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魔法少女は無能に縋る  作者: ねこともさん
始ノ話 にゅーよーくエイリアン
7/29

005-2

「なんて言うか――まるで、魔法のような力なんですね」


「まあ、そうかもしれないな――正直、超能力と魔法って、明確な違いがよくわかっていない部分もあると思うぞ。科学的な根拠があるのが超能力で、そうでないものが魔法と言うのなら、そもそも超能力に科学的根拠を求める方が間違っているだろうし」


「手をかざしたら火が出てくることに、根拠もくそもないわよねえ」


「大方当時の偉い人達が、能力と聞いて、超能力のイメージに引っ張られたからそう呼んでいるだけなんじゃないのかな。命名担当者が大の魔法ファンタジー愛好家だったら、その能力も魔法として扱われていたかもしれないし」


「……なんだかそれだけ聞くと、その超能とやらと、魔法との間に、あんまり差がないように感じちゃいますね。私の星でも、魔法は神から与えられた特別な力として語り継がれていますし」


「発祥なんて、突き詰めれば大体、神が与え給うたものだからな――事実、超能だってある種、魔法みたいなものだろうよ。魔法染みた力、それに違いはないんだから」


「ですねえ」



 昼下がりの新垣家。



 タモ材でできたリビングダイニングテーブルに、僕と彼女――叶夢がニューヨークと名付けた彼女は、まるで面接でもしているかのように、向き合うような形で座っていた。僕の隣の椅子には叶夢が腕を組んで腰かけており、傍から見れば面接は面接でも圧迫面接みたいな雰囲気を醸し出しているようにも見えるが、会話のテンションとしてはもっとフラットな、フレンドリーとさえ言えるような、そんな気軽さがあったように思う。


 それに、実際の面接会場では絶対にありえないであろう行為として、現在、ニューヨークは焼き飯を食べていた。


 二合分くらい食べていた。


 僕は必ず、冷凍ご飯は一塊二百グラムずつ測って冷凍している――その冷凍ご飯を四つ使って作っているので、分量としては二合より若干多いくらいであろう。結構な量なので大きめのフライパンを使ったし、家族でおかずを取り分けるための大皿に山のように盛りつけた焼き飯だったのだが、超能の説明をし終える頃には、既に半分以上が、彼女、ニューヨークの胃袋の中へと運ばれていた。


「私の星では、魔法は当たり前のように存在していて、超能力と呼ばれるようなものはありませんからね――不思議な力やおかしな出来事は、全部、魔法の力によるものと解釈されてしまいますから」

「超能力って概念自体が、そもそもないわけか」


「言ってしまえばそうですね。全て魔法で片付いてしまうので、別の星にそんな力があるだなんて、正直、考えたこともありませんでした」


 言いながらニューヨークは焼き飯をスプーンで掬う。あきらかにスプーンのキャパを超えた量を一度に掬い、そしてそのまま、大口を開けてこれまた一口で頬張ってしまった。


 一口がでかすぎる。


 宇宙人で魔法少女で大食いって、属性に事尽きない奴だな……。


「……あんた、女の子ならもっとお淑やかに食べなさいよ。口の周りに米粒付けちゃって、行儀が悪いわね」


「ムッ。失礼な、これでも私、王国の第一王女なんですからね」


 呆れ顔でそんな愚痴をこぼす叶夢に対し、ニューヨークはすかさず言い返す。


 叶夢の口からお淑やかなんて言葉が出てきたことにも驚きだが……え、何、第一王女?


 宇宙人で魔法少女で大食いで第一王女?


 オプション付けすぎだろ。


「しかしまあ、魔法使いねー――でも、イメージとしての魔法と超能力って、全くの別物なんじゃないの? なんかこう、科学と魔術っていうか、なんて言うかこう、電波って言うか……めんどくさ、やっぱいいわ」


「途中で力尽きるのやめろよ!」


「けど、あたしが魔法と聞いて出てくるのはやっぱあれね。不朽の名作、ハニー・ポッター」


「ハチミツでも集めてんのか!?」


「あの作者ってすごいわよね。女子高生であんなベストセラーを生み出しちゃうなんて」


「JK・ローリング先生のJKは女子高生って意味じゃねえ!」


 確か賢者の石を出版したのも三十路過ぎてからだったはずだ。


 物語を書くのは小さい頃から好きだったらしいけど――ちなみに先ほどの風呂場での出来事は、相手がいきなり胸を触らせようとしてきたんだと、二人きりになったタイミングで叶夢には説明してある。かなり疑心暗鬼な目を向けられはしたが、一応はそういう事にしておいてくれたらしい。


 後はそのまま忘れてくれることを願うばかりだ。


「あたしの魔法のイメージは、だからそこが強いわね。杖を持って魔法を唱えたり、魔法の本みたいなのを開いて提唱したり、なんかそんな感じ」


「そのイメージは、大体合っていますね」


「ふうん、そうなんだ?」


「はい」


 ニューヨークは追加で一口、焼き飯を口にしてから語り出す。


「私達、ガレギオン星の魔法使い――魔能者って言うんですけど、ガレギオンでは。私達も、魔導書だったり杖だったり箒だったり、何かしらの道具を依り代としてその力を行使しますから。でも、近隣の星じゃあそんな面倒くさいことをしないで、素手から魔法を放つって言う手法もあるみたいですけどね」


「近隣の星、ね……けどまあ、見てくれだけなら、あんたも立派に魔法使いって感じだけどね」


 訝しげにニューヨークに目をやる叶夢であったが、確かに叶夢の言う通りだ。今のニューヨークの格好は、一言で言うとワンピースのような衣装だった。袖口が黒、胸元やスカート部分が白と言ったモノクロのカラーでまとめられていて、首元には星型の装飾が施された大きな赤いリボンがアクセントとして、蝶ネクタイの様についているのだが、何よりその少し下、僕が世界一のおっぱいと称したその胸の谷間が、あろうことか丸見えとなっていた。胸元に穴の開いたニットなんかがイメージとしては近く、放漫な胸の上にリボンが置かれているような状態が個人的にエロスを感じるポイントとなっていた。また、面白いことに彼女が着ている服は、左腕が長袖で右腕が半袖という、個人の多様化が進んでいる現代という観点で見ても、変わっているという感想を抱いてしまうデザインとなっていた。



 極めつけは、頭の上。



 正直、服だけなら魔法使い感はあまりない。どちらかというとそれはコスプレというか、奇抜なファッションをうまく着こなしているおしゃれ上手な小悪魔系女子、みたいな印象を受けることだろう――ただ、それこそおしゃれなんてものにあまり理解のない、平凡な男子高校生である僕からしてみても、それが一つあるかないかで、こうも全体のアクセントが変わって来るのかと、そう思いたらしめる効果のあるアイテムを彼女は装備していた。



 まさしく、魔法使いと言えば――魔女と言えば、である。



 それは、帽子。



 魔女帽子、とんがり帽子とも言うのか――鍔の広い、頭頂部が折れ曲がって先端の尖った、超能社会の現代でさえ、誰もが思い起こすあの帽子である。恐らくどんな小道具よりも魔女を象徴するシルエットであろう。ニューヨーク――彼女の帽子もまた、例に漏れず魔女のイメージを壊さぬとんがり帽子であった。しかしただの黒い帽子というわけではなく、先端から鍔にかけて赤い紐が巻かれていたり、ハットバンドの代わりに金色の豪華な装飾が施されていたり、頭頂部には金の星が付いていたり、非常に意匠を凝らした独創的なデザインをしていた。


 ただ、それでもパッと見は魔女の帽子。魔女の帽子で魔法使いの帽子――その帽子だけで、彼女の見てくれを魔法使いとして仕立て上げるには、十分すぎると言っていいだろう。



「見てくれだけじゃないですよぅ。私、こう見えてもしっかり魔能者なんですから!」



 えへん、と座ったままニューヨークは胸を張る。


 胸を、張る。


 ばいん、と音がした気がした。


 素晴らしい……いけない、どうにも胸にばかり目が行ってしまう。これも男子高校生特有の性欲の強さ故か、だが僕としては、既に彼女――ニューヨークが、魔能者かどうかはさておき、何かの異能を、少なくとも超能に似た異質な能力を有していることは、認めざるを得なかった。


 それは、今まさに説明に上げた服や帽子を着用する際にあった一悶着。


 逆上した叶夢にぶち殺されそうになりながらなんとか誤解を解き、突如として現れたおっぱい星人を風呂場から連れ出して適当なバスタオルを渡して水滴を拭わせたところで、取り敢えず話を聞くにしても、また、不法侵入を追求して家から追い出すにしても、全裸はまずいだろうと僕なりに気遣い、胸のサイズ的に妹の服はアウトだろうから姉の服を拝借しようとしたところで、ニューヨークは「それなら心配いりませんよ」と僕の申し出を断った。



 直後。



 彼女は聞き取れない程度の声で何やらぼそぼそと言葉を発し――瞬間、光った。


 光に包まれた。


 それは、あまりに一瞬の出来事――眩しさに目を覆う暇すらなく、彼女を包んだ光は消失し、光の粒子の中から現れた彼女は、一糸纏わぬ姿から一変、先程説明に上げた服を着用していたのだった。


 大がかりな手品とも言えるだろう。


 けれど、エルフ耳、小悪魔な尻尾、光に包まれる様――この三点は、少なくとも彼女がただの無能者ではないことを知らしめるには、十分すぎる材料だった。


 ちなみに、叶夢が彼女をニューヨークと呼んだのもこのタイミング。


 入浴=ニューヨークらしい。


 いや本当、ある意味叶夢らしいと言えば叶夢らしいネーミングセンスで驚きもしなかった――だが、それを聞いたニューヨーク自身も特に否定をしなかったので、取り敢えず、便宜上ということで僕たちは、彼女をニューヨークと呼ぶことにしたのであった。


 当然、それが本名であるはずもないのだろうけれど――自分から本名を名乗らないということは、名乗りたくない理由か、名乗れない理由があるのだろうと、僕は勝手に察しておくことにする。


 気遣いの出来る男はモテるからな。



「えーっと……それで、だ。ニューヨーク、ここからは本題なんだけれど」


 僕は改めて彼女へと向き直り、重たい空気になりすぎないようになるべく柔らかい物腰で尋ねた。




「君は、どうして地球にやって来たんだ?」




 お判りだろうが。


 エルフ耳、ハートの尻尾、魔女の服装に早着替え、そして超能を知らなかった(、、、、、、、、、)という事実(、、、、、)から既にお判りいただいていると思うが、そしてこれまでの会話の敬意で散々、最早ネタバレでも何でもないレベルで平然と話題に上がってきているが、彼女、ニューヨークは、曰く、地球人ではないらしい。



 曰く、宇宙人らしい。



 地球以外の、別の星に住んでいる――宇宙人の魔法使いだそうだ。



最後までお読みいただき、心から感謝いたします。

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