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19話

「ふふ、デートみたいですね」

「確かにそうだな」


 宿を出てすぐ、エルにそう言われた。

 今日は二人だけで冒険者ギルドの依頼を受けるつもりでいる。戦闘を含めているのにデートと呼べるかは微妙なところだが、雰囲気からして似たようなものではあるかもしれない。


 アンジェとアンナは別行動だからな。

 明日からは共に行動する予定だけど今日はリリーが指南をするらしい。二人は魔物との戦闘経験が浅いから俺と一緒だと迷惑をかけてしまうかもしれないから、と朝食の時に言われた。確かにバールの街に来て初めての朝だ。そういう事に時間をかけてもいいだろう。


 にしても、エルが若干、嬉しそうにしている。


「そんなに嬉しい事か」

「ええ、依頼が終われば街で一緒に観光できますからね。戦闘は何度も共にしましたが遊ぶのは今日が初めてです」


 なるほど……言われてみればそうだな。

 大体が戦闘だけか、もしくは遊ぶ時があっても二人っきりではないかのどちらかだった。こんな事で喜んでいるということは脈アリなんだろう。まぁ、それは言わずもがな、前から分かっていた事ではあるけど。


「分かったよ、できる限り早めに終わるようにする」

「違いますよ。一緒にいられればそれでいいんです。一緒にいられて遊ぶ事もできるから楽しみなんです」


 俺の頬をツンツン突きながら笑う。

 悪かったな、女心の分からない奴で。ただエルの気持ちをある程度、汲めているだけ鈍感というほどでは無いと思うのだが。もしかして……デート以上の何かを望んでいる可能性もあるのか。


「どうかしたの、リオン」

「あ……いや、何でもないよ。ネロ」


 自分の中で勝手に考えが飛躍しただけだ。

 そういうのは……少なくとも自分からエルにキスできるようになってから。したい気持ちはあるけど絶対にここぞって言う時にヘタレてしまう。これ程に自分の考えに自信を持てる時の方が少ないんじゃないか。


「なら、いいの」

「そうそう、気にしないで」

「そう言われると気になっちゃいます」


 きっとネロとしての会話だからだろう。

 普段ならしてくれないような砕けた話口調、それがすごく新鮮で俺の胸をドキドキさせてくる。エルであってエルじゃないような不思議な感覚だ。これでメイクとかしていないんだから……本当にすごいよなぁ。


 アイシャドウとか……あげてみるのもありか。

 個人的には正反対にエルとは位置する地雷系メイクとか見てみたい。他の女性陣にもメイクとかしてもらおうかな。それこそ、マリアとかに地雷系メイクを……いや、それは普段と変わり無いか。やってもらうのなら別のメイクだ。


「何を、考えていたんですか」

「……聞き出したいからって胸を押し付けるのは少しばかり、はしたないんじゃないかな。何をしようと俺はネロが大好きだけど人前でそんな姿を見せて欲しくない」

「なら、二人きりの時にしますね」


 これは絶対に俺をからかっているな。

 今だって普段ならしないような手を繋いだりとかだってエルの方からしてきている。ましてや、離さなれないようにか強く掴んでいるし。やり返したい気持ちはあるけど何をしても喜ばれるだけのような気がするな。


「夜にしてくれる分にはいいよ。今日も一緒に寝るんだろ。その時に同じ姿を見せてくれ」

「へ……え……あ……」

「いつも美しいけど今日は一段と可愛いね。そんなに俺とのデートを楽しみにしてくれるのなら頑張らないといけないな」


 相手がすごく綺麗だからってだけだ。

 別に女性の経験が少なかったわけじゃない。それなりには青春のようなものは味わってきたし、扱い方も学んできている。エルに関して言えばアイツらに比べれば純粋で初心だ。


 なのに良いように俺を扱えるわけ無いだろ。

 ただキスをしようとしたら戸惑ってしまうだけで他の有象無象相手ならできる。何なら日本にいた時の彼女とは別にできていたし。本当に相手が可愛過ぎるのが悪いだけだ。


「いきなり……男らしい姿を見せないでください」

「これが素だよ。普段はネロに嫌われたくないから見せないだけ」

「うぅー……」


 さっきとは逆にエルの手を引いて進む。

 恥ずかしがりながら歩かれるとこっちも申し訳なくなってしまう。だけど、これくらいやらないと今日はずっとこの調子でいかれていた。別に嫌じゃないけど本気で人前ではやめて欲しい。


「ほら、着いたよ。さすがに手を繋ぐのはここまでだ」

「うぅ……」

「俺の事が好きなら手を離して。嫌いなら」


 おっと、話の途中で手を離してくれた。

 気が付いていないようだけど手を離してくれたって事は、俺の事が好きって言っているのと同じだ。ってか、何でいきなりお姉さんムーブみたいなのをし始めたんだろう。二人っきりがエルの何かを触発させたか。


「ありがとう、俺も好きだよ」

「はっ! 違います違います!」

「そっか……嫌い、なんだ」


 あらら、壊れてオモチャみたいになった。

 ずっと「違います違います」しか言わないし。まぁ、意地悪な事をした俺も悪いけど最初に仕掛けてきたのはエルだろうに。本当にやられるのは弱いんだなぁ。


「冗談はここまで。これだと中に入れないでしょ」

「……わ、わかりましたよ」


 頬に手を当てて目を合わせてやる。

 これでようやくエルも正気を取り戻したみたいだ。今なら頑張ればキスができそうな気もするけど……いや、ムードもクソもないな。それにまた壊れてしまったら意味も無い。


 エルの前を歩きながら冒険者ギルドに入った。

 中はルールの街と変わりない酒臭さが漂っていて気分が悪くなる。ましてや、冒険者達のガラの悪さと言えばこの上無さそうだ。薄汚いわ、剣を振り回しているわ、ハゲしかいねぇわ……来た事を後悔するレベルだな。


「おい、ガキ。ここは遊び場じゃねぇぞ」

「うっせぇよ、ハゲ。酒飲んで遊んでいるのはお前だろ」


 中に入ってすぐにハゲに怒鳴られた。

 言っちゃ悪いが見るも無惨な顔をしている。沸点も低そうだな。俺の返答に剣を抜こうとしているようだし。もしかしてハゲを気にしているのか。もっと気にしなきゃいけない部分があるような気もするが。


「言ってくれるじゃねぇか」

「酔って暴れる事しか脳の無いハゲは黙っていろよ。俺は依頼を受けたいだけだ」

「ハゲハゲ言うんじゃねぇ! ってか、俺はハゲじゃねぇ! スキンヘッドっていうイカした髪型でハゲじゃねぇんだよ!」

「ハゲハゲうっせぇよ、ハゲ」


 おおっと、ピキピキしてきたなぁ。

 ってか、目の前のハゲ以外はゲラゲラ笑っているだけみたいだ。全員が全員、俺を迎え入れないってわけじゃないのか。人によっては「やるじゃねぇか、あのガキ」とか言っているし。


「リオン、そのハゲは無視して進もう」

「そうだね、ネロ」

「ちょ、ちょっと待て!」


 うっわ、ちょっと見たくなかったな。

 俺の肩を掴もうとした男の手を問答無用でエルが叩き落としていた。何か嫌な音も聞こえていたし男も苦悶の表情でしゃがみこんでいる。なのに、当のエルは爽やかな顔で俺の背を押してきた。


「このくらいしないと絡み続けてきます」

「はぁ……そうも言っていられないだろ」


 俺の戸惑う視線を感じたからか。

 エルはそう言って俺に笑いかけてきた。だけど、それで済むのは俺が貴族である事をバラした上での話だ。極力、他者との問題は避けたい俺からすれば角が立つ行動は少しでも抑えたい。


 安いポーションを買って小袋に手を入れる。

 そこから取り出したように見せて男の足元に転がしておいた。言うて大銅貨三枚程度、恵んでやる分には余裕がある。とはいえ、同じ経験はもうゴメンだな。後でエルにしっかりと注意しておかないといけない。


「これでチャラだ。もう二度と絡んでくるな」


 男はただ俺を睨んでくるだけ。

 マップでは赤い状態だから間違いなく復讐を考えているだろうな。だが、この場にいる人の大半は無関心のままみたいだ。どうやらコイツは仲間と呼べる仲間は少ないらしい。


 ちゃっちゃと適当な討伐依頼を受けて外へ出る。

 外へ出てからは変わらずに手を繋いだ。まぁ、簡単に人の骨を折れるような手だから少しだけ怖くもあるけど。いやいや、それでもエルは俺に対して同じ事はしないだろう。……しないよな?

次回予告を考えるのが難しい部分なので(ネタバレになりそうだからです)サブタイトルだけ出しておきます。


次回『本当の自分』


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