2年前
ゴホンッ。
晴希は高まる気持ちを誤魔化すように口元に拳を作り、喉を鳴らした。
数分前から同じところを行ったり来たり、傍から見ても落ち着かない様子なのは一目瞭然だ。
時刻は朝の七時。つい三十分前まで目を擦って朝食を取っていたのが嘘かのように目はパッチリと冴え、動悸も少し速い気がする。
本日、八月十八日は全国中学校剣道選手権大会の最終戦が行われる日だ。
中学二年生の晴希はそれに選手として本日出場予定で数時間後には試合も控えている。
しかし、晴希の高まる気持ちの矛先は数時間後の試合にではなく、今この瞬間に向いたものだった。
現在、晴希はとある病室の前に来ている。その病室には「月城ヒカリ」と書かれたネームプレートが掛けられており、幼馴染が中で入院中だ。
ヒカリは昔から病弱で定期的に病院に通うのが習慣となっていたのだが、中学に入ってから少し経つと、状態が悪くなったらしく、入院することになったのだ。でも、そこまで深刻なものでもないらしく、今では体調も回復し、近いうちには退院できるそうだ。
本人はいつも口癖のように「大丈夫だから」、「心配ないから」と言ってはいるが、入院と聞くとどうも心配で晴希は週に最低三度は顔を出すようにしている。
しかし、本日はこれまでのお見舞いのときの心境とは訳が違う。
本来の出発予定時刻から三十分も早くに家を出て、朝早くに自転車で数分のこの病院に来たのには理由がある。
晴希は今日、いや今から、ヒカリに対して恋心を打ち明けるつもりでここに来ているのだ。いわゆる告白というやつだ。
「あああああー緊張するぅ。引き返すか? いや、今しかねぇだろ! ……でもなぁー」
かれこれ病室の扉の前でウロウロし始めてから十分くらい経っただろうか。さすがにそろそろ廊下を行き交う人たちに不審がられるのも時間の問題だ。
そろそろ腹をくくらなければ。こんなチャンスは今しかないのだ。今日の大会で優勝したら付き合ってくれなんて言えるのは。
この恋心に気付いたのは割と最近でここ一年でのことだ。
それまでヒカリとは毎日のようにうんざりするほど顔を合わせていた間柄だったのだが、入院すると、学校にも来なくなり、必然的に会う頻度が減って、ここ一年で物足りなさや寂しさを感じている自分に気付いた。
まさかな……。
最初はその程度だった。しかし、一度意識しだすと止められなくなっていく。
もしかして……。
それまでヒカリとの距離が近すぎて全く気付いていなかったこの感情がどんどん自分の中で大きくなっていき、次第にそれは確信へと変わっていった。
おれ、ヒカリが好きなんだ。