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27話

 それからまた一時間は経っただろうか。

 一応、リリーが飲み始めた時間を見たはずなのだが生憎と覚えていない。というか、自分でも分かるくらい酔っている。


 確かにリリーは酒が強いらしい。

 エルとは違って飲み慣れた感じで、それでいて早いペースで飲むから俺も飲まれてしまった。とはいえ、ある程度の度数はあるからリリーも酔っているようだが……。


「それでお父様から縁談の話ばかりをされるんですよ。お前はもう相手を見つけなければいけないのに剣ばかりにかまけている。相手を見つけられないのなら私が見つけてやろう、と」

「そっか、大変だね」

「大変なんてものじゃないですよ。婚約相手を見つけると言って出てくる名前は全員、五十を超えています。誰がそんな人と生涯を共にしたいと思いますか」


 こんな感じでリリーに絡まれている。

 二十六になったせいで行き遅れと言われているとか、家族はこんなにも私の事を理解しようとしないとか、結婚なんてしたくないとか……日本の女性でも言いそうな事を永遠とグダられていた。


 ぶっちゃけ、良い魚のツマミで悪くない。

 というか、酒が余計に進んでいるのもリリーがグダグダと絡んでくれているからだろう。今まで見ていたリリーの姿は優しいお姉さんに近かった。それが一気に日本人でも親近感の湧く話題をしてくれている。


 まぁ、気分の良い話では無いけどね。

 ただこんな話題、ある程度、心を許していないと話してくれはしないだろう。それに上手く事を運べれば自分の配下にできる可能性すらある。エルとリリーを従えさせているという事は大国一つ分の力を持っているのと同義だ。それだけの影響力が間違いなくあると思っている。


「リリーは好きな人とかいるの」

「えーと……いるにはいます。ですが、かなり高貴な御方で私如きでは隣に立つ事も憚られてしまいます」

「ふーん、すごい人を好きになってしまったんだね」


 リリーの本家は地位の高くない家だそうだ。

 話で聞いただけだから違う可能性もあるけど、それでも親が自分達の地位を高めるためにリリーを利用しようとしている事には違いない。剣にかまけて、と言われたようだし剣の実力という面ではリリーを評価していないんだろう。


「白百合騎士団の団長でも厳しそうな人か。もしかして、シンお父様のような公爵家の人とかなのかな」

「当たらずとも遠からずですよ。その人は若くて、剣の才能もあって、家柄もとても良い人なのです。高々、名誉貴族に近い男爵家の娘が見初められるわけもありません」

「ふーん、リリーの笑顔を見せれば簡単に落とせそうに感じるけどね」


 そう言うと嬉しそうに笑ってくれた。

 エルもそうだけど本当に可愛い人が身近に多いな。若干、化粧はしていると言っても素に近い状態でこれだもんね。年齢からしても二十六歳なんてまだまだだ。転生したおかげで十一歳になったけど元の俺なんて二十四歳のヒキニートだからなぁ。


 言ったら悪いが俺のタイプの範疇だ。

 高校一年生の時に三年生の先輩に恋をするような、それに近い感覚だからリリーの言うような行き遅れの意味がよく分からない。二十六歳で行き遅れなら俺なんてもっと結婚なんてできない存在だっただろう。


「本当にシオン様は御上手ですね。褒めても私の笑顔しか出ませんよ」

「可愛い子の笑顔を見れるなら褒めて正解だったな」

「もう……」


 うっわ、体を委ねてきたんだけど。

 これはアレだよな、漫画とかの会社の飲み会で描かれている『この後、一緒に一休みしませんか』っていう合図だよね。目を閉じながら体を委ねてきているし……背中とかに手を回した方がいいのだろうか。


「ッツ……!」

「どうかしましたか」

「い、いや、変なところに酒が入りそうになっただけだよ」


 良かった、誤魔化し切れたみたいだ。

 嫉妬からなのか、思いっ切り右膝をエルに抓られた。いつものじゃれ合いとかじゃなくて恐らく本気で、というか、肉が抉れたんじゃないかってくらいの痛みだ。多分だけど私にも構ってって事なんだろう。


 未だに膝に置かれたエルの手を右手で握ったら嬉しそうに身を委ねてきたし正解なんだろうなぁ。うん、一言で言って酒を飲めない。利き手はエルに掴まれたままだし、左腕はリリーが離そうとしないせいで使えないからね。


 さてと……どうしようかな。

 恐らく右手を振りほどいたらエルが暴れてしまうだろう。左手を使えるようにしたら折角、リリーとの仲が近くなったのに離す原因になりかねない。そこら辺を加味して角を立てない方法があるとしたら……あ、良い事を思い付いた。


「エル、それを食べさせてくれないかな」

「了解です」


 小声でエルに言って食べさせてもらう。

 こうしたらエルは喜んでくれるし、美女に食べさせてもらえるしで役得でしかなくなる。ましてや、エルに囁かれて耳が幸せになったからな。本当に正解だったらしい。


「ありがとう」

「いえいえ、こちらの方こそ、ありがとうございます」


 うん? なんかよく分からない返答をされたな。

 でも、両方ともが感謝するって事はこれからもお願いするか。というか、食べさせてもらうようにしたら手を繋がずとも機嫌を損なわないのでは……。


「シオン様、あーん」

「あ……ありがとう」

「いえいえ」


 えーと……流れが悪くなってきたな……。

 リリーはリリーで対抗心からか、食べさせようとしてきた。まぁ、拒否する理由も無いからいいんだけど問題は俺がどうこうじゃない。俺が受け入れてしまったせいで反対側にいる美女から発せられるオーラが……。


「シオン様」

「……ありがとう」

「美味しいですか」

「うん、自分で食べるよりも美味しく感じるなぁ」


 何とか機嫌を取らないと右手が死ぬ。

別におべっかを言ったわけではない。それでもかなり言葉は選んだ。だって、微かに見えるエルの目が笑っていないんだよ。笑顔なのに目は俺の反応をしっかり探ろうしていて少しのミスも許されない。


「シオン様」

「……はい……」

「美味しいですか」

「とっても美味しいよ」


 一言一句、同じ言葉をリリーから言われた。

 本当に怖い……今更だけどリリーの言っていた人が誰なのか分かってきた。恐らくアレは俺の事だ。いや、俺じゃなくてもいい。どちらだったとしても全ての条件に合うような俺なら五十過ぎたオッサンよりもリリーとしては嬉しいはずだ。


 多分だけど、これは一種のアプローチ。

 そしてエルはエルでリリーに俺を取られないように必死にアプローチし返している。もっと言えば俺はエルに好意を伝えているからな。それにキスとか、その……下の方だって将来的にするって約束もしている。


 静かな修羅場……どう対処すべきなんだろう。

 このままだとエルとリリーにアーンされまくって腹が爆発して死ぬとかいう、漫画でも起こりえない事件に発展する。さすがにそこまではいかなくても酒の影響も合ってずっとトイレに籠る結果になりかねない。


 仕方ない……酒と水で流し込もう。

 でも、それだけじゃ俺の腹が先に潰されて終わってしまうからな。俺の前に……二人を酔い潰すしかない。勝てるか勝てないかじゃない、生きるか死ぬかの最悪な二択なんだ。


「二人とも一緒に酒でも飲もうか」


 限界なんて関係が無い。

 死なないために超えるだけだ。






 ◇◇◇






 ええっと……俺は何をしていたっけ。

 頭が少しだけ痛い。二日酔いレベルでは無いけど気分的には怠くていい気分では無いな。


 昨日は……そうだ。

 確か二人に永遠と食べさせられそうになって酒の力を借りたんだったか。……こうやって生きているって事は恐らく成功したんだろう。




 アレ……上半身裸だ……。

 ってか、パンツ一丁だし。布団にくるまっていたから気が付きづらかったけど……さすがに寒い。一旦、体を起こして服でも着よう。二度寝は着替えてからでも問題は無いし……。


 あ……えっと……。

 布団を軽く捲ったら左右にエルとリリーがいた。それも下着姿で他には何も着ていない。もしかして……本当に昨晩はお楽しみでしたね状態なんだろうか。


 いやいやいや……さすがに信じたくないな。

 まさか……俺は昨夜のうちに童貞を……それも二対一とかいうアブノーマルなやり方で……。


 はぁ、頭を冷やそう。

 仮に手を出していたのなら……責任を取ればいいか。エルもリリーも昨日の発言からして拒否したりしないはずだ。


 一度、体を起こして洗面所に向かった。

次回予告

シャワーを浴びながら思い出したのはエルとリリーの言動だった。思い出せない事が多々ある中で、シオンは酔いを覚ますためにコーヒーを飲み始める。その時に目を覚ましたリリーは酷く困惑しており、そしてシオンの優しさから本音を漏らしてしまう。それは積極的な姿とは別物で……。


次回『私を忘れて』



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