第四十九話 オークと言う価値観
俺の事は誰しもがブスだの醜女だの言う。言ってきた。
幸い、俺は腕っぷしが良かったので、面と向かってそんな事言う奴は狼の餌にしてきたし、これからもするだろう。
だが美しいと言われた、らどんな顔をしてい良いのか今でも分からない。
俺の名は「盾の乙女」酷い名だろ?
乙女だぜ乙女。今では五人も子供がいる婆捕まえて乙女だ。子供がいなかった時分でさえ、この名前を聞いた奴は、吹き出すか震えながら横を向いたもんさ。吹き出した奴は、二度と固いもんが食えない様にしてやって、横を向いた奴は玉けり上げるだけで許してやったのは良い思い出、、、じゃあないな。
だがしきたりって奴なんだ。元の名前は捨てた、捨てざるを得なかった。オークに生まれて醜いのは致命的だ。醜いと言う事は弱いと同じだからだ。
俺が今まで生き残れてこれたのは、成人の儀式を乗り切ったからだ。儀式なんて言うが、そんなに立派なもんじぁあねぇ。忌々しい雪原に、それも一番寒い時期に、毛皮一枚持たされた三日生き残るのが立派な儀式なもんか。
だがそれが儀式なんだ。それをこなさなけりゃ一族の者として村では生きていけない。
俺は生き残った。何食ったて太くなろうとしない腕、狼の喉も食い破れない牙、デカいだけで邪魔臭い胸と最悪な体しか持ってない俺が生き残れたのは奇跡って奴さ。
回収にきた村の連中も驚いてたね。確実に凍え死ぬか、狼の腹に収まるかのどれかな筈の小娘が、一等大きな狼の腹に潜り込んでグースか寝てたんだから。
覚えときな、ここで吹雪に襲われた時、最高の隠れ場所は場所は裂いた狼の腹の中だ。腸を掻き出したりするんじゃねえぞ、どんなに臭くても我慢して潜り込むんだ。
そんで、その年、成人を迎えられたのは俺だけだった。後の奴は知らねぇ。ああ、俺の毛皮を奪い取ろうとした奴は、、、まぁ良い餌にはなってくれたよ。アイツが腕を折られて喚いてなきゃ、あの狼は寄ってはこなかったからな。
渋い顔してた叔父貴の顔を覚えている。あの餌、確か叔父貴の餓鬼だったからなぁ、俺を舐めるから、ああなるのさ。
思うに、、、、考えるってガラじゃないのは知ってるが、、俺たちはきょーりょくって言葉を知らねぇんだ。誰もが自分で精一杯で、「他人を思いやる」だとか「弱い奴のケツを持つ」だとか知りもしねぇ。
俺も旦那と、あの糞、、、、お義母さまがいなかったら、一生、頭に上らなかった言葉だなうん。それは妖怪婆、、、義母に感謝だ。それが幾ら、殴り付けてふんじばってから、てめぇの子供の嫁に人様を宛がう様な鬼婆でも、嬉々として貰う旦那でもだ。
何?旦那が嫌いか?馬鹿抜かせ!嫌いな相手と五人もこさえるか?好きですよ、あーいしてるって奴さ!うぇ言ってて気持ちわりぃ。餓鬼どもに言うなよ!直ぐに揶揄いやがるあの餓鬼ども、、、。
話を戻すぞ!旦那との夜の話なんて良いんだよ!テメェら死にてぇのか!
生き残る筈のない奴が生き残っちまった。大人連中は困ったのさ。何しろ生き残った女を、テメェらの影で育った縞瓜みてぇな意気地なし共とくっ付ける腹だったんだからな!
笑えるね!なんて嫁選びだ!どこの世界に、、、俺は此処しか知らねぇが、少なくとも、おかーさまのトコの山猿どもや人間さん、、、、糞!移っちまった!なーにが「さん」だ!今から料理する熊に「さん」なんかつけるな!、、人間の世界ではそんな馬鹿丸出しの嫁選びがあるもんか!
糞が!今思いだしても腹が立つ!まあ良い、あいつ等みーんな山猿のトコに送られたんだ。精々あの魔女共に絞られて泣くがいいさ!萎れて死んじまぇ!
当てが外れた大人が俺に付けた名前が件の「盾の乙女」だった。この名前は俺みたいな奴に付けられる。一生を子供を設けずに、村の守りと一族の繁栄に駆り出される奴の名前さ。
居るんだよ偶にそういう女が。細っこいのに妙に強い女って奴がな。俺がそうだ。男は別さ、オークはどう言い繕うとしても男の社会だからな、受け入れられるのさ、そんな手合いは。
それでも辛いのは変わりはねぇがな。考えてもみろよ、幾ら強かろうとナヨナヨした男に「美しい」女が惚れるか?ああオークの世界ではだ。
居ねぇよ、そんな物好き。だからそいつらは「狼」になる。狼の毛皮を被っていの一番に敵陣に飛び掛かる馬鹿な役回りだ。
ありゃ勇気じゃねぇ。勇気と無謀はちげぇ、俺は餓鬼どもによーく言ってるし、旦那にもいっつも言ってる。「一度負けた所で生きてさえいれば取り返せるんだ。逃げるのは恥じゃねぇ、最後に立ってる奴が偉いんだ」ってな。
そこ行くとおかーさまは頭が逝ってるよあれ。何か言い方がおかしい?良いんだよ!お義母さまなんて、口が曲がるんだよ!顔合わせりゃ人の事撫でまわすんだよあの婆!何が可愛い嫁だ!あれヤラレルと自分でも大人しくなっちまうのが腹が立つんだ。
あの婆、今回の事もそうだが、何かってぇと一人で突っ走って気が気じゃねぇの!心配する身にもなれってんだ!俺じゃねぇ!旦那が心配してるっての!誰があの婆の心配なんぞするか!
それでもだ!痩せ狼共の奴隷になってたんだぞ!あの頭がパープーで女と見れば浚って腰振る事しか考えぇ連中だぞ!足も見やがれ!隠したって未だに引きずってるじゃねぇか!
だから俺は旦那とそーだんして決めたんだよ。あの婆が無茶しないように俺たちが出張るってな。他の連中はあの顔、、、皇族の顔だとか言ってたな、、にコロッと騙されやがったが、俺たちオークにはあんなもん効きやしぇねぇ!拝んでたアホは後で締め上げてやった。
「だからテメェら新人も良ーく分かってなきゃいけねぇぞ!あの婆から目を離すな!オメェらがあの婆を救い主だとか恩人だとか思うのも無理はねぇ、「痩せ狼」共から救い出してくれたんだからな。
だがあの顔に騙されるなよ!目ぇ離すとスッと何処かに飛んでいくからな。幾らテメェを綺麗だとか、美しいとか、オークの美的感覚の方がおかしいとか煽ててもだ!分かるよ!あの顔で真面目に言われれば。ぶっ飛びそうになるのはな。実際、此処の男も女も俺たちを不細工とは絶対に言わねぇ。
弱いとも、役立たずともだ。それが嬉しいのは俺に分かる。さっきから言ってるが俺も散々の言われ来た事だからな。」
糞!族長なんぞそれこそガラじゃあねぇんだ!それでもやらなきゃなんねぇ、、、婆の餓鬼なら俺の親類でもあるんだ。なんたって俺より歳は随分下だが叔父貴だからな。
だがいい機会でもあるん。俺は俺を美しいと言った奴を、見捨てるなんて事はできねぇ。それがどんなに歯が浮きそうでも、真から言った奴だ。俺たちにだって仁義ってもんがある。
何より、、、、、、
「そこにいたのか乙女。母が呼んでいる、新しい者を集めてどうした?」
「なーにだんなぁ♡お義母さまが呼んでるのぉ?いま行くわぁ」
はぁ、、、良い男だ。いつ見ても最高、、、俺は旦那の為なら死んでも、、、、なんだテメェら!何見てやがる!散れ!笑うなぁ!良いだろ!惚れた男だぞ!




