005-5
「えっと……蓼疾さん。それは、どう言う意味でしょう?」
「いや、そんなに深い意味はないよ。ただ言葉通りの、そのまんまの意味だ。相手が本当に君を殺しにかかって来ているというのなら、もしかしたら、少しくらいは役に立てるんじゃないかって――それに、仮に僕が駄目でも、叶夢がいる。少なくともこいつなら、戦闘面において、僕よりかは役に立つはずだ」
「人を都合のいい道具みたいに言ってんじゃないわよ」
少し苛立った様子を見せながら、「んま、少なくともこいつよりかは役に立てると思うけど」と言い切って見せた。
「例えばどっかのセクハラおっぱい魔人を消し炭にしたりね」
「セクハラおっぱい魔人? そんな野蛮な奴がいるのか、僕が始末してやろう」
轟ッ!
と、僕の目の前に西瓜ほどの大きさの火球が一瞬、現れた。
「そうね。始末してやらないといけないわね」
「ま、まあまあ……ほら、お前は他に始末しなきゃいけない人がいるだろう?」
いつまでも、こんな馬鹿なやり取りを繰り広げてしまう。
もう高校生なんだから、少しは落ち着かないとな……。
「……お二人とも、ありがとうございます。ですが、いくら叶夢さんが凄い人だとしても、やはりご迷惑はかけられません」
しかしそこで、申し訳なさそうに、ニューヨークはそう言って僕の提案をやんわりと断った。
「相手はただの魔能者じゃないんです。只者じゃないんです――使命として、私を殺しに来ている。使命であり、命である。命である以上、それを邪魔する者にも容赦なく牙を剥くことでしょう。あの人は普通の人じゃない。一般人じゃない、魔人なんです。魔人は人を殺すことに一切の躊躇もありません。それでもし、叶夢さんの身に何かあったら、私は蓼疾さんに顔向けできません」
「何、あたしの心配してるわけ? 大丈夫よ。何かされる前に燃やし返してやるわ。そんで死体ごと火葬してやるってーの」
「いえ、そういう問題ではなくて……」
ニューヨークはやや困ったような表情を浮かべ、
「何かされてからでは遅いという話です。私に関わってしまったことで、関係者と認定されて見境なく襲撃される可能性だってあるんです。今、こうしてお話していること自体、かなり危険なことなんですよ」
「だったらどの道、結果は一緒じゃない。大丈夫大丈夫、安心しなさいよ。無様な結果には終わらせないわ」
「――今まで」
突然。
ニューヨークが、とても冷たい声色で、口を開いた。
突き放すような、突き刺すような、そんな、冷たさだった。
「今までに五人、故郷のガレギオンで、私に同じように声をかけてくれた人がいました――そして五人とも、殺された」
殺された。
私のせいで殺された。
私を助けようとして――その命を無駄にした。
「ねえ、蓼疾さん」
ニューヨークは僕を見る。
社会の闇を覗き見たような、光を失った瞳で。
「あなたは――私のために死ねますか?」
「死ねるよ」
僕は――即答した。
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