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ザ・ドリームマッチ!  作者: 旭宏耀
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眠り姫

「あ、あの……一体どうしたっていうんですか? ヒ、ヒカリに何かあったんですか? 大丈夫……ですよね? 寝ているだけですよね?」

 晴希は全身びしょ濡れのままにパニック寸前の頭から震える声で質問を投げかける。

 少しの間、暗い沈黙が室内に流れた。

 すると、ゆっくりとこの病院の院長である中年の男性医師が申し訳なさそうに口を開いた。


「申し訳ありませんが、…………おそらくもう二度と、彼女が目を覚ますことはないでしょう」


「………………………………………………は?」

 言葉を失った。感情が凍った。

 パニック寸前だった頭は完全にショートし、男性医師の言っていることが理解できなかった。

いや、理解を拒絶していたのかもしれない。

(この人は何を言っている? 医者じゃないのか? 目を覚まさない? もう二度と?)

 様々な疑問が頭の中を一斉に覆いつくし、処理が追い付かない。

 晴希は呆然と立ち尽くしながら、しどろもどろ口だけを動かす。

「ど、どういうことですか? 死んでしまったわけではないんですよね? ちゃんと息も吸っているし、脈もある。なら何で、どうして目覚めないんですか?」

「……それが、私たちにも分からないんです」

 頭が真っ白になった。

「……わか、…………ら、ない?」

 男性医師は目を伏せて自分の不甲斐なさを心底悔やむように立ち尽くしていた。

 気付くと晴希の頬には涙が伝っていた。

 それに自覚した瞬間、涙とともに湧き出す感情を止めることができなくなっていた。

「……分からないって何だよ。アンタそれでも医者かよ‼ 医者なんだろ‼ だったら治してみせろよ‼」

 晴希は男性医師の胸倉を乱暴に掴み、病室の壁にそのままの勢いで叩きつける。男性医師は抵抗せず、されるがまま壁に叩きつけられた。

「申し訳ありません………」

男性医師は何度もそう言って謝罪を繰り返し、下唇を噛みしめ、強く握りしめた拳は震えていた。

 そこで晴希は自分のした浅はかな行為に後悔した。

 当たり前だ。医者としても助けられる命ならば助けたいに決まっている。その責任を医者に押し付けるのはお門違いだ。

 しかし、止められなかった。そこで受け入れて冷静を装えるほど晴希は大人ではなかった。

 人にあたっても無駄なことはわかっている。でも、何かにこの感情をぶつけなければ、自分を保っていられなかった。

「幼馴染なんだよ‼ 大切な……人なんだよ……」

 男性医師もすべての責務を負うつもりなのか晴希の言葉を深く受け止めてから、経緯の説明を始めた。

「今日の昼過ぎ頃にヒカリさんのお母様から、いくら声を掛けたり、肩を揺すっても目覚めないという緊急連絡を受けまして、それからすぐに対応に向かって様々な検査を試してみたのですが、特にこれといった異常は見つからず、体はむしろ健康に近いと言ってもいいくらいです」

 男性医師は首を少し横に振りながら続ける。

「このような症状は今までに前例がなく、まるで意識だけが抜けてどこかへいってしまったのかのようで、本当に病気なのかすらも分からない状態です」

 晴希は男性医師を放し、ゆらゆらとした足取りでヒカリの眠る寝台へと近づいた。

 そして、膝から崩れ落ち、雪のように白い肌をした冷たい手を両手で握り、額に付けると感情の波が溢れだし、とめどなく涙が頬を伝って流れ落ちる。

「……ちくしょう…………約束……したじゃねぇかよ――――――――――――――――――


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