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ザ・ドリームマッチ!  作者: 旭宏耀
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 晴希はどしゃ降りの雨の中を走っていた。

「今日の天気は一日通して晴れなんじゃなかったのかよ。なんでこんな降ってんだよ」

 スポーツバッグを頭の上に乗せて傘代わりにしながら、愚痴垂れる晴希だったが、その表情は言葉とは裏腹に笑みがこぼれていた。

 理由は簡単、優勝して見せたのだ。

 晴希は見事約束通り、中学二年生にして全日本中学生剣道選手権大会で優勝して見せたのだ。

 伝えられる、これでやっと。自信をもって彼女に想いを――――。

 雨に打たれてずぶ濡れになろうが、水溜まりを踏みしめて靴が汚れようが、今の晴希にはどうでもよかった。

 今は早くヒカリのところに行ってバッグの中のトロフィーを見せることで頭がいっぱいだ。


 そして晴希は病院に着くと、軽く雫や泥を払い、スキップでも踏めそうな足取りで建物の中へと入り、軽やかな歩みでヒカリの病室が見えるところまでやってきた。

 しかし、そこで晴希の表情がこわばった。

 何やら様子がおかしい。

 まず、人が多い。

 ヒカリの病室の扉は空いており、中にはヒカリの両親に加えて医師や看護師が複数名集まっていた。通常複数名の病院関係者が一つの病室に集まることなどまずありえない。

 そして、もう一つ。皆、表情がとても暗い。

 嫌な予感がする。とても不吉な予感。

 晴希の体は、自然と目線の先にある病室へと足を運ばせていた。

 病室が近づくにつれて、鼓動と足踏みが連動しているかのように加速する。

 予感が当たらないよう祈りながら晴希はそのままの勢いでヒカリのいる病室内に駆け込む。

「ヒカリ‼」

 病室内の大人たちを乱暴にかき分け、半ば強引に中央に進むとそこには静かに眠る幼馴染の姿があった。

 まさかと思い、冷や汗を額に浮かべながら心電図を確認するが、脈はいつも通り正常に働いている。耳を澄ませば寝息もうっすらと聞こえてくるし、顔色もいつもに比べれば少し白いが気になるほどではない。それに表情も苦しくはなさそうだ。

 晴希はほとんど反射的に素人なりに現状把握に努めるが特にこれといった異常は見当たらない。

 しかし、晴希は気を抜かなかった。いや、抜けなかった。

 なぜなら、眠る幼馴染の安らかな表情とは対照的に彼女を囲む大人たちの表情はとても暗く、その病室内には重苦しい雰囲気が立ち込めていたからだ。

 皆、口を開くことはなく黙り込んでいる。その中で、ヒカリの母親のすすり泣く声と嗚咽だけが耳に残る。いつも剣道の稽古をつけてもらっているヒカリの父親も眉間にしわを寄せ、目を瞑ってはいるが、目尻には涙が溜まっていた。


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