予想外の訪問者
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フロラはリリアンを背後に庇いながら、げんなりと男たちを眺めた。
「なぁ、ちょっと俺たちと遊んでいこうぜ」
「奢ってやるからさ〜」
いかにもなナンパ男二人組がヘラヘラと笑いながらこちらに手を伸ばしてくるのを、半歩身を引いて避ける。
「連れと合流しないといけないので」
「あっ、今避けた? 俺のこと避けた!? 傷ついちゃったな〜」
「お? 慰謝料貰っとく?」
男たちは仲間内で笑っている。いや全く面白くないんですけど、とフロラは内心で突っ込んだ。
何故こんなことになったのかというと、ただただ悪目立ちしたからとしか言いようがない。
そもそもここは宿場町なので、滞在しているのは旅人が中心だ。そのため自然と男性の比率の方が高い。
女性自体が少ない一方で、旅の途中に一息ついて行きずりの女性と楽しみたい男は一定数存在する。
そんな中を身綺麗な女性二人が供も連れずに歩いていたら、まぁこうなるだろうということだ。
アースはそれを分かっていた──とは言わないまでも、多少予測はしていたに違いない。それでも二人で行かせたのは、実際に事が起こっても、フロラが余裕で対処できると判断したからだろう。
その信頼は嬉しくないこともないが、もう少しこう、具体的な忠告の一つや二つあっても良かったのでは?
胸中で文句を並べ立てながら、フロラは道を塞いでいる男たちを睨む。
「あの! 本当に遊んでる暇はないのでそこどいてもらえませんか? ……優しくお願いしてるうちに道を開けた方が良いと思いますけど」
「そ、そうですわっ、お姉様はお強いんですから!」
リリアンが背後からぴょこりと顔を出して加勢してくれる。
(……うん。気持ちはありがたいけど、それは可愛くて逆効果かな)
リリアンは伯爵家のお嬢様なので、やはりこういったことには不慣れなのだ。
思った通り、男たちはますます勢いづいてきた。
「ひええー? お姉様お強いんですか? 僕ちゃんこわーい」
「ヒャハハハ!!」
(面倒くさすぎる……もうやっちゃおうかな)
周囲には人通りがあるが、みな面倒ごとに巻き込まれたくないのだろう。遠巻きに見つめたり足早に過ぎ去ったりで、誰も近寄ってくるつもりはなさそうだ。
ある意味好都合だ、とフロラは思う。多少神力で攻撃しても無関係な人を巻き込まなくて済むし。
「そろそろどかないと、いい加減に……」
フロラが堪忍袋の緒を切らして両手に神力を溜め始めた瞬間、ザッと音を立てて一人の男が間に立ちはだかった。
背中まである真っ直ぐな銀髪が目の前で輝く。
「無理強いは美しくないのではないかな? お二人さん」
聞き覚えのある声──それも少し前、ちょうど舟で思い出していた存在の声に、フロラは目を剥く。
「美しいお嬢さんと時間をともにしたいのであれば、すべきことはこのように絡むことではなく、自分を磨くことだと思うぞ。
例えば清潔感だ。そんな汗と埃まみれで女性が喜ぶと思うか? せめて風呂に入ってから声をかけるべきではないかな。それに服も、貧相な旅装などではなく、最近の流行を取り入れた綺麗めかつ大胆なコーディネートで。もっと相手の心情を慮った行動を取る事で、君たちの未来は実に明るく」
「んだテメェ!」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
急に乱入してきて流れるように駄目出しを始めた男の存在にしばし呆気に取られていたナンパ男たちは、数拍後に我に帰ったのか、一気に逆上してナイフや剣など武器を取り出している。
「おや、そういえば剣を失くしてしまったのだったな。今は力も使えないし、これは困った」
じゃあ何故挑発したのか。
手ぶらで苦笑する男に、ようやく我に帰ったフロラが結界を張りかけた時、ギンっと刃を受ける音が響いた。
「どうした、結界を忘れるなと言ったのに」
「アース!」
「帰りが遅いから迎えにきた」
「……一応言っておきますけど、私だけでも対処できましたよ?」
こんなことで守られてしまったのが少し悔しくて唇を尖らせれば、アースがさらりとフロラの髪を梳く。
「もちろん分かっている。だが以前言ったはずだ。強い君を守るのは俺でありたいと。婚約者の我儘だと思って受け入れてくれると嬉しいんだが」
「ええ、まぁ。そういうことならその……ありがとうございます」
アースの漆黒の瞳が愛しげにこちらを見ている。彼の瞳の中に今まで通りの優しさだけでなく、確かな愛情のようなものを読み取ってしまえば、フロラは気恥ずかしさのあまりそっと俯くことしかできない。
本当の婚約者になってからというもの、アースが今まで以上に輝いて見えてしまっていけないのだ。
言うまでもなくナンパ男たちは秒速で制圧され、すでにジュドに縛り上げられている。後ほど治安隊に突き出されることだろう。この機会に自分の行動について見つめ直してくれると良いのだが。
──それはそうと。
「やあ、助かった。アース君と言ったかな? 恩に切るよ。剣を失くしてしまったのを忘れていてね。面目ない」
もう現実逃避も限界だ。長い銀髪を払い、豪快に笑う美々しい青年に、フロラは仕方なく……本当に仕方なく目をやる。舟で見た後ろ姿は見間違いなどではなかったのだ。
「こんな所で何やってるんですか、カリュスト!」
カリュスト。そう呼べば、青年の紫色の瞳が嬉しげに輝いた。
「お姉様、お知り合いですか?」
「やあ、その通りだ、お嬢さん。何を隠そう、私とフロラレーテは気心知れた神仲間──」
「ちょおおおっと待った! こっち来て! ……アース、リリアン、いったんコレ回収して宿に帰りましょう!!」
「お、お姉様!?」
アースはカリュストが言いかけた台詞で大体のことを察したのだろう。難しい顔をしてカリュストを眺めていた。




