38話
「はぁ……疲れたな……」
さすがに相手は俺の命を狙う刺客だ。
それだけの力があったし、気を抜いたら簡単に死ねたと思う。よくもまぁ、刺客相手に対応できていたよなぁ。……死ぬかもしれないという火事場の馬鹿力が出たのかもしれない。
事実、ステータスでは圧倒的に負けていた老人の攻撃を受け流せていた。そこだけはスパルタ指導をしてくれたエルに感謝しないと。
刺客は間違いなく強かった。
それこそ、本来なら確実に負けるくらいには剣の技術も、ステータスでも大きく負けていたからね。こうやって勝てたのは手加減しても尚、刺客以上の力で毎日、捩じ伏せてくれるエルの速さに慣れていたからだ。
アレはね……人間が何とかできるものじゃないよ。何をしても的確な反撃をされて、普通に打ち合ったのならステータスの差のゴリ押しでボコボコにされてって……エルが相手の時は勝てる気が少しもしないからなぁ。
それに比べたら……まだマシだ。
剣の打ち方は見えるし、予想の範囲内の攻撃しかしてこない。速度や筋力で負けようと予想で対応できるのなら何とかはできるからね。
「お疲れ様です」
「あー、うん、ありがとう」
ニコニコしながら労ってくれた。
でも、あの笑顔の奥にあるのは労いの気持ちよりも、リリー達が教えた事を実践で活かせていた俺の成長を喜んでいるように感じる。確かにリリーのおかげでもあるから文句の一つも無いけど。
っていうか、俺がいなくてもリリーだけで何とかできたんじゃないかな。明らかに子供の刺客を圧倒していたし、老人に対しても攻撃を受けるだけなのに押していたからね。
そう考えると……本当に遠いんだなぁ。
「アンジェリカやアンナ達のもとへ戻ろう」
「そうですね」
二人とも無事なのは分かっている。
それでも新手が来る可能性を考えたら……さっさと宿に戻るべきだろうな。竜の事も含めて少しばかりやらなきゃいけない事が増えてしまった。本来なら刺客の事なんて考えなくて良かったんだけどな。
リリーには先に戻ってもらって俺はそのまま回収に向かった。とはいえ、仕舞い忘れを回収するだけだから大して時間もかからずに廃村を後にする。
皆は廃村から少し離れた場所にいた。
竜が二人を運んでくれたみたいだ。少しだけ不機嫌そうな顔をしていたけど、頭を撫でたら嬉しそうに喉を鳴らしてくれた。可愛いからもっと撫でてあげたいが他の人達が期待した顔を見せ始めたからやめておく。
「ご無事で何よりです」
「日々の鍛錬のおかげだよ」
「シオン様最強だー」
アンナに誇らしそうに胸を張られた。
最強……というには物足りなさ過ぎるステータスの低さとスキルの少なさなんだよなぁ。単純にステータス外での俺の強みが発揮できただけ……って、そう考えたら俺ってすごくないか。
「ああ、俺は最強だよ」
「最強かは置いておいても強者の部類には含まれると思いますよ。襲ってきた二人は暗殺者の中でも上位の強さを持っていました。さすがはシン様の血を強く継いだものですね」
なるほど、あの二人で強い部類なんだね。
本当に規格外の人と戦っていたせいで分からなかったけど、俺も人並み以上には成長しているみたいだ。転生してそこまで時間も経っていないから優秀な部類なのは間違いなさそうだね。
「私が不必要になるのも時間の問題ですかね」
「リリーが不必要になる事なんて無いよ。強いし優しいしで嫌じゃなかったらずっと俺のために働いて欲しいとすら思っている」
「嬉しいです……騎士団長辞めようかな」
うっわ、めちゃくちゃ小声だったけど、ものすごく不穏な事が聞こえてしまった。騎士団長をやめようかなって……どれだけ嬉しかったんだよ。
いや、一緒にいてくれるのは心強いから俺からしたら嬉しいんだけどさ。絶対にシンから何か言われてしまうから面倒そうなんだよなぁ。後、後継者だったり、女性の立場の向上だったりはどうするんだよ。
「それはシオン様の隣で結果を出すだけです」
「え、なに? 心でも読めているの?」
「どうかしましたか?」
ニコニコなのが逆に怖過ぎる。
確かに俺のもとにいたら色々な面倒事に絡まれそうだからなぁ。活躍する機会は確かに多そうだ。俺からしたらあんまり嬉しくは無い事実だけど仕方が無いか。
「そのうち引き抜く事にするよ。俺もリリーが欲しいし」
「私が欲しいなんて……大胆な事をおっしゃいますね」
「うん! 意味が全然、違うね!」
少しだけリリーへの警戒心を高めておこう。
この人もこの人でエル並にグイグイ来るタイプの人間だ。可愛かったら何してもいいってわけじゃないんだぞ。リリーが良くても俺の童貞心が耐えきれなくなるんだ。
「グルゥ」
「お前だけだよ……俺の事を本当に分かってくれるのは……」
大丈夫だよって言いながら首を俺に擦り付けてきた。本当にこの子は良い子だ。エルやリリーのように強くて優しいのに加えて、お淑やかな面も兼ね備えている。もうこの子を嫁にしてもいいかなって思えるくらい良い子だ。
「あ、そうだ。ご褒美をあげるって言ったよね」
「ッ! グルゥ!」
「名前とかどうかなって思っていたんだ。君の事を気に入ったからさ。呼ぶ時とかに困るのが嫌だったんだ。それに名前呼びの方が親しくなった気になるだろ」
一瞬だけキョトンとした顔をされた。
でも、すぐにその口角を人間のように大きく釣り上げて笑顔を見せてくる。それだけじゃなくて顔を執拗いくらいに舐めてきたから本気で嬉しいんだろう。
「分かった分かった。もう可愛い奴だなぁ」
「グルゥ! グルゥ!」
「待ってくれ。少しだけ考えたいんだ」
戦闘中にも考えていたけど、名前は一生モノだからなぁ。やっぱり、適当につけてハイ終わりは俺としても嫌だ。子供にキラキラネームを付けたくないとの同じ気持ちだよ。
ってか、親ってこんな気持ちで名前をつけてくれていたんだね。シオンって付けてくれたシンには感謝しないと。これで転生した先がアスモデウスとかだったら泣きそうになっていたと思う。誰が色欲の魔王だよって叫んでいた自信がある。
リュウ、ユウ、ドラン……できれば俺の名前からも入れてあげたいなぁ。シリュウは何かカッコ良過ぎて女の子らしくない。シドは……何か嘘を付きそうだから嫌だなぁ。
「シオリ、シオリはどうかな」
女の子らしくて可愛い名前じゃないかな。
シオンのシオとリュウのリでシオリ。栞って本の途中に挟むものだよね。それと一緒に俺という本の……って、何かプロポーズみたいで恥ずかしいから考え込むのはやめよう。
「シオリ、いいなまえをありがとう」
「ッ!?」
今、聞き間違えたか?
明らかにシオリが人と同じ言葉を話したように感じたんだけど……確かに一緒にいて何を伝えたいのかは分かっていたけどさ。ここまで明確に言葉として聞こえた事は無かった。
「シオリ……話せるのか」
「ううん、あるじになったからことば、わかるだけ」
若干、幼稚な話し方ではあるけど間違いなくシオリの言葉が分かる。これは……結構、悪くないなぁ。主になったから言葉が分かるようになったって事は、シオリが俺を主と認めているって事だし。
「俺が主でもいいのか」
「うん、ほかじゃいや」
「そっか、ありがと」
本当にシオリは……うん、絶対に後悔させないようにしてあげないと。俺を主として認めてくれたからには力を貸したいと思える男にならないといけないな。
「のって、つかれたからかえろう」
「あ、ああ……」
「あるじがのるとあんしんする」
疲れているって言っているのに乗っていいのかって思ったけど杞憂だったか。……というか、逆に乗って欲しいんだね。竜の考える事ってあんまり分からないなぁ。
「りゅうにはほこりがある。みとめたひといがいはのせたくない」
「へぇ……って事は俺以外を乗せたくはなかったのか」
「うん、でも、あるじはふたりをたいせつにしている。だから、のせてあげた」
それで不機嫌そうな顔をしていたのか。
優しい姿も俺の事を好きだからって思うと少しだけ優越感があっていいね。強くて優しくて気高い女の子だと思うと可愛いが過ぎるよ。
「あるじもかっこいいよ」
「はは、ありがと」
シオリの頭を撫でてあげた。
その後、振り向いて三人の顔を見る。分かっている顔をしているリリーと何の話をしているのか分からなさそうにしているアンジェリカ、疲れから眠たそうにしているアンナ……どれを見ても戦ったご褒美には良過ぎるものだ。
「帰ろう。我らがお姫様もお眠のようだからね」
その言葉にアンジェリカとリリーが笑う。
満足な気持ちのまま、帰路に着いた。
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