007-1
あれは夏休みのことだった。
僕はゾンビに襲われた。
超能が飛び交い、科学技術も発展し、無人ロボットがパトロールをし、天気予報の正確性が九十九パーセントを超えるようになった現代において、穴があったら一生そこで暮らしていたいくらい恥ずかしくて仕方のない話になるのだが、とにもかくにも、僕はゾンビに出会った。
とても小さなゾンビだった。
小さくて可愛らしい――そんなゾンビだった。
ゾンビに出会って――襲われた。
襲われ、殺された。
一年前、高校受験を控えた多忙で多感な時期であるはずの中学三年生の夏休みに、僕はゾンビに襲われたのだ。
笑い話にもならない。
暗い話ですらない。
もちろん、僕は死んだ。
すっかり傷なんて癒えてしまってもう跡形もないけれど、首の右側と肩の付け根辺りを遠慮もなしに勢いよく噛まれ、そのまま皮膚を、肉を食い千切られ、骨が見えてもその牙は留まらず、当たり前のように、僕は死んでしまった。
僕がゾンビと聞いて最初に思い浮かべることと言えば、やはり某有名なサバイバルアクションゲームであろう。僕の幼なじみに超が十個付いてもまだ足りないほどのゲーマーがいるのだが、あのゲームは本来、対象年齢が十七歳かそこらに設定されている筈なのだが、何故か僕らは幼い頃からそのゲームをプレイしていた覚えがある。後ろで叶夢がビクビクしながら鑑賞していた記憶が蘇る。初めの内は恐怖を抱いていた僕も、いつしかゲームだと割り切って普通にプレイさせてもらっていたが、やはり画面の中と本物では恐怖が段違いになる物である。そして大体、その手のゾンビゲームやホラー映画では、海外生まれの彫りの深い、ダンディでイケメンな人が助けに来てくれるのが相場と決まっているだろうが、なんとも場違いなことに、手違いでも起こったかのように、僕は大変小汚い、いい年してロン毛でヨレヨレのスーツを着た浮浪者のようなおじさんに助けられた。
助けられてしまったと言ってもいい。
命の恩人に対する形容では絶対ないというのはわかっているけれど、それはさておき、そんなホームレスみたいなおっさんの手によって、僕は何とか一命を取り留めることができたのだった。
取り留める――と言うよりかは、取り戻すと呼んだ方がいいだろう。
生者として――亡者として。
より正確には、ゾンビとして。
僕もまた、ゾンビとして、生きる屍として、生まれ変わることとなったのだった。
ほとんど人間に戻ることができた――代わりにその代償として、こんな、化物の様な再生能力を手にしてしまったというわけだ。
ピアス穴を開けても。
タトゥーを刻んでも――一瞬で元通り。
ゾンビに噛まれた者はゾンビとなる――まさにその通りになってしまったのだった。
最後までお読みいただき、心から感謝いたします。
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