赤壁の守護者3
結論から言うと、私は悪魔から魔法について教わることになった。
悪魔の理想は、私が杖を用いて魔法を使い、魔法少女として戦って欲しい。
とのことだったが、父が猛反発した。
私本人よりも、父の方が話している時間が長かった程だ。
私のことを話しているのは理解していたが、私が口を挟むことのできない会話に飽き、うとうとし始めていると、一先ずの妥協点ができたらしく
『一先ず魔法を使うのは父か母が見ている前だけ、護身ができる程度まで魔法を使えるようになってから後の事は考える』
という方針に固まったそうだ。
私としては、魔法というのがどんなものなのか分からないし、どうするべきなのかも分からなかったからパパが話をしてくれて良かったと思いつつ、私の誕生日なのに、そんな雰囲気じゃ無くなってしまったことが悲しくてしかたがない。
話が終わると、悪魔は来た時の亀裂に戻り、帰っていった。
「じゃあ、明日また来るよ。」
という去り際の言葉通り、翌日にまた亀裂を通ってやってきたのだが。
「茜ちゃん、君にまずは変身して貰うよ。僕も色々悩んだんだよ。昨日の今日で攻めてくるEvilsもそう居ないと思うけれども、安全だけを考えるならやっぱり障壁の魔法は使えるようになるべきだろうけど、変身していない状態で障壁を使えるようになったところで出力が足りないと思う。それに杖を使えば変身しなくても魔法は使えるけれどもそれは君の力というよりも杖の力だし、茜ちゃんのためにもならないと思うんだよね。」
リビングに現れた悪魔の第一声がこれだ。
朝御飯としてオートミールを食べていると、悪魔が喋りながら亀裂から現れた。
「ご飯食べてるから待って」
亀裂から出てきたことには驚きつつも、食事の邪魔をされたことに対する不快感が勝ち、しゅんとした悪魔が私の方を見ているのを無視しながら、ご飯を食べ終えた。
食事を終えた私は、既に仕事に出掛けたパパが居ないため、ママを呼び、悪魔に声をかけた。
「何をすれば良いの?」
声をかけられた悪魔は嬉しそうに話し始める。
「ああ!聞いてたかは分からないけどもさっきも言った通り先ずは茜ちゃんには変身できるようになって貰おうと思うんだよね。昨日君にあげた赤い杖、そう、それだ。その中には魔法が詰まっている。そこから変身の魔法を引き出して感覚を覚えて貰うよ。最終的には杖が無くても変身できるようになれば最高だね。何事も先ずはやってみるものさ!」
捲し立てるように喋る悪魔の言葉に頷いてしまう。
「さあ、好きなように杖を構えて!」
足を肩幅に開き、両手で祈るように杖を握る。
そこに、悪魔が指先で杖に触れる。
『汝、■の理を担うものよ。変性せよ。新生せよ。完成せよ。理をその身に宿し、世界を全て塗り潰せ。』
日本語ではない悪魔の言葉。
後で聞いた話によると、それが悪魔にとっての変身の呪文らしい。
目の前が謎の光で赤く染まり。
次の瞬間には、私の服装が変わっていた。
真っ赤なドレスのような服。両手にはドレスの袖で隠れてはいるけども肘まである黒い手袋。
スラッとした窮屈そうなドレスなのに、股下近くまで高く延びたスリットのお陰かゆとりがあり、動きやすくなっている。
私はこれ程真っ赤なドレスを見たことがなかった。
「あら!似合ってるじゃないの!」
ママの能天気な感想に少し照れつつ、悪魔を見ると、彼はパチパチと手を叩いていた。
「良くお似合いですよ、茜ちゃん。それこそ悪魔を使い魔にする魔法少女にピッタリの服装です。ああ、昔の私を思い出す素晴らしい赤です。今でこそ真っ黒ですが私は真っ赤だったんですよ。いや、やはり赤には黒が映える!僕も頑張って杖を作った甲斐があるというものです。」
良く分からない称賛は、不思議と耳に心地よかった。