赤壁の守護者1
「やあ、誕生日おめでとう。魔法少女になってみないかい?」
これが、可愛いマスコットキャラクターであれば文句はなかった。
よりにもよって、人類の敵でなければ私も興味を持てたかもしれない。
だけど、これはない。
全身黒ずくめで、山羊のような形だが、それでいて人のような顔、山羊と羊の角のような2対の渦を巻いた角、長く鋭い耳、ヒョロリとした栄養の足りてなさそうな胴体、そして、先の鋭い尻尾。
あからさまなくらいに不審者にしか思えないそれは、自らを悪魔と名乗った。
赤嶺町 自宅
「ふー」
「「誕生日おめでとう!茜!」」
績苗家では、まだまだ高い小麦粉をふんだんに使ったケーキを囲み、娘である茜の誕生日を祝っている。
あの少女が、魔法少女に相応しい歳になるまで12年も待った。
僕が司る理は、赤嶺町しか包むことのできない弱いものだった。
だが、これからだ。
少女が魔法少女である限り、僕の悲願は成就に近付いていくだろう。
そんなこんなで、浮かれていたのだろう。
折角だからと人間達が僕らを呼ぶEvilsや、Devilの姿を調べて模倣してきた。
彼等の望む姿になっているのだ、きっと受け入れてくれるだろう。
そんな、考え無しだから、誕生日を祝っている最中に、
「やあ、誕生日おめでとう。魔法少女になってみないかい?」
なんて言いながら入り込んでしまった。
部屋の空きスペースに作っていた小さな亀裂を拡げて身を乗り出した僕は、亀裂から部屋に入り込みながら挨拶をした。
「ああ、まずは自己紹介だよね。12年前にあの空の亀裂から来た君達にEvilsって呼ばれてる存在だよ。気軽に悪魔くんと呼んで欲しい。」
僕の方を見て茜を後ろに庇うかのように茜の父である績苗青典と、母である績苗希紅が立ち塞がった。
「うーん、もしかしてだけども…僕ってば警戒されてる?」
首を傾げながら、取り敢えず警戒を解いて貰おうと思い、誕生日プレゼントを取り出すことにした。
僕が12年かけて茜ちゃんに合わせた1点ものの杖だ。
これを作るために力の大半を失い、今ではそれこそ使い魔程度のことしかやれなくなっているが、それでも作って良かったと思えるほどの力作だ。
この杖を持って変身すれば、少女茜は、魔法少女茜となる。
空間を歪ませる。
小さな亀裂、空間魔法の応用。
空間を断裂させ、狭間からものを取り出す奇蹟の術。
断裂した空間越しに績苗青典が何かを叫んでいるが、関係無い。
もう、績苗茜には、魔法少女となってもらうしか、地球人類の生存の目はない。
空間魔法により取り出された杖は、すらりと伸びた真っ赤な棒。一端が尖っていて、見る者を魅了する圧を放つ。
悪魔となった僕の本来の色で、本来の力。
断裂していた空間が元に戻った瞬間、績苗茜と、績苗茜の両親との立ち位置が入れ替わる。
杖が持ち主を引き寄せたのだ。
績苗茜は、ゆっくりと杖に手を伸ばす。
そこに績苗茜の意思は関係無い。
ただ、目の前の美しいものを無意識に求めてしまう。
それが、自分の物であると理解してしまう。
績苗茜が杖に触れた瞬間、績苗茜を中心に、赤い光の輪が広がった。
これは、魔法少女の最初の変身。
僕の力を受け継いだ績苗茜は、魔法少女に変身するんだ。
赤嶺町を覆っていた赤い光の結界が溶けるように歪み、全てが績苗茜の元へ集まっていく。
赤い光が、卵のように績苗茜を包み、少し間を於いて弾けた時。
績苗茜は、魔法少女になった。