最高の人生を目指して駆け抜ける24時間
(さてと……そろそろ時間だわ……あと5秒……4、3、2、1……)
ドスン
「「あいたっ……」」
社内の曲がり角でお目当ての相手、同期の小座間君と見事に偶然を装いぶつかることができました。
「よそ見しててごめんね……大丈夫? ケガしてない?」
「こちらこそ、ごめんなさい」
「あれ、このハンカチ……もしかして、あのヴィヴィアンのじゃない?」
ふふ、更に作戦通り、彼の大好きなデザイナーの限定品ハンカチに食いつかせることにも成功。でも、まだまだとっておきの美味しい餌を沢山ご用意していますよ。数週間ひたすら準備して辿り着いたこのチャンス、絶対に逃がしてなるものですか!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はあ……努力したかいあって、あれから無事に付き合うことはできたものの、まさか彼が筋金入りのマザコンだったなんて思いませんでした。人間って見た目じゃ判断できないものですね。今までの人生で彼に抱いてきた幻想が崩れ去ってちょっと落ち込みました。
とはいえ、休んでいる暇などありません。ひたすら仕事人間で生涯色恋沙汰と無縁だった私は、密かに想いを寄せていた相手全員と付き合ってみることを目標にしているのですから。それが、私の走馬灯シミュレーションの使い方なのです!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
科学の発展に伴い、人類は数多くの病気を克服してきましたが、それでも寿命というゴールを取り除くことだけはできませんでした。むしろ、医療技術が目覚ましい進歩を遂げたからこそ、余命までのタイムリミットが非常に正確に分かるようになり、絶望し悲嘆にくれる人々が増えてしまったのです。
そこで人生の最期にとっておきの楽しみを与えるために開発されたのが「走馬灯シミュレーション」です。かつてのスパコンがオモチャ扱いされるほど演算処理能力が向上した超量子コンピュータにより、脳内の膨大な記憶データにアクセスし、各個人の生涯におけるあらゆるIFを再現することが可能になりました。
しかし、当然悪用されれば社会の根幹を揺らがしかねない技術ですから、あくまでも余命一日と宣告された者だけが使用できる制度が定められています。現実世界ではたったの24時間でも、装置に接続された意識では約1年間にわたって、選ばなかった未来の先を覗き体験することができるのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふう……満足、満足……。まさか人生の最期にこんな贅沢な男遊びができるとは思わなかったわ。でも、結局彼らと過ごしたロマンチックな夜も、手がけたプロジェクトに対して注いできた情熱に比べると、何だか味気なかったかも。やっぱり私は仕事を伴侶に選んで間違いなかった、そういうタイプの人間だったってことなんでしょうね。
さてと……そろそろ時間だわ。
あと5秒……4、3、2、1……ありがとう、さようなら。




