表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
産むし 増えるし 地に満ちる 私がママになるんだよ!!  作者: ボンジャー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/77

第六十五話 マッチポンプだ!この手に限る!

 

 「幾ら掛かると思われるのか!」

 

 人類世界で最も造物主に近い場所に怒声が響き渡った。怒鳴りたくなるのは納得できる。


 なにせ聖都の有する船を軍船であろうと商船であろうと半分を北の果てに持っていくというのだ。 


 大陸沿岸にへばり付く都市国家群と、脅威のど真ん中に取り残され、辛うじて連絡のつく幾つかの城塞都市、往時と比べれば零落と言って良い程に落ちぶれた人類の帝国の残滓は、今や堂々と「唯一の人類帝国」を名乗る嘗ての南方軍閥と比べれば、辛うじて命脈を保っていると言う他はない。

 

 その様な都市国家たちが本当に僅かになってしまった文明の砦を維持するには、どの様な大きさの船で合ったとしても黄金よりも貴重なのだ。彼らが南方からの軍事進攻を退けているのも、その貴重な艦船を量産できるからである。


 だがそれも簡単な話ではない。その艦船の建造を支える資源の供給先は彼らを沿岸に追いやった脅威その物であり、炭の一つかみ、木材の一かけら持ち出すには並々ならぬ労力と危険を伴っている。


 「教皇猊下におかれましてはご再考を!何故に我々に自身の生存を脅かしてオークなどと言う蛮夷を助ける義務があるのでしょうか?その為の資金は何処から?不敬ながらお集まりの聖界諸卿は商業と言う物がご理解ない様なので言わせて頂くが金は不浄な物ではないのですぞ!皆さまが薪の様に扱う金は、真鍮銭の一枚、銀貨の切れ端一かけらでさえ我々俗界の者が汗水を垂らして稼いでおるのです!今回のご計画に必要な費用があれば船団が丸々一個作れます!そればかりか懸案だった旧軍港に堆積した砂を掻きだし、起重機を新設できます!何より!其処に仕事が生まれるのです!ご覧ください聖都には仕事にあぶれた者共が教会に縋って生きております!彼らに人としての尊厳を取り戻させる事ができるのです!」


 その為には金がいる。今こうして熱弁を振るっている俗界代表の大商人やそれに頷く都市貴族が主張する事は最もで、彼らが己の私腹のみを肥やしたい訳ではない事は良くわかる。


 何とも不思議な事だが、例え欲まみれな人間を特に選んで代表にしていても、人類が落ち行っている状況を正しく認識すると最後に首を切られる側に回ろうとする人間は意外なほどに少なくない。


 この部分は父母や母方の祖母それに父方の祖父から教え込まれた事と大分に食い違っている。自分達が思うに祖父母、それに教育を受けた父と母は人間的にもエルフ的にも捻じ曲がった物の見方をしていたとしか考えられない。


 まあそれも仕方がないだろう。祖父は人類の帝国最後の皇帝で父はそれに止めを刺した男なのだ。だが祖母と二人の母の方はどうにも擁護のしようがない様に感じられる。


 人類はそれ程に狡猾でも愚かでもない。彼らは彼らなりに自己の認識の及ぶ限りで最善を尽くそうとしているだけなのだ。その結果が破滅であれ生存であれ彼らには我々には無い良さと言う物がある。


 「教皇猊下は如何思われますか!」


 その様に感慨に耽けっていると、自分達にはない(祖母は例外的に持っていたが)必死さと言う美徳を遺憾なく発揮していた大商人、三年程前に聖都の政治の中心であるこの会議の場に席を持った男は此方に向けて問いかけてきた。


 それに答えて隣に座る男を小突いてやる。この喧騒の中でもウトウトとしていた彼は目を覚ますとやらかした事に気づき心配そうに傍に立つ此方を見上げている。


 可愛い事だ、彼とは人間の換算では随分と長い付き合いをしている。見た目は若くともそろそろお別れが近い事は、この様な会議の最中に居眠りをする事からも明らかになっている。


 混乱する彼を見るには忍びないので、幾らか商人殿の話を要約して耳打ちを行う。彼も若い頃は野心に満ち溢れた若者だったのでその知能は低くはない、直ぐに状況を理解して厳かに話始めた。


 「そなたの心配は良く理解できる。だがこれは決定事項なのだ。蛮夷、蛮夷と言うがオークもまた同じ兄弟姉妹である。その兄弟が存亡の危機にあって手を差し伸べない肉親があろうか?放蕩を働いたとて子は子なのだ、親は両手を上げて迎えねばならないと私は考えるが如何に?」


 「放蕩息子を歓迎するのは結構ですが、今現在親を養っている勤勉な息子は誰でしょうか?その息子を我々を顧みて頂きたいと私は申しておるのです!」


 美味く返したな。ごり押しはさせないぞと言う事か、この分では商人階級だけではなく貴族連中も取り込んで今回の会議に乗り込んできたのだろう。


 百年を超える年月は何事にも亀裂や綻びを産むものだ。あの酒飲み坊主が生きていた頃は楽だった、なにせ下手を言うと窓から投げ落とされたからな、今は安全で食うに困らぬだけでは人々は満足などできないのだ。


 「確かにそなたの言う事、もっともと私は感じてはいる、、だがなぁ」


 一向に衰えない舌鋒の矢面に立たされた彼は、再度困り顔で私を見た。おいおいそう頻繁に私を見て貰っては困る。昔の君だったら激昂するなり、外套をチラつかせて脅すなりして黙らせただろうに、そうも頻繁に私を頼られると私を暗殺しようと依頼がだされるんだぞ。その依頼を受け取るのは私の弟や親族だよ?稀に若いのがなにも知らずに受けて気まずくなるんだ!


 「御覚悟を、、、あれ?おじさん?」

 

 だよ?あれは本当に気まずいんだ。向こうはあわよくば攫って自分の物にするつもりが、毎年顔合わせているおじさんが出て来て露骨にやな顔をされるんだ。


 本当に君は老いたな、だが素晴らしいことだ。毎日見ているが日に日に穏やかになっていくのが分かるよ。何時まで立っても猛々しい母や、死ぬ前年まで母達と寝所を共にしていた父とは大違いだ。そう言えば祖父もだったな?百を前に彼が逝ったのは薬の使い過ぎが原因だったのだろう。


 いけない、いけない。助けを求めている者がいるのにまた物思いにふけってしまった。商人殿は矛を収めないだろう、確かに聖都には森の兄弟に追われた人々が多く逃げ込んでいるのだ。彼らを食わせる事は難しくはないが、暇な人間は碌な事をしない物だと言う事は良く分かる。

 

 祖父がそうだった、あの様な刃傷沙汰は二度と御免だし、簀巻きにされて流された祖父を救出するために白ワニと弟と二人で格闘するのも二度とやりたくない。


 だが今回ばかりは飲んで貰おう、なにせ祖母直々の命令なのだ。祖母の悪巧みは我々の様に繊細で綿密なものとは訳が違う。彼女のやらかす事は大体が大雑把で途方もない規模の物だ。


 彼女がオークを危機に追い込んでまで何かを成そうと言うのならば、その何かの犠牲になるオークは途轍もない数になるだろう事は、父がこの街を掌握し帝国を過去にしたあの夜の乱痴気騒ぎを見れば、簡単に予想できる。


 少なくとも私はオークに恨みはないし、我が一族の女性陣や、父の血を色濃く継いだ女好きの我が最愛の愚弟からオークを滅ぼしたと後ろ指をさされたくはない。


 であるのでチラチラと商人殿と私を交互に見ている彼、現在三代目になる教皇殿を、死した前教皇、現在は秘書官として傍に仕える身として助けなければいけない。


 いや大変だったのだよ父が亡くなった後は、私がその後釜に座ることは既定路線だったにも関わらず、私の正体を知らない勢力と暗闘は凄まじい物があったんだ。なにせ聖都の有力者の半分が謎の失踪(天罰と言う事になってるが)をしたんだからね。


 そんな事があったから私たちは考えたんだ、玉座を独占せず息の掛かった者に座らせて上げようってね。父が若々しいまま百歳まで玉座に座っていたのは教皇が神より賜った奇跡って事になっていたから、私の見た目が変わらないのも百で死んだ事にする事も簡単だったよ(勿論耳は見せなかった当然だろ?)


 今の教皇は私のお気に入りさ。彼とは先ほども話したが付き合いが長くてね、私に毒杯を呷らせた初めての人間なんだよ彼!いやあれは驚いた!でっ、その胆力を生かして貰おうとプロデュースしたのだよ。


 ああ無駄話をしすぎたね。そろそろ彼を助けよう。さあ私の猊下お耳を拝借。


 


 興奮した様子で返っていくね彼ら。いや実に簡単な取引だった。先ほど彼ら人間が愚かではないと私は言ったんだが、少し訂正させて欲しい。正確に言えば、自分の如何にか出来る範囲では愚かしく振舞う事が少ないだ。


 彼ら人間は自分で如何にもならない事には盲目になってしまう。悲しいねぇ、彼らは自分の髪の毛一筋すら自分の意志で伸ばす事はできないんだよ、寿命や若さなら猶更さ。


 「猊下はこの案を飲んで下さるならば、偉大なる主にあなた方への特別のご好意を祈願されても良いとのことです」


 この一言で態度がピタリと変わってしまった。まあ、安売りしてこなかったからね!聖都に行けばあらゆる病は癒え、寿命を延ばし、若返る事もできるは嘘じゃあないが、病は兎も角、若さや寿命は引く手あまたで安売りできないよ。


 それを分けてあげようと言うのだから感謝して欲しい位だ。彼とその支持者の一部だけ若さを手に入れれば直ぐに非難の応酬で酷い事になるだろうがね。そうだ街で燻っている人々には開発計画でも提案しよう。なに、森の兄弟に五十年程開拓地を攻めない様に連絡すればよいだけさ。


 なんとも我々は慈悲深く愛に溢れていると思わないかい?我々は叩かれればちゃんと門を開くのだ。確かに天にまします造物主と違い無条件で雨を降らせる事はしないが。


 「悪い顔してますよ猊下」


 「猊下は君だろ愛しい人よ、さあ食事にでもしようじゃあないか、どうだい偶には鮫の巣亭でも」


 「あの店が歴代教皇の行きつけの店だと知ったら下々は飛び上がって驚くでしょうなぁ」


 「ちゃんとサインもあるんだが、だれも気づかないだよねぇ」


 悪い顔とは心外だ。私は都市に巣食うエルフの中でも一番に気の良い男なんだが?因みにワーストワンは我が愚弟だ、教会が誇る「死の司」程悪い男はいない、女癖の悪さも含めて。


 これで私の話は終わり、そして仕事も。これから祖母が北で何をしでかすかは予想できないが、少なくともオーク全滅はないだろう。


 最後に自己紹介を私は「王鷲」。二代目教皇であり、私の愛しい人間が旅立ったら四代目に座る予定で、五代目は私の人間の子孫を当てようと考えている都市のエルフである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ