第二十七話 E鳴き村 ~そこに行ったらお仕舞い~
「迷いました!どうしましょう!」
思わず叫んでしまいました。どうしましょう皆さま!私、故郷の森で迷っているのです。なんで?どうして?死ぬのかな私?
事の始まり。暫く前より、人間さん蔓延る聖都に別れを告げ、故郷である霧の森への帰還の途に就いた私の長いお耳に、立ち寄る町や村々で不穏な話を聞いたのが始まりです。不穏と言っても人間さんにだけの事、エルフには関係ない、むしろ嬉しい知らせでしたが。
聖都を離れるにしたがい、旅人が泊まれる場所等は限られて行きます。辛うじて人間さんが維持する街道、エルフ帝国が敷設した、龍腹の道、そこに点在する小都市が唯一安心して体を休ませる事のできる場所と言えるでしょう。大都市だけを生活圏にして来ましたので、小さな集落に生きる人間さんも観察しようと、私は山越え直通ルートで帰ることなく、街道を通って帰る事にしたのです。
龍腹の道。名前の通り、大地と化した邪龍君の腹を南北に縦断する大街道なんですが、人間さんの維持しているのは、四街道敷設された内の一つ、海岸線のやや内側沿いに敷設されて龍皮の道だけとなっています。
放棄された街道は、エルフ帝国で無ければ維持出来ない様な、山を越え、谷を越え、川を渡りな、人間さんに優しくないエルフ専用、鉄人レースする気なの?な街道が主なもので、人間さんも移動する事を想定された、龍皮街道が維持されているのは当然と言えば当然なのですが。
そんな街道にある小さな町、人類帝国エルフ討伐軍の補給基地が元の町にある、小さな酒場 元は酒保だったそうです で聞いたのは、「呪われた森」の話でした。
「本当なんだよ、森はドンドン大きくなってる。俺の爺さんが生きていた頃よりもっとだ」
「霧の森だろ?昔から大きな森だったそうじゃないか。第一あそこはエルフ共も住まなかった森だ。ほっときゃ良い」
「そうじゃない。俺も行商をやって長いが、年々、森の広がりを耳にする事が多くなってきたんだよ」
「たかが森だろ?向こうから来てくれるならその方が良い位じゃないか?大内乱から向こう、目に付く森はみーんな切り倒して薪にしちまったんだ、エルフ共が住んでた、水晶の森だって、今じゃ跡形もない。炭焼き連中も随分と山向こうまで行ってる位だ」
夜も更けて日々の疲れを癒す人々でごった返す酒場。その中でチビチビと、キビ酒をやっていた私の耳に、面白い話が聞こえて来ました。エルフの地獄耳にはどれだけざわついていても、色んな話が聞こえてきます。
「だから、違うんだって。異常なんだよ大きくなり方が!お前さんが言ってるのは心臓山にあった頃の霧の森の事だろ?今じゃあの森は、龍肉街道を飲み込む所まで来てるそうだ。ただでさえあちこち壊れて通れない所の多い街道だが、それすらなくなったら、こちとら商売あがったりだよ」
「そんなもんかねぇ、どうもピンと来ないなぁ」
「町に住んでるお前さんはそうだろう、だが時期に分かる。帝国が無くなってから、軍団領はバラバラになったろう?此処だってそうさ、今じゃ各地のお偉い方は関所を建てて、街道から金を吸い上げてる。其の上に街道の一つが潰れるんだ、物の値段はもっと上がるよ」
「オイオイ、本当かいそれ?困ったねこりゃ。世の中どうなっちまうんだ、聖都からきた坊主の言う様に、この世の終わりが近いのかねぇ」
「辛気臭いはなしだよなぁ。長い事やってきた行商だが、潮時かもなぁ。俺は、いっそ南方軍団領に行こうかと考えてるよ」
「お気の毒だねぇ。あんたとは長い付き合いだ、寂しくなるなぁ」
「如何しましたお二人さん?なに男二人で顔を突き合わせてため息はいてるんですか?私も混ぜて下さいよ」
突然に私の乱入にギョッとした二人の男、ですが女将歴百年のエルフ娘は心得た物です。少し胸を押し当てたり、お得意のトーク技術を駆使すれば、飲んだくれの一人や二人直ぐに何でも話してくれます。
彼らからは興味深い話が聞き出せました。一つ目は経済のお話、聖都でも実感してましたが、矢張り物流に滞りが出ているようです。表面上とは言え、一つの帝国として纏まっていた各勢力、彼らは帝国の法を基準として、経済圏を構成していましたが、その帝国が可愛いエルフの手によりジョブチェンジし、聖都周辺以外の世俗権益を手放すと正式に宣言した今、各地の勢力は建前を投げ捨てて利権獲得に奔走しているご様子。
となると、ただでさえ怪しくなっていた治安は悪化の一途を辿る事になっています。行商人さんの言う事にゃ、真面に通れるのは龍皮街道だけで、それでさえ護衛を雇う必要があり、少なくない金が飛んでいく。
街道から外れた村々は、小領主と化した嘗ての軍団部隊の元で、封建制度に似た自給社会を作り生き残るか、せっかく開墾した農地を手放し、都市に流出している。
二つ目は森について、大内乱の傷跡がようやく癒えてきた矢先に上記の混乱、更に更に新しい脅威である、森の拡大に人類はぶち当たっていると言うのです。
自然豊かと言いますか、未だ、原始の森が各地に残る、この日本大陸ですが、人間さんの生活圏にある自然は、エルフ帝国との長い闘いと、大内乱の余波を諸に食らい、取り尽くされています。
人間さんの戦略が、産めよ増やせよで、数でエルフを圧殺する戦法なんですから、当然と言えば当然に自然の回復力を上回る程の消費を産んでしまう訳ですね。
地球世界でも、偉大なる帝国の数々の滅亡には、自然破壊により文明の維持が不可能になってしまったと言う側面もあります。具体的に燃料不足が原因、森林資源の枯渇ちと言う方が正しいのですかね?
ローマ帝国も、七つの海の三枚舌帝国も、現代のローマたる大正義合衆国も、文明の維持を行う為に燃料の安定した供給には頭を悩ませています。石炭が露天掘り出来る程大量に存在した中華世界は、石炭を早期に生活に取り入れる事で、産業革命を経ずに巨大帝国を維持したりできましたがこれは例外。
石炭や石油などの資源に、文明レベルの問題で切り替える事が出来なかった西ローマは、他にも色んな原因はあれどは崩壊しましたし、ギルガメッシュ先生の所はフンババの呪いで天牛に襲われています。
江戸期の日本もはげ山だらけで、ペリーが来なくても、何れは文明の転換を、図らずに入れれなかったと、昨今の皆さまの研究では言われていますね。それはこの世界でも同じ事、全ての基盤である木材の不足は現代地球での石油枯渇と同じく文明を蝕んでいます。海運で遠く腸海の諸島から木材を輸入できる聖都は恵まれている方なんです。
ですので、始めの方で町人の人間さんが言った通り、森が向こうから来てくれるなら、有難い訳ですが、行商人さんが言うにはそれは違うとの事。
広がり続けている霧の森は唯の木の集合体ではなく、村を飲み込み、化け物を吐き出し、それに加えて悪霊の住処と言われているというのです。
悪霊。獣人とも言っていました。何でも彼らは、新月の晩など森から大挙して湧き出し、森と隣接する村々の人々を攫い森に引きずり込んでいくそうです。その姿は、獣の頭と人の体を持つ半獣半人で、僅かな生き残りが震えながら証言するには、今まで神の作られた世界に存在した、どの人種とも違う悍ましい姿をしているのだそうです。
やってますね、森の子供達よ。私の言いつけを守り着実に地盤を固めているようで何よりです。盛り上がる私たちの話に、混じって来た酒場の人間さん達も興味津々、中には俺も知ってるだの、炭焼きが襲われただの意外と獣人の存在は知られている様ではあります。
まあ。情報の伝達量も少ないこの世界の事ですから、あくまでもUMA扱い、町や村から一生出ない人も多いのですから当たり前でしょう。ですが、自分の子供たちが元気に暮らしている事が分かって、私大変に満足!今日は私の奢りだ!好きに飲んで良いですよ!
翌日、河岸に上がるマグロの如き、二日酔い集団を後に残し、私は家路を急ぎました。此処からは街道の旅も終わり、道なき道をエルフの神速を持って走り抜ける事にしましょう。
そして見えてきたのが、確かに、龍肉街道のギリギリをかすめている黒い森の姿でした。この周辺は百年前まで大内乱の余波を受け、無人地帯になっていたのですが、打ち捨てられた筈の廃墟のいくつかからは、文明を取り戻さんとする人間さんの営みが大自然に抗っている煙が見えています。
炭焼きでしょうか?狩人でしょうか?森の浅い処でには、人間さんが出入りしている様子も見えます。意外と平和そう。でもないな、廃墟を再利用した村には空堀と逆茂木、しっかりとした木製の防壁が見え、見張り等には弓を手にした人間さんが厳しい目で森を見ているのが見えます。
街道ではなく森を見ているのは、脅威が森から出て来る事の証拠でしょう。あっ!聖堂が立ってる!こんな所にも新エルフ教の布教が行われているのですね。聖堂の上に立つバッテン十字、所謂ところの聖アンデレ十字ですが、抱き合う人とエルフをモチーフにしたとして、狂信破戒僧のに進めたのですが、受け入れられている様でですね。掴みだされた心臓は聖なるモチーフではチョット違うかなと思いましたので、進めたんですが、採用されて本当に良かった、良かった。
そう思ってみてますと、森の方から人が走って逃げてくるではないですか、後ろから来るのは、、、木の葉カエルですね。私のいた頃は、人の頭程の大人しいカエルでしたが、今では大きなお馬さんくらいあります。
大方、伐採している時に、頭を踏みつけたか何かしたのでしょう。霧の森の生き物は龍の血を色濃く残す、原初の生物が大半、大人しい物でも、攻撃されたと思えば意外な反撃を食らわしてくる奴らです。
おお逃げる逃げる!慣れているのでしょうか?おい掛かられる人間さんも必死では有りますが、その足取りに乱れはない様子。聖堂で鐘が鳴らされています。手に手に弓を持った人間さんが防壁に集まり始めました。
結果は人間さんの勝ち。カエル君はハリネズミに進化し、村の女の手で解体されて行きました。今日はカエル肉パーティですね。
暫く観察してわかった事ですが、確かに人間さんは森を有効活用しているようです、命の危険が有りながら、森の周辺から逃げていないのは、これが原因でしょう。栄養豊富で美味しい原初の生き物を狩れるなら、少しの危険など気にしていないのです。
逞しい事です。矢張り人間さんは侮れる存在では有りません。人は慣れる生き物、森の脅威に直面しても、それを、先ほどの木の葉カエル君の様に、生活の糧に変えるだけのポテンシャルを持っているのです。カエルだけに。
良い物を見せて貰いました。さて私も人間さんに負けない様、逞しく成長したであろう我が子らに会いに行こうではないですか!
そして冒頭に戻ります。訳が分かりません、百年前でした目を閉じても歩けた森が迷路に感じます。森に入って半日程、辺りは真の闇と言う奴です。暗闇くらいエルフの千里眼の前には何ともないのですが、これはどうにもいけません。
明らかに実際の森より、奥行きがあります。現実世界と原初の混沌領域が混じり会っているのが感じられます。先ほどは久方ぶりにアカガネ熊に襲われましたし、羽織っていた襤褸は針金蔦にひっかけて破れてしまいました。襤褸は襤褸でも、内側にほぐした金羊毛で、顔隠しの奇跡を縫い付けてある奴ですよそれ!作るの時間が掛かるんです!
都市の空気は自由にするとの言葉が有りますが、エルフに取っては不自由の元なんですかね?都市生活が長いせいで私の野生の感も鈍りまくり、このままですと、私、永遠の森を彷徨い兼ねません。
飢えはしないでしょう。エルフは飢え死にはしませんし、此処は獲物豊富な森の中。いまでも襲ってきたアカガネ熊君の心臓を炙って食べてますし。うーん野生の味。
ご馳走様でした。腹も膨れた所で落ち着いて考え、、、、この匂い!熊の血の味を堪能してて気が付きませんでした!馬鹿な私!何処から!あれ?あれれ?だめだこりゃ、、、、私はその場に倒れ込むしかできません。そしてその耳に声が聞こえてきます。
「こいつ。さっきから森の中で騒がしくしてたの」
「臭い!なんだこいつ」
「仕留めたのか?」
「眠らせた、長、やたら殺すな 言った」
「見ろ!此奴!兄妹!」
「馬鹿!よく見ろ!こんな臭い兄弟いない!」
「でも耳」
「ホントだ!どうする?」
「長に聞く。連れてけ」
「(´・д・`)ヤダ」
「こいつ触りたくない」
霞が掛かった頭の中に、私の事を臭い臭いと言いやがります、ふてぇ野郎と女郎の声がきこえます。言いたい放題行ってからに、あとで覚えていろよ!それは兎も角、眠い、すごく眠いよネロラッシュ、、皆さま、相済みませんが今日は此処まで、おやすみなさい、、、、




