幽霊マネージャー登場
病院を出て駐輪場へ向かい、自分の自転車を引っ張り出してきた晴希は病院の敷地内を自転車を引きながら家の方角へ歩いていた。
日が落ちたといってもまだ辺りが薄暗くなった程度で視界に困るほどではなかった。晴希は夏の日落ち後のこの生暖かさが嫌いではない。
「あーいたいた。やーっぱりここだったんだ」
不意に前方から聞こえた声に晴希は視線を上げると、全体的にボーイッシュな印象を受ける少女がこちらを向いて腕を組み、仁王立ちしていた。
腕と足の袖を捲し上げた赤と白の色合いのジャージに身を包み、右目尻を通って一部分だけ長く伸びたアシンメトリーな前髪が特徴的な茶髪ショートヘア。左の前髪は邪魔なのか三日月の形をしたヘアピンでとめていて、口元からちチラッと見える八重歯が小悪魔っぽい印象を与える。
その少女を見て、晴希はため息交じりに呟いた。
「お前か、日野」
「お前かって何よ! あたしで悪かったわね!」
彼女、日野アカリはそんな晴希の面倒くさそうな態度など気にせず、腕組みをしたまま話始めた。
「大会後のミーティングをサボってどこに行ったのかと思えば、また例のヒカリさんのお見舞いだったんだ」
「お前には関係ないだろ。てか、大会の時しか部活に来ない幽霊マネージャーにサボったとか言われたくないっつーの」
「あたしは幽霊マネージャーじゃなくて、大会限定マネージャーなの」
「それを世間では幽霊マネージャーって言うんだよ」
軽く言い合いながらも互いに親しみが垣間見えるようなやり取りをしながら、二人は病院の出口の方向へと足を運ぶ。
「ってか、お前がここにいるってことはもうミーティングは終わったのか?」
「とっくの昔に終わりましたー。先生、晴希がいないからって機嫌悪くてさ。すごく面倒くさかったんだから」
「それはみんなには悪いことしたな」
晴希はポリポリと人差し指で頬を掻く。
「そーそー。反省してよね」
「お前には思ってね―よ」
「っちょ、それひどくない⁉」
日野はいたずらな八重歯を見せながら晴希を指摘する。
日野の家の場所は詳しくは知らないが、いつも帰る方向が同じなのでそのまま流れで一緒に帰ることになった。