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売りもんじゃねぇよ!

 落下が始まった。

 ぐんぐん落ちていく。


 ちょっと待て、あの舗装された地面に激突したら、こんな簡単な木のボディなんか、一瞬でばらばらになるぞ!

 パム、何とかしてくれ!


「飛ぶがいい」


 めっちゃ薄情な返事がきた。

 そんな事が出来るんだったらとっくにやって……。


 る、ぞ!?

 ええっ!?


 俺、飛んでる!?

 いや、浮いてるって感じだな。

 凄い勢いで落ちてたのに、いつのまにか減速していた。

 

 パラシュートで降下するのはこんな感じか?

 ふわふわのんびりじゃないが、それなりに風の抵抗を受けているものの、とにかく真っ逆さまに地面へダイブ状態は免れてる。


 と思ったら、自分の真上を見て理解した。

 ほんとに、いつの間にかパラシュートが開いてる!?


 全力でアニメ柄だけど。

 『学園天国パーリーガールズ』って、放送が始まったばっかりのチェック番組だ。

 推しキャラのレナちゃんが透けて見えてる。


 何だこの再現性は。

 有り得ないハイクォリティぶりで、思わず見とれた。


 基礎知識によると、イメージを実体化させる魔法が発動したらしい。

 落下からの助かる手段を咄嗟に思い付いて、それがパラシュートだったわけだ。

 

 アニメ柄までは考えて無かったんだけども、無意識にやらかしたらしい。

 オタクの習性、恐るべし。


 無事に着地した。

 ライオン男が物凄い興奮ぶりで、飛びついてきそうな態勢になってる。


 鳥野郎を仕留めちゃったからなあ。

 恨まれてるかも。

 

「おまえ、素晴らしい素地だな!」


 あれ?

 やばい、余計気に入られたフラグ立ってる?


「これはもう是非とも欲しいぞ貴君どうか譲ってくれ」


 げ、しつこい!

 またもや早口まくしたてのおねだりだ。

 ティラノ、どうする?


「売り物ではないと言っている。

 あまり聞き分けが悪いと、評議会で会おうという事になるが、それでもよいか」


 珍しく話が長い。

 ライオン男は、やっと諦めたらしく、肩をすくめた。


「気が変わったらいつでも商談に応じるぞその日を待ってるぞ他には売るなよ。

 俺はブレナンだ必ず一番最初に声をかけてくれ頼んだぞ」


 言いたい事を一息に言い、さかさかっと左に向かって歩いて行った。

 なんちゅう気の早いやっちゃ。


「何だったんだ、今の」

「目立ってしまったな」


 ティラノが呟くように言った。

 あんまりいい感じがしない口調で、ちょっとどきっとする。

 かなりまずい事になっちゃったのか?


 質問してみようと思った時、パムが空から降りてきた。

 俺を見る目が、前とは何となく違う感じ。

 

「貴様、何を引きずっている」

「え?

 あ、これか」


 パラシュートなんて、そりゃ見た事無いよな。

 これどうしたらいいんだろ。

 想像して出現させたんだから、仕舞うのも同じ要領だろうか。


 とりあえず「パラシュート、綺麗に畳んで消えろ」と考えてみる。

 一瞬未満で、足元にあった布の塊が消えた。

 頭に浮かんだイメージは、ぱたたたっとパラシュートが自動で畳まれ、ランドセルみたいな収納ボックス風の容器に収まったってとこだ。


 やっぱり、可能な限り具体的に、精密に、考えるのがコツっぽい。

 落ちていた時、空を飛ぶ自分の姿をイメージ出来なくて、鮮明に想像したのは、パラシュートで降りて来る自分の姿だった。

 この系統の魔法は、想像力が勝負らしい。

 

 パムが俺の胸を注目している。

 つられて視線をやると、ルビーの色は最初の明るい赤になっていた。


魔法源泉(ポーマ)に注意しないと、泣きを見るはめになる」


 真顔の忠告だった。

 あー、なるほど。

 魔法は体の中に溜めているポーマを消費するって事だ。

 さっきチャージしたばっかりだけども、早くもかなり使ってしまったらしい。


 あんまり調子に乗ったら、消滅しちまうな。

 確かに気を付けなきゃだ。


 そんなこんなで、俺達(正確にはティラノ)の目的地に着いた。

 何かもう、凄ぇとしか言えない光景だった。


 それまではひたすらだだっ広いだけだったのに、今、目の前にはオーロラのカーテンが降りている。

 見る角度によって、赤かったり青かったり、うっすら緑だったり。

 真正面から向き合うと、地面から空へ、虹が一直線に伸びてるみたいに見える。


 裾がひらひら、風に吹かれているように動いていて、テレビや動画で見た事があるオーロラそっくりなんだ。


 端が見えないぞ。

 どこからどこまで続いているのか、見当もつかねー。


 ティラノは、オーロラカーテンから、見た感じ一メートルくらいの距離を取って、立ち止まっている。

 その後ろにパム、でもって俺。


 こっそり様子を伺っていたら、ティラノが会釈するように頭を軽く垂れた。

 あー、さっきも見たな、この姿勢。

 魔力源泉を浴びる時、やっぱりこんな感じで、両手をクロスさせたんだった。


 その姿勢には、何かのパスワード的な役目があるのかもしれない。

 オーロラカーテンがそっと開いて、中から球体が出て来た。


 あー、さっきじゃないけど、見た事あるな、この形。

 キューブ型のパズルだ。

 ティラノは手に取り、無造作な感じでくるくる回し始めた。

 完全に立体パズルのノリだ。


 あっというまに一面が赤一色にまとまって、その直後だ。

 カーテンが、今度は盛大に開いた。

 勝手に持ち上がって、左右に広がる。

 王様のお通り、みたいな。


 ティラノは背後を振り向かず、右手を軽く上げて、例の指でちょいちょいをやった。

 パムが深ぁくお辞儀して、両手をクロスさせた。

 俺はつられてその後に続こうとしたんだけど、一歩も進めなかった。

 その場で強制足踏み状態、前に行けない。

 なんだこれ。


「礼を捧げんか、無礼者」


 肩越しにこっちを見たパムが、あきれたような視線を送ってきてる。

 また、最初の態度に戻っちゃったよ。


 魔力源泉を浴びた時と同じで、何か意味がある動作だったんだな。

 仕方ない、やらなきゃ先へ進めないなら。

 俺も頭を下げて両手をクロスさせた。


 おっ、普通に歩けるようになった。

 カーテンの内側に入ったら、別世界だった。


 やっと風景らしいものが視界に入って来たぞ。

 でも、明らかに俺が知ってる普通じゃない。


 壁がある。

 透明で、ガラスのような質感だ。

 その中を、水が流れている。


 壁を伝って流れるタイプの噴水って印象だな。

 水に邪魔されて、その向こうは見えない。

 ぼんやりとなら見えるんだけど、何が何だか。


 壁がずっと続いて、正面にはステージ風の高い段がある。

 学校の体育館にありそうなやつ。

 ただ、やっぱり透明なガラスで出来ている感じ。


 遠くから見ても、ステージには台があるのが判る。

 どこからか校長が出てきて、長ったらしいめんどくさい話をし始めたりして。

 近くに行かなきゃ、はっきりとは分かんないんだけども、だいぶ離れてるここから見る限り、木じゃないと思う。

 あのライオン男が


「木で出来ている仮人は珍しい」


 とか言ってたし、もしかするとこの異世界には、木はほとんど無いのかもな。

 きょろきょろしてたら、ティラノが歩き始めた。

 

 おおっ。

 あいつの動きに合わせて、壁際の床から水が沸き始めたぞ。

 膝くらいの高さまで吹き上がっては、床に吸い込まれるように消えていく。

 周囲を、細かい光が取り囲んで、輪を作っている。


 何かの演出か、これ。

 ティラノ御一行様・歓迎的な。

 薄暗かった空間も、ティラノが壇上に近づき始めたと同時に明るくなった。

 光源は分からない。

 壁全体が一斉に明るくなったような印象だ。


 パムの後ろについて、俺も前へ進んだ。

 やっぱり神殿っぽいな。

 だって、ステージの上にある演説台みたいなところに、今は人影が浮かび上がってるんだよ。

 VR映像が投影されているようだけども、とにかく誰かいる。


 おおおおおおぅっ!

 女神様だ!

 めっちゃ女神様だ!

 

 うっかり美人なんて言ったら、失礼にあたりそう。

 完っ璧なたまご型の輪郭、長くて癖一つないストレートヘア、体形にぴたっとジャストフィットしているロングドレス。

 ほとんど露出は無いし、これといった飾りもつけてないのに、すげー色っぽいのは何でだ。

 ド迫力のおっぱいが原因か。そうに違いない。


 アホな事を考えてる間に、ティラノはステージ前で膝をついていた。

 あの偉そうな恐竜顔が、神妙な態度になってるぞ。

 パムなんかうずくまるみたいにして、思いっきり顔を伏せてる。

 やっぱ俺も同じ姿勢にならなきゃダメっぽいな。


 かなり慌ててしゃがみ込んだ。

 木で出来ているボディなもんで、我ながら凄いぎくしゃくした動きだった。

 がしゃんとか、変な音もしたぞ。

 大丈夫か?


 俺の心配なんか気にも留めてない風で、ティラノは


「御前に控えますのは、カエルにございます」


 重々しく挨拶した。

 カエルって言ったよな、今。

 顔は恐竜なのに、名前はカエルなのかよ。

 まぁ、俺にとっちゃティラノで十分だ、こいつは。


「以下二名、謹んで参上致しました」

「宜しい」


 綺麗な声だった。

 それに、威厳も感じる。

 本物の女神様かどうかはともかく、かなり上位の立場なんだろうというのは自然にわかった。

 少なくとも、ティラノよりは偉いんだろうな。


「本日は、新たな仮人を召し連れましてございます。

 この者の誓いをご嘉納賜りますよう」

「宜しい」


 女神様、一言しか言わないな。

 つまり俺は、ここで「誓いの奉納」とかいうのをやらなきゃいけないって事か。


 やり方は、基礎知識が教えてくれた。

 俺は、ティラノの合図を待った。


 この異世界では、序列がものをいう。

 判っていても、勝手やっちゃいけないんだ。

 マスターに指示されて、初めて動ける。


 ティラノが指を動かした。

 顔を伏せていても、頭の中に映像が現れるから、合図された事が判る。


 なるほど、パムはこれを見て動いていたのか。

 この世界じゃ、魔法は具体的な仕草とか想像とかが、発動のスイッチになるみたいだ。


 俺は立ち上がり、出来る限り顔を伏せた。

 壇上の相手を直視しないのも、ここのルールなんだ。


 前を見なくても、どこまで歩けばいいかは、直感的に把握出来る。

 ステージに登ればいいらしい。


 誓いについても、基礎知識を調べて詳しく知った。

 何はともあれ、最初から決まっている文言っていうのがあって、それを唱えなきゃ始まらない。


 はっきり言って、さっきまでは不本意だったんだけどな。

 でも、今は。

 この綺麗すぎる女神様になら、誓ってもいい気がしてる。


 一度奉納したら、永遠に破れない。取り消しも出来ない。

 この異世界に受け入れられる為の宣誓だ。


 俺は、演説台に右手を伸ばした。

 不思議なくらい、躊躇いは無かったんだ。


 手を置いた途端。

 台が大きく揺れて、光の輪が浮き上がった。

 俺の右手を囲むように小さいのが四つ、手のひらの下に一回り大きめのが一つ。


 何だ!?

 手が、吸い付いたぞ!? 動かせないっ!


 でもって、四つの輪の中心から、棘が生えた植物の茎みたいなのが一斉に生えてきた!

 薔薇の茎に似てるそれが、俺の腕に絡みついて、棘が次々と突き刺さっていく。


 おいっ、聞いてねぇぞこんなのっ。

 

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