君を守れなかった。


 けれど、君は僕を守ってくれた。


 竜騎士を志して過酷な修行をこなし、山に入って君と対面し、必死にしがみついて君を相棒にしたにも関わらず、不安と恐怖を抱き続けたまま生きてきた竜騎士など自分だけではないだろうか。酷い話だな、君は僕を信じてくれていたはずなのに……。


 竜騎士を名乗る資格はやはり無かった。本当は召喚士も僕には不向きのはずなんだ。形は違えど「相棒と共に生きる」ことは共通しているから。


 情けない。卑怯者。憎まれて当然。自己嫌悪が一気に湧き、溢れ出た。空色の眼から、しょっぱいものが止めどなく流れていく。頬を伝い、そして雫となって地に落ちていく。


 振り向こうとしたが、肩を掴まれたままなので動けない。面と向かってディアンにきちんと謝りたい。それなのに、竜はそれを許してくれなかった。


「ディアン……ごめん……なさい……」


 泣き崩れる事も許されず、ただ立たされたまま、子供のように泣きじゃくった。






「シェラ……大丈夫?」


 ヘイレンの心配そうな声で、シェラはいつの間にか眠っていたと気がついた。ハッと覚醒すると、起こしていたはずの上半身は、掛け布団の上に横たわっていた。


 視線だけヘイレンに向けると、彼はヒュッと息を吸った。目を丸くしている。


「嫌な夢でも見た?目が真っ赤だよ」


 思わず顔を両手で拭った。涙の跡が頬に残っていそうだった。顔を洗おう、そう思って起き上がろうとしたが、身体が鉛のように重かった。ヘイレンが抱き起こそうとシェラに触れた途端、わっと声を漏らした。そして自然と手の甲を首に当ててきた。


「酷い熱……それに」


 おもむろにヘイレンはシェラを抱きしめた。突然の事で目が点になる。


「呼吸が……。シェラ、休んだほうがいいよ」


 有無を言わさせずシェラは横にさせられ、布団をしっかり掛けられた。「起きちゃダメ」と釘を刺されると、ヘイレンは素早く浴室に消えた。かと思うと、水で冷やした濡れタオルを持って戻ってきた。前髪をさっと撫でて、額にそっと置かれた。ひんやりと、少しずっしりと、シェラの頭を冷やし始めた。


 心地良くなり自然とため息をついた。しかし、うとうとし出すのを、シェラは必死に我慢した。ラウルがいるとはいえ、寝ていては万が一の事があっても自分が守りにいけないじゃないか!


 だが、意に反して身体は睡眠を求めていて、シェラはついに微睡んだ。


 召喚士が眠りに入ったのを見て、ヘイレンは静かに支度をして部屋を後にした。宿の受付に言付けし、エクセレビスからトア・ル森へ続く門に向かう前に療養所を訪れた。偶然、ロビーで朝の一仕事を終えて休憩中だったミスティアと会えた。


「あら、おはようヘイレン。今日は森へ行くって聞いたけど、何か必要なものでもある?」


 回復薬でも用意してくれそうな勢いだったが、ヘイレンは大丈夫と断った。


「ひとり?シェラはどうしたの?」

「そのことでミスティアに話がしたくて」


 ヘイレンはシェラの状況を伝えた。ミスティアはこくこくと頷くと、少しの間ヘイレンをロビーで待たせた。彼女は魔法石のような物を持って戻ってくると、ポーチにしまってとわたしてきた。受け取って眺める。今まで扱ってきた魔法石よりも軽く、よく見ると注ぎ口のようなものがついていた。


「魔力を回復させる効果がある水が入っているの。飲んでもいいし、頭から吹っかけちゃってもいいわ。使わないかもしれなくても、お守りとして持っていって」


 ヘイレンは元気よくお礼を言うと、彼女は微笑んだ。


「後でシェラの様子を見に行くわ。竜騎士だった割には虚弱体質なのよね、あのヒト。やっぱりあの腕のせいなのかしら」


 ミスティアはあの腕が相棒ディアンのものであることは知らない様子だった。そのうちシェラから話すだろうと思って、ヘイレンは何も言わなかった。

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