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3話

「それを……私に聞くのですね」


 鋭い視線に冷や汗が流れていく。

 咄嗟に出たのは嘘でも真でも無い、心からの一言だった。それもあってからか、シンも俺の目を見つめるだけですぐに返答はして来ない。その質問をしたって事は俺に対して疑念を抱いているって事だ。


 だからこそ、俺の返しに驚いているんだろう。

 俺からしたら何を言っても元のシオンらしい言葉を口にする事は出来ない。例えば言い合う相手が目の前にいるシンとかで無ければ嘘八百で丸め込む事は出来なくは無いだろう。でも、相手は公爵家の長でもあり、大きな都市を治める存在でもある。こう聞いてきたって事は勘だって人よりも優れているのは間違いない。


 色々な悪意を浴びてきた存在に嘘は通用するか。

 まぁ、生半可なものでは看破されて首を跳ねられていた可能性もあるからな。そう考えると反射で口にしたにしてはすごくいい返事だった。シンの反応が悪くないのなら……演技をせずに思う事を口にするだけか。


「今回の件、マリアから話を聞かせていただきました。それを加味すれば暗殺者に襲われ命からがら生き残った私は、云わばルール家の恥とも言える存在でしょう」

「……そう捉える貴族もいるだろうな」

「ならばこそ、ルール家から出ろと命令されたとしても甘んじて受ける所存です。もちろん、着の身着のままと言うのであれば反論の一つや二つはさせて頂くつもりですが」


 ぶっちゃけ、それも手段の一つではある。

 残るメリットと出ていくメリットのどちらが大きいかって考えれば、どっこいどっこいでもあるんだ。何よりも俺の発言で隠さずに喜ぶ兄貴もいるくらいだし。ただマリアは悲しそうな顔を浮かべているから……それを見ると俺が新しいシオンとして残ってやりたい気持ちにもなってしまう。


 とはいえ、それを決めるのはシンだ。


「シオン、いや、シオンかも分からぬからな。今だけはお前と呼称しておこうか。……して、お前は出ていく選択と残る選択のどちらを取りたいと考えている」

「どちらを取りたい、ですか」


 なるほど、俺の意見を聞いてくるのか。

 まさか聞いてくるとは思っていなかったからな。てっきり、シンが望む選択通りに動けばいいと考えていたから……簡単に返答が思い付かない。考え方によってはシオンとして生きたいか、シオンという存在を捨てて生きるかの二択だ。折角、転生したのだからゼロから始めるのも悪くは無いと思う。


 でも、俺の固有スキルを考えれば残るべきだ。

 公爵家の息子ともなれば一定の収入が見込めるからな。貰ったお金で早く、そしてより強くなるのも難しくは無い。命を狙われる危険性とかを考えれば必ずしも良いとは言えないけどな。


 どちらを取っても良いのなら……。


「お前としての立場で話すのなら……シオンとして生きたいと思っています」


 マリアが笑ってくれる選択をしたい。

 元の体であるシオンとして生きていたいかな。お金がどうこう以前にシオンとして新たな命を貰った以上、そこに何かしらの意味があるはずだ。もしかしたら何も意味は無いかもしれない。でも、間違えてもいい今だけは……運命ってものを信じてみたいと思ってしまうよ。


「ふむ……それなら許そう」

「いい、のですか……?」

「構わないよ。それこそ、ここで君を外に放り出してしまうとマリアから噛み付かれてしまうからね。マリアのシオン愛は私でも手を焼くほどなんだ」


 貴族らしからぬ、ケラケラと笑っている。

 真意が掴めないせいでボーッと眺めてしまっていたが、シンはそれを見てより声を大きくしているだけだ。本当に追い出すつもりは無いんだろう。だって、しっかりとシオンでは無い《《お前》》としての意見を聞いて答えを出したんだ。


「それに私からすればシオンの覚悟を知りたかっただけだ。話し方や考え方に違いはあれど、見た目や意識がシオンであれば追求はしない」

「……私がシオンじゃなかったとしてでもですか」


 シンは何も言わずに首を縦に振った。

 よく分からないな……それで公爵家としてやっていけているのか。簡単に受け入れられたせいで拍子抜けしてしまったというか、罠の可能性すら浮かんできてしまう。話からして罠って事は無いと思いたいが……用心するに越したことはないか。


「待てよ! 俺は許したくねぇぞ!」


 声を荒らげたのは……ガタイのいい男だった。

 俺の言葉で喜んでいた男だ。確か名前はリール、長男だから家族が消えて嬉しくないはずなんだけどな。現にもう一人の兄であるルフレはシンと同じく若干、悲しそうな顔をしている。何か恨まれる事をシオンはしていたのか……それとも……。


「意図をきかせなさい」

「単純にシオンらしくないからだ。話を聞いていて少しでもシオンが本当に生き返ったと感じさせてくれたのであれば俺も認めた。でも、コイツの口調や素振りの全てがシオンらしくねぇ」

「そうかなぁ、私はシオンの片鱗を彼に感じたけどねぇ」


 いきなり口を挟んだのはルフレだった。

 口調はとても穏やかでユルユルとした発言ではあったけど、リールを逆撫でするには十分だったみたいだ。立ち上がってルフレに顔を近づけたかと思うと大きく舌打ちをしてみせた。


「そう感じるのなら節穴なだけだ」

「それは暗に私の目も節穴だと言いたいのかな」

「ああ、自慢の息子が生還して目が眩んでいるように感じるぜ。シオンの死で一番に泣いていたのはマリアでは無く父様だったからな」


 他人にしか感じられないから追い出せ、か。

 それが正解なんだけどな。ぶっちゃけ、ルフレとシン、マリアが例外なだけだ。リールが口にしているように他人に対して息子の片鱗が見えるから残しておくと言うのは節穴としか表現出来ない。仮に似ているとしてもシオンと俺が似ているだけという可能性すらある。


「俺からしたら戦えもしない癖に吠える馬鹿が死んだだけだ。仮に生き返ったとしても吠えるだけの駄犬に残っていて欲しいとは思えない」

「ふむ……そこに関しては否定しておこうか。今のシオンは間違い無く誰よりも強くなれるだろうな。もちろん、父親としてでは無くシン・ルールとして胸を張って言える」

「……俺にはそう見えないけどな」


 リールの目は納得したようには見えない。

 シンの見る目は……確かに間違っていないだろうな。全ては俺次第ってところではあるけど俺の持つスキルはシンの見立て通り誰よりも強くなれるものだ。とはいえ、一朝一夕に強くなれるわけではない。そこら辺が俺次第って部分だ。


 でも、そこまで言われるのなら……。


「気に入らないのであれば出ていくつもりではありますよ。もちろん、それなりの対価を貰ってとはなりますけど」

「他人かもしれない存在に払う対価などあるか」


 ふむ、そうなると話は別だな。

 体だけとは言っても元はルール家の息子を何も渡さずに外へ出す事は貴族としても出来ない。仮に隠していたとしてもバレたら体裁どころで済む話では無いだろう。まぁ、知識の無い俺が考える想像でしかないけどな。


「それは許せないな」

「なぜですか。本物かも分からぬ者に何も与えないのは当然の話です」

「では、仮に本物であった場合はどうする。ましてや、他の貴族からすればシオンという存在の区別は付かぬだろう。そこを突かれた時にどう反論するつもりだ」


 リールは何も言い返せない。

 どこか苦々しげに俺を睨んでいるだけだ。何というか話を聞く限りだと本気でシオンを嫌っているように感じるんだけどな。まさかとは思うけどシオンを殺させたのってコイツなんじゃないのか。欲を出し過ぎて自分の評価が最低まで落ちている事に気がついていない。


「馬鹿だな」

「何を……ッ!」

「失礼、人の事を下げる割には大して頭も回らないようでしたので。記憶の無い私からすれば貴方のような存在を兄と呼ばなくて済んで本当に嬉しい限りです」


 顔を真っ赤にしてプルプルと震え出した。

 今にも殴りかかりそうな雰囲気だが出来ないだろう。だって、今は父親が目の前にいるわけだし。それに殴りにかかったとしても周囲の騎士に止められれば全てが無駄になってしまう。


「ふふふ、その言い回しを聞いて少しだけ安心したよ。シオンなら似たような事を言っていただろうからね」

「ええ、だから、私はシオンが生き返ったと言ったではありませんか」

「うん、マリア姉様の言っていた通りだったよ」


 爽やかな笑顔でルフレは俺の方を見てきた。

 モテているんだろうなぁ。本当にシオンへ同じ血が混ざっているのか疑問に思うくらい綺麗だ。日本にいたらモデルとかでやっていけそうなくらいに細く高い。どうせならルフレとして生まれたかったって感じさえするよ。


 まぁ、生まれ変われただけ幸運か。


「私も父様と姉様に賛成するよ。シオンが本当に記憶を失っただけの可能性が高くなってきたからね」

「ルフレまでも……」


 おっと、そこでルフレも助け舟を出すのか。

 明らかに四面楚歌になるとばかり思っていたが案外と想像通りには進まないらしい。もちろん、良い意味でだから俺からすればありがたい限りだ。ただ残れたとしても……この確執がある以上はより注意して生きていかないといけなさそうだね。今だって噛み殺さんとばかりに睨んできているし。

次の投稿は12時です!

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