序章2
旧世界終わりの日
それは、私達の常識が通じなくなった日だ。
物理学、化学、生物学。
様々な基準に於いて、世界は変質した。
世界が亀裂に慣れ始めた頃に、亀裂から現れた異形の存在によって地球は侵食され、塗り替えられていった。
銃器も通用せず、ただ世界の仕組みを塗り替えていき、やがて、その騒動すらも落ち着いた時、亀裂から現れた彼等を、国連はただ「Evils」と呼んだ。
地表の8割が塗り替えられたとされるこの日に、私は産まれたらしい。
旧世界終わりの日、人類の3割が変質、死亡、消失し、残りの人類は身を寄せあって生き延びようと必死だった。
日本で発生した事案の一例を出すと、北海道登別市には上空の亀裂を起点に市1つを飲み込む無重力空間が発生し、判明しているだけでも、胃液の逆流や、飲料水による窒息、血流の鈍化による脳梗塞等の被害により、2割程の住民が死亡または意識不明に、巻き込まれた車による玉突き事故などの速度を保持したままの物質との接触による圧迫により、1割程の住民が死亡または意識不明に、空中から戻れなくなったことによって発生した栄養失調が5分程、空中で浮遊している状態で無重力空間から外れたことによる落下死で数人死亡、病院で生活していた点滴を必要とする患者十数人が死亡している。
その他、把握しきれていないものも含めて無重力空間発生から1週間で5割が失くなったとされている。
登別市の例は被害がでかかったが被害をある程度把握できている稀有な例だ。
酷いものでは、市や町そのものが「消滅」とだけ記録されているものもある。
私の産まれた赤嶺町も変質に巻き込まれた町の1つだ。
上空にある亀裂から現れた黒いEvilsは、赤嶺町に何かをしたらしい。
赤嶺という町の名前を知っていたのか、町の中心に降り立ったEvilsを中心に、三角垂の山のような赤い光の壁を広げ、赤い光の壁を残したまま、満足そうに消えたらしい。
それ以降、赤嶺町は他のEvilsからの侵食を受けていない。
あのEvilsの作った壁は特別なのだろう。
激動に揺れる世界を余所に、赤嶺町だけは、そのままであり続けた。
私が12歳の誕生日を迎えた今日までは。