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魔法少女は無能に縋る  作者: ねこともさん
始ノ話 にゅーよーくエイリアン
17/29

007-3

「そう言えば、しーちゃんは出かけてるのか?」


 山の如き萌やしを食べつつコーンやらめんまやらを掘り返しながら、軽く辺りを見回して無作為に問いかける。


「いやいや、しーちゃんなら奥の部屋で寝ちゃってるよ。今日は新垣くんが来るとは思ってなかったからさ。起こすかい?」


「いや、いいよ。今日は相手してあげられなさそうだし、ゲームも持ってきてないし」


「そう」


 奥で寝てるという幼女の顔を想起しながら、やっと掘り起こした太麺を啜る――いや待て、この表現だと僕、幼女の顔をおかずにご飯を食べているみたいじゃないか。


 そういう意味では断じてないぞ。


「むむっ。このらあめん、油の匂いは強烈ですがすっごく美味しいですね! 食べ応えがあるというか満足感があるというか、ああいや、お昼に頂いたのが美味しくなかったというわけではないんですが」


「いや、わかってるからいいよ。ていうかカップ麺とラーメン屋のラーメンは、そりゃ違ってて当然だし」


「そういうものなんですか? 私としてはあちらも美味しかったのですが、こちらは更にその上を行くというか、ボリュームと食べ応えがレベルアップしているというか」


「そう? カップ麺のが美味しくない?」


「紛いなりにもラーメン屋の店主が、カップ麺が美味しいとか言うなよ」


「おいおい新垣くん。カップ麺を馬鹿にするんじゃないよ。最近のカップ麺は、屋台のラーメンに引けを取らないクオリティへと進化してきてるんだから」


「知ってるよ。いやお前に言われずとも知ってるんだって。カップ麺の方が食べる機会は多いんだから。毎日三食カップ麺でもいいと思っている僕だけど、そんな僕でも味に関してはラーメン屋のラーメンの方が圧倒的に上だよ。時間かけて作ってるんだから」


「逆に言うけど、三分であのクオリティが生み出せるっていう事じゃないか。こっちは麺を茹でるだけでも数分はかかるよ。ガス台の前に立ちっぱだから、夏なんて暑くてたまらないし、ほんとやってられないよね」


「暑いで思い出したけど」


 僕は店の入り口から少し離れたところにある、店内の小上がりスペースの上部を指差す。


「クーラー。ついに設置したんだな」


「ん? ああ、うん。今年は特に暑いみたいだし、高温多湿はしーちゃんの身体に悪影響だからね。設置はかなり高くついちゃったから、新垣くんに請求してもいいかい?」


「いいわけないだろうが。しーちゃんの為だろ。それに、お前だって使うだろ」


「心頭滅却すれば火もまた涼し、ってね――とは言え、うん、まあ僕も便利に活用させてもらってるけどさ。すごいよねえ。最近の科学技術はさ。あんな箱を置いとくだけで、部屋の温度が自由自在なんだもの。地球温暖化なんて本当は起こってないだなんてよく聞くけれど、ここ数百年で平均気温が上がっているのは事実だしね。。ところで、エアコンの電池って単三でいいのかい?」


「お前、あの高性能家電が電池で動いてると思っているのか?」


 何十本使うんだよ。


 仮に電池式だとしても単三は有り得ねえよ。


「家電繋がりで僕も思い出したけどさ。新垣くん。僕、そろそろスマートフォンって奴を買おうと思うんだよね」


「へえ。いいんじゃないのか」


 この店には固定電話も設置してないので、無作為へのアポは直接訪ねる以外に存在していない。


「携帯会社って色々あって、どこがいいとかわかんないんだよね。新垣くん、オススメとかある?」


「機種じゃなくて契約会社を聞いてくるのか……んまあ、どこも似たような料金形態なんじゃないのか? 今じゃ格安SIMとかも充実してるし、超能者割も使えば価格はかなり抑えられると思うけど」


「価格を抑えたいのはもちろんなんだけど、おじさん的にはわかりやすいのが一番嬉しいんだよね。なんだっけ、ボーダフォンって会社なかったっけ?」


「お前はいつの時代の人間だよ!」


 今の世代に通用しないボケはやめろ!


 ボケなのか本気なのかは知らないけど!


「蓼疾さん。スマートフォンとはなんですか?」


「え? ああ、そっか」


 生まれて初めてされた質問だった――そうか。超能と同じように、今や地球上の人類なら誰しもが当たり前の存在として認識しているスマホでも、宇宙から見て見ればごく限られた地域での流行に過ぎないんだな。


 僕はポケットからそのスマホを取り出してニューヨークに見せる。


「これだよ。略してスマホとも言うんだけど、電話したりネット見たり写真を撮ったり、最近じゃ財布代わりにもなるんだっけか。大抵のことなら、これさえあればなんでもできちゃうんだ」


「こんな薄い板でそんなに高機能……噂には聞いていましたが、地球の科学力は恐ろしいものですね」


 おもちゃを与えられた子供のように、目を輝かせてスマホを観察するニューヨーク。



「スマートフォンなのに、スマホって略するんですか?」



「…………」


 僕に聞かないで。


 いやまあ、それは僕だって思ったことはあるし、と言うか多分、誰しもが一度は気になったことがあるだろう。けれどまあ、スマフォってなんか言い辛いもんな……しかし、カップ麺と言いスマホと言い、もしかするとガレギオン星と言うのは、地球より少し遅れた文明を生きているのかもしれない――遅れたという言い方は失礼だろうか。違う文化圏とでも表現すべきだろうか。


「遅れている、という表現はあっているかもしれません。例えば蓼疾さんの家にあった、お湯が出てくる機械、あるじゃないですか」


「電気ポットのことか」


「あんなものも、私の星にはありませんからね。水をお湯にしたければ、火炎魔能を使うというのが常識ですから。科学の発達は遅れていますが、その代用に、当たり前に魔能を使うと言った感じでしょうか」


「魔能ね……まあ確かに、外で焼き肉するときとかは、叶夢が超能で火を起こしたりはするけど。けど、超能より先に科学としての文化が生まれていたから、地球じゃ機械に頼る方が普通かな。蛇口を捻れば水は出るし、コンロを捻れば火はつくし、ボタン一つで電気は通るし。超能を使うのにもエネルギーがかかるみたいだから、だったらわざわざ自分でやらずとも機械を使う、って感じなんだろうな」


「文化が先、ですか……」


「刷り込み、って奴だよ。宇宙人ちゃん」


 厨房から出てきた無作為は、ニューヨークの隣の席に腰掛けてそう言った。


「鳥の子供って言うのは、卵から生まれた時に一番初めに見た鳥を親だと思い込む。それが実の親であれ、或いは完全なる別種であれ、だ――人間にも似たような特性があって、一番初めに見た物や触れた物の影響を受けやすいんだ。先に生まれたものが正義、とでも言うのかな。後から生まれたものは全部二番煎じと揶揄して切り捨てる、そういう悲しい生き物なんだよ。人間って奴は」


「無作為。あんまり曲解した意見をニューヨークに押し付けるなよ。地球のイメージが悪くなるだろ」


「イメージを良くする必要も特にないだろう。地球侵略に来たわけでもあるまいし」


「でも、ガレギオンもそうかもしれません。仮に地球で発達した科学技術を持ち込んだとしても、あの星はそれを持て余すと思います――魔能でどうにかなることを、わざわざ魔能以外でどうにかしようとはしませんよ」


「はっはー。宇宙広しと言えど、人間なんてどこでも似たようなのばっかりってことか。こりゃ一本取られたね」


「別に取られちゃいねえだろ」


 本当、適当なことしか言わない男だ。会話の中身も詰まっているようですかすかというか、噛み砕いてみると全然ない感じ――味のしないガムとでも言うべきなのだろうか。ただそんな意味のない会話でも、のべつ幕なしに話し続けることで相手に反論の隙を与えず、結果としてそれが深い意味を持つと錯覚させる――初めて会った時から、無作為への印象は変わらず、ずっとこんな感じだった。


 ずる賢い。


 彼はずる賢いから――賢くて、ずる賢い。


 地頭がいいのか処世術が上手いのか、それともただ単に何もかも適当なだけなのか、本当に、一ミリも見習いたくない世渡り論だ――しかし本日、僕がこうして、そんな不審者もいい所の危険人物の元に、可愛さ宇宙レベルの超絶巨乳美少女を連れてきたのもまた、その賢さを頼るためだったりもする。「力になれるかも」などと自信ありげに言っておきながらこんな風に第三者に頼り出している自分にいよいよ嫌気が差してしまいそうになるが、しかし相手が――敵が、この場合は悪かった。


 だから、彼の奇想天外な賢さを頼りに来たのだ。


「それで、新垣くん。今日は一体何の用だよ。そんな可愛い子まで連れて来て、まさか夏休みテンションで出来ちゃった彼女を見せつけるためにわざわざ訪れたのかい?」


「お前の中の僕って、もしかして相当チャラいのか?」


 なんでさっきからノリが大学生なんだよ。


 もしまた彼女ができても絶対にお前には見せないよ。


 無作為はややうんざりとした様子で、嘆息気味にそう投げかけてくる。早く話を進めたいのは僕としても同意なので、スープまで飲み干した後割り箸を揃えてどんぶりの前に置き、僕は要件を切り出すことにした。


「無作為――僕たちに協力してほしいんだ」


「無理」


最後までお読みいただき、心から感謝いたします。

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