詩人は今日も失恋をする(not恋愛男女。友情)
とあるカフェ・バーにて。
「うっ……うっ……」
「アンタ、たびたび失恋するってのに、よくそこまで泣けるよね……」
「うるさい! 失恋とは、一つになりかけていた魂が、また二つに分かたれるという絶望の」
「ストップ。今は詩人の新作、聞く気無いから。……ったく、毎度毎度、呆れるくらい短期間の恋のくせに、毎度毎度こう深く傷つくんだから」
「短くても想いは深い! 君みたいにだらだらと長いだけが恋愛じゃないんだよ!」
「あーそー」
「……ああ、彼女こそ僕のミューズと信じていたのに」
「でも、良かったじゃん。これでまた詩作が捗るじゃん」
「君は、鬼か何かなのか?」
「鬼じゃなくて、泉希様だよ。……どうせ、来週には違う誰かに恋してそうだけどねぇ」
「しかし、それは違う恋で、今の恋とは違うんだよ!」
「はいはい。……ホント、律儀だね」
恋多き男として知られる彼が、恋の終わりの度、そのつど真剣に悲しみ、悔やみ、泣いていることを世間は知らない。
容姿に優れ、自信家であることもあいまって、同性は遠巻きに妬むだけ。異性は、恋愛感情で近付くものばかりで、それを抱かない者は基本的に胡散くさげにしてこれまた近寄って来ない。
だから、泉希だけが彼の唯一の友。
「アンタのその律儀なところ、嫌いじゃないよ。面倒とは思ってるけど」
「正直過ぎるんだよ、君は!」
「でも、藍花は、私のこの正直さが好きだってさ」
「失恋した人間に惚気を聞かせるとは、本当に君って奴は鬼だよ」
ギャンギャンわめき出した彼を見て、泉希は笑う。
(これなら、もうしばらくしたら泣き止むかな?)
そして、そのうち彼は詩作にふけり、新しい恋をして、またますます詩作が盛んになるだろう。
(友だちとして、してやれることはやったかな?)
彼女は、この面倒くさくも愛しい友人のために、もう一杯酒を頼んだ。
END.
短期間でも深く恋をして、そして毎度わんわん泣く。
昔、そんな人の話を聞いて何かいいなあと思ったので。
それを毎回聞いて、仕方ないなあと苦笑しつつもきちんと受け止める友だちがいるのも、とても素敵だなと思いまして。