第九話 ぶらりエルフ妻一人旅、準備編。
蜥蜴竜の干し肉良し、ペミカン良し、大油蝦蟇の軟膏良し、黒曜石のナイフ良し、血吸い蔓のロープ良し、火起こし良し、こんな所でしょう。森の中でしたらナイフ一本でどうにでもなりますが、これから向かうは人間さん蔓延る場所、備えは厳重にしませんと何が起るかわかりません。どうも皆さま、追放系人妻エルフ娘です。
属性が多い?萌えるでしょ。皆さまもメロメロでしょ?追放系人妻エルフ婆、生憎、私はロリでは有りませんので、ロリ婆では有りませんが、孫が大量に居るので婆の呼称は付いてきます。今の私は、可愛く美人な追放系人妻エルフ婆なのです、、、、やっぱり止めましょう。ロリが付かないと、単純にヨボヨボエルフな感じがします。これ、太陽蜜柑の果汁を食肉樹の消化液で固めた、ゼリー菓子ですが食べます?
お兄さま追放未遂事件より三日、私は、事態の責任者である自身の自主追放と言う事で場を収めました。収まったたと言うか、私の自主追放宣言で事件どころでは無い状態にした、が正しいでしょう。
勿論、皆、止めてきました。子供たちはお兄さまの事はもう良いから止めろ、孫ズたちは、御婆いい年何だから死ぬぞと私の出奔を止めようと躍起になりました。誰が良い年ですか!我らは不老不死!年齢なんてあって無い様な者!ハーフエルフでも五千年の齢があるのですよ!百年や二百年世界を放浪しても大した事は有りません!
それにですね、私には出て行かなければいけない理由が有るのです。なし崩しにしたとは言え、お兄さまの罪は消えた訳では有りません。罪には罰が必要で、罰は必ず履行されなければいけません。其れは原始社会で生きている私達で有れば猶更必要な事なのです。
重罪に対する罰則が履行されなければ、千年単位で生きる私達の後々の禍根に成るのは目に見えています。往時のエルフ帝国でも、数千年来の個人同士の恨みが元で、訴訟沙汰が拗れに拗れた等、よく有ったそうですので、信賞必罰は今後の社会運営には欠かせない先例となるでしょう。
マッチポンプ?そもお前が原因?。はて?記憶にありませんねぇ。何せもう少しで二百歳になる高齢者な者でして、あ~、昨日の晩、何を食べたんでしたかねぇ?
今後の健全な社会運営の為以外にも、私が外の世界に出ていく必要はございます。私の野望は、この世界を長命種で埋め尽くす事。その為には最大の障害にして、獲物たる人間さんの生の情報が必要なのです。これまで、私が知り得た人間さん情報は、お兄さまや文献等によるエルフバイアスの掛かった物や、言っては何ですが社会の底辺層からなる人間さんの、それも九十年前の情報です。
敵を知り己を知らば百選危うからず、私にはフィールドワークによる、新鮮な人間さん情報が必要なのです。髭達磨は良いのかですか?彼らは百年一日で暮らす、伝統墨守社会をおくっているそうですので、後回しにします。別に髭がむさ苦しいから後にしている訳ではないですよ。本当ですよ、可愛いエルフを信じて。
ではでは、いざ行かん!人類領域!まあ、勢い込んで見ましたが、今すぐ出発とはいきません。後を託す、お兄さまと子供達に、今後の方針を説明する時間が必要です。カモ―ン、子供達!
皆、揃いましたか?では説明しましょう!私たちの戦略目標は、第一に種族繁栄、第二に盤石な生存領域の獲得です。お兄さまも既にお耳に入っている事とは思いますが、既に各地に長男たちを派遣し、戦略目標達成の為の第一作戦は発動しております。今回は霧の森エルフが行う戦術目標の説明です。そこ!寝ない!竜ちゃん!悪魔辛子を口に入れて上げなさい!
おお悶えてる、苦しんでる、水は駄目ですよ、飲むなら蜜水にしなさい。こほん。我ら、霧の森エルフは戦略目標達成の為に行うのは、ズバリ、霧の森の拡大、それに合わせた人類圏への緩やかな侵攻です。どうやって森を拡大するのか?
「これを使います。」私が取り出したるは世界樹の種、新緑の生命に満ちる奇跡の産物です。元より、世界樹には周辺に自身の眷属を増やす力が有ります。既に霧の森には一つ植えて効果は実証されています、近頃、森の生き物が大型化してるの気づきました?あれ世界樹の若木に込められた奇跡の力に依るものなんですよ。転移門を生成するだけが世界樹の若木の力では有りません、門の生成は後からエルフ帝国が施した魔法の効果、本当の力は世界を原初の形に戻す奇跡の力なのです。凄いでしょ。
なんですか虎ちゃん?お陰で、影象に踏みつぶされかけた?大人しいあれを驚かせるからです、油断した貴方が悪い。精進なさい。何処まで話しましたかね?ああ、森の拡大の話でしたね。世界樹の若木が育って行けば周辺は眷属たる森へと変わっていきます。霧の森は人類圏からは遠いですが、いずれは村を飲み込み、国を飲み込むまで成長するでしょう。
「そう、美味くいくのか白百合。帝国がその戦術を放棄したは、世界樹の種が少ない事以上に、早々に気づかれて、若木を焼き払われたからだ、軍も揃えられない今の我々に、人間の軍勢を止められるとは思えん」
お兄さま。そこは考えております。我らには整った軍は必要ありません、野生に帰り神通力を取りもどした、新エルフには白金の鎧も、黒鉄の剣も必要ではないのです。
必要なのは数、帝国ではできなかった、徹底したゲリラ戦、、、、不正規戦、、、、あ~あれです、狩りの応用です、森に隠れ、何処からともなく飛び道具を射かけ、罠に追い込む戦法です。拡大する森その物が大きな罠となります。原初の森の仲間たちは、往時の帝国軍でしたら危険な相手ですが、今の我らには避けるも、狩るも自由な獲物に過ぎません。
これが人間さんの軍でしたらどうでしょう?人間は蜥蜴竜を一人で狩れますか?アカガネ熊の心臓を一撃で射貫けます?血吸い蔓が群生した場所を、無傷で通り抜ける事が百人単位の軍に可能でしょうか?干物に成るのが落ちです。
無論、万の軍勢が森を焼き払いながら進撃して来れば話は別でしょう。ですが、往時の様に髭達磨の火炎放射器やそれに込める、ドワーフの火を、今の人間さんが用意できるでしょうか?お兄さまは戦乱巻き起こる世界を見ている筈です、人間は九十年前より確実に後退しています。髭達磨が我らが滅びたと見て支援を打ち切ったからです。
「それは、そうだが、なるほど、それで数か、、、不本意だが有効な手だ」
納得して頂けました?我らには数が必要なのです。森の拡大を防ごうとする者を正体を見せずに、葬るか拉致でき、森全体をカバーできる程の数。
「戦群れ」と呼称いたしましょうか、森全体を常に生活しながら周回し、事あれば、侵入者に襲い掛かりこれを撃退、または種族繁栄にご協力いただく。そんな小規模な集団を多数作る事が出来る数が必要なのです。
無論、直ぐにどうこう出来るとは考えてはいません。ですが、数に関しては今からでも着手できます。あっちゃん!熱き鉄!貴方に命じます。森に近い人間さんの領域を襲いなさい。第二次お嫁さん、お婿さん募集作戦です!姿を見せてはいけませんよ。我らは公式に滅んだ事になっているんです。出来うる限り、伝説の存在でいる必要があります。
「分かった、しかし母よ、これでは我ら、化け物ではないか?夜、子供を攫う、村、いつの間にか消える」
化け物結構、恐れてくれるなら、もっと結構、笑い話になるなら最高です。誰もが気にしない、信じない内に、その喉元まで迫れるのですから。気づいた時には森の中、知らない内にご結婚、完璧な作戦です。
お兄さまにはこの子たちに戦いの術を教えて欲しいのです。狩りは出来ても戦争となれば話は別、相手は動物とは違い、悪知恵も数も勝る人間さんです。調子に乗って思わぬ苦戦を強いられるかもしれません。我らは森の悪霊、姿なき脅威となるのです、帝国時代より人間さんとの戦いに慣れたお兄さまの経験、この子達には大いに役立つでしょう。お願いします。
「心得た。だが白百合を本当に森を出ていくのか?俺も子供達も和解出来たのだ。何もお前が出ていく事はあるまい」
「そうだ、母、無理するな、もう若くない。」
「御婆、この前も、寝ぼけて足滑らして、腰、石、ぶつけた。死ぬぞ」
だまらっしゃい!お兄さま、何度も言いましたが、これは信賞必罰でございます。お兄さまの罪は私の罪、誰かが責任を取らなければ今後の示しがつきません。後、子供達&孫ズ、私を年寄り扱いしないで下さい。貴方たちとは百年も歳が離れていないんですよ!まったく、失礼しちゃいますね!解散!私にはまだやる事があるんです。
ホントにもう!皆、心配性で困ります。年寄り扱いはもっと困ります。私はジャパンエルフの始祖である、あの方と十しか違わないんですよ!あっちが永遠の乙女なのに、此方は御婆扱い、まあ祖母で有る事には変わらないんですが、、、それでも女なんですよ私は!
念のため路銀として、エルフ帝国の通貨である葉銀は持って行きますか、使わないと思いますが、何が有るかわかりませんし。背多い袋に詰めて、後は外套を持って、、、準備よーし。では今度こそ、出発進行!
別れは簡単に済ませました。お兄さまがいれば、森の事は心配などいりません。なーに、ホンの十年かそこいらの旅です。気楽に行きましょう。待ってろよ人間さん!可愛くて美しいエルフ人妻がお前の所に行くぜ!
追放系エルフ人妻経産婦婆、、、、流行るのは無理か、、、矢張りロリが何処かに付かないと無理か。