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産むし 増えるし 地に満ちる 私がママになるんだよ!!  作者: ボンジャー


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第二十話 獣の娘

 家の宿六は母さんを化け物と、内心で思っている事は分かっている。それは正しくない。正しく母さんを表す言葉は唯の獣だ。


 私の名は海猫。誰に聞いても知らないと言う、母さんだけが知っている、恐らく空想上の鳥の名前だ。少し私の話をしよう。それが母さんの事を娘である私が、獣と呼ぶ理由だからだ。


 私の生まれた場所は帝都に近い、海辺の漁村だった。私と私の半身である海燕は物心つく前から特別な存在として扱われていた。恐れ敬われていたと言っても良い。


 私達は村の子供が海辺で遊ぶのと同じように、下水迷宮と入り江を遊び場にしていた。お化けネズミも白ワニも、私達には良い遊び相手、命を懸けた遊びと言う但し書きは付くが。


 私たちはエルフだ。それは生まれた頃より知っていた。エルフは天上の炉より打ち出されて生まれる、母さんの腹から生まれたのは事実だが、その魂は迸るアカガネと星の金床で作られている。


 私達エルフは神の被造物として、何処かで繋がっている。顔も知らない森の兄弟達との繋がりを、私達は確かに感じている。


 母さんからはその繋がりを感じない。それが母さんを獣と呼ぶ一つの理由だ。獣は自由だ、空を飛ぶ王鷲も、下水迷宮を走り回るお化けネズミも、使命や運命等と言う物で縛られていない。


 エルフにはその自由が無い。私達は使命を負って生まれて来ている。神の意志、そして母さんの意志だ。私達は自由とは程遠い生き物だ、生き物かも怪しい、老いもせず衰えもせず、ただ有り続ける存在は生き物と言えるだろうか?


 こんな事を考えるのは、人間世界で育った都市エルフだけだろう。森の兄弟はもっと簡単な思考をしている筈だ、馬鹿にしている訳ではない、その方が、良かったと思っているだけだ。


 母さんと、その周りに確かに居る意志は、私達に色々な事を教えてた。戦い方、男の騙し方、都市で生き残る方法、それが神のご意思だと言って。


 半分は嘘だ。母さんは自分の野望の道具として、私達を見ている。反発もした、だから随分と危ない事も、十二の頃からしていた。


 帝都。自然の中では生き残れない人間が、身を寄せ合う嘗てのエルフ帝国の残骸は、暗く行き場のない匂いで立ち込めている。下水と裏町を走る私達の鼻にはそれが心地良い。


 人間は獣である、それは帝都の人間を見ていれば分かる。故郷である海辺の村の人間は数少ない例外、彼らはエルフ帝国の意志に今も猶縛られ続けている、その魂は長い時間を掛けて作られた水晶玉の様に綺麗だが、何処か無機質で人形の様に生気を感じない所がある。


 帝都の人間は違う。明日を知らず、運命を知らず、使命にも縛れていない。食い、飲み、排泄し、繁殖する、お化けネズミの親類だ、それが何処か羨ましい。


 私達は、そんな人間の自由な匂いが好きだ。森の兄弟だったら鼻が曲がると言うだろう、この町の匂いが好きだ。それは都市エルフとして生まれた兄弟たちも同じだろう。母さんは違う、偶に顔を顰めている時がある。海の男を次々と食らう女とは思えないが、あの人は、、笑うかもしれないが高貴な匂いが取れない。


 高貴な獣とは何ぞや?と思うだろう?でもそうとしか言えない。彼女は獣だ。それも大きな、それは大きな獣なのだ。


 獣は飢えの為に食べる。本質的に餓えると言う事のないエルフとは違う。母さんは食う、エルフでありながら食う、人を組織を国を。


 彼女の飢えはその意志の飢えだ。腹も減らないのに次々と求める。彼女の飢えは収まらない、人間を食らいつくそうとする存在を、獣としか私は思えない。


 済まない、反発の話をしていたのだった。私達は母さんの仕事を手伝うと同時に、帝都の裏町とスラムに出入りを繰り返していた。酒も飲んだし、賭け事もしてみた、喧嘩もしたし、殺しもした、相手は私達を女と見て襲おうとした相手だ問題無いだろう?


 酒は不味かった、賭けは簡単で何時も勝った、喧嘩はエルフに敵う奴は居らず、殺しは何処か悲しかった。顔隠しの襤褸を身に着けた双子は恐怖の対象になっていた。


 母さんはその事を責めなかった。むしろ喜んだ、あの婆、、、、コホン、、、スラムの治安回復の一助になったと言って。


 私達は反発を諦めた。何処まで行っても母さんの意志からは逃れられないと知って。遠くに逃げる事は考えられない、私達は被造物、運命と使命は重い鎖、魂が逃げる事を拒むのだ。


 其の頃だった一人の男を見つけたのは、スラムに似合わぬ深い諦観と絶望の匂いを漂わせた飲んだくれ。一目みて欲しいと思った、でも何だか母さんみたいで攫うのは憚られた、彼女の様に、何者かもしれない男を、気に入ったと寝所に引きずり込む真似はしたくないと妹も思っていた。


 何年も酒場と賭場を出入りする男を追っていた、彼は宮殿に出入りする人物である事も確かめた。それ以上は恥ずかしくてできなかったが。


 そんなある日、彼が刺客に襲われた、その時は何も考えられなかった、妹と二人、闇夜より飛び出し、彼の目の前で刺客を怒りに任せて引き裂いた、直ぐに不味いと思った、だって恥ずかしいじゃない!恋する乙女、二人が、彼の目の前で惨劇を演じるなんて。


 血に塗れた私達、へたり込む彼、どうしよう?いっそこの場で連れ去るか?そう考えて時、彼は言ったのだ。


 「有り難う、お嬢さん方、結婚を前提にお付き合いをお願いできないかな?」


 妹と顔を見合わせたるしかなかった。此奴もしかして馬鹿かとも思った。襤褸を纏った不審者の大量殺戮を見て求婚する馬鹿が何処にいるのか?


 気付かなかったが、手練れだった刺客の抵抗で、襤褸の一部が破れ顔と肌が露わになっていたそうだ。


 でもいきなり求婚するか普通?今でも思う。後で、彼に聞いてみたらその場の勢いだったとの事、まあ、今は私達の愛しい夫許してやろう。


 話を戻す。一瞬、躊躇はした、馬鹿かこいつとも思った。でもこれは好機だ。妹の目も「姉さん、此処で行かなきゃダメ!」と言っていた。


 だからその場で袋に詰めた、暴れようが何しようが構う物ですか、この男は私達に求婚したのだ。下水迷宮でもそうだ、手負いの獲物には直ぐに止めを刺さねば逃げられてしまう。


 嬉しかった。凄ーく嬉しかった。心なしか世界が明るくなった気がした。もう離さない逃がさないこいつは私達の獲物だ。


 彼を母さんの前に突き出した時の、彼女の顔は今でも忘れない。あの呆けた顔、何時も何時も、私達の行動はお見通と言う顔をしていた母さんは、ポカンとしていた。


 「おっおう、、、、良いですよ、娘たち、しかし、何処から拾って来たのですか?」


 あの言葉も面白かった、何処からも何も、貴方と同じ、路地裏よと言いたかった。今からでも言おうかな?止めよう血を見る、母さんの血は催淫性の劇物なのだ。


 「そ、そうですか、貴方たちが良いのなら、それで良いでしょう」


 呆けていたが直ぐに母さんは、私達が夫を迎える事に母さんは同意した、認めなかったら都市エルフ初の反乱として歴史になる所だっただろう。


 こうして私達の短い反抗期は終わった、母になった今では、自分の運命を全うする事に不満はない。大いなる獣である母さんの野望の歯車として、私達夫婦は回り続けるだろう。


 

 一つ訂正しておきたい。夫は人間として、私と子供の人生を見送るしかないと考えている様だがそれは違う。彼の魂には良ーく匂いを擦り付けてある。


 彼は死ぬ、私達を置いて短い人間の人生を終える。それは終わりではない。人は生まれ変わる、母さんも理解していない事だが、私達には分かる。人は大いなる混沌から新しい生命となり戻ってくるのだ。何度でも何度でも。


 母さんの計画に私達が積極的なのはこれが理由だ。何時の日か、この大地をエルフとハーフエルフが埋め尽くした時、彼は永遠の人生を私達と歩むのだ、少なくとも五千年は保証されている。


 見つける、必ず見つける、決して逃がさない、狩りだし、追い詰め、私達の物にする。うん?またしても済まない、もう一つ訂正する、私達はエルフだが、如何やら獣の方に籍が有る様だ。


 この感情、焦がれ、如何しようもなく何かを求める感情は、飢えとしか表現できないのでは?欲しいのだ永遠に彼が欲しいのだ、その為ならば何でもしよう。私達は獣の娘だ。


 

 


 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] ヤンデレ獣姉妹に愛されて来世も余り眠れない第三皇子ぇw
[一言] 今回の話が一番面白い!
[一言] 愛、愛ですよ海猫さん。
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