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俺が泥棒されるとき

 バトルとか魔法勝負とか、やらされるんじゃないだろうな。

 何が起きてもおかしくない世界だ。

 緊張しながら、改めて周囲を見渡してみた。


 街らしい風景じゃないな。

 かと言って自然溢れる平野って感じでもない。

 俺達が居る場所は、広場といった印象だ。


 あれが移動の魔法なんだ。

 石が目印的な役割を果たしているっぽい。


 あいつらは、いろんな場所からこの広場を目指して来てるんだろう。

 特に何も無い、ひたすらだだっ広いこの場所は、何なんだ。


 地面は整備と白い舗装がされている、でも黒い菱形の魔法目印しかない、店とか屋台とかがある訳でもない、人は多いがただ一方向に向かっているだけで、まるで駅のコンコースみたいな。

 通学ラッシュタイムを思い出す光景だ。


 そして、誰も喋って無い。足音もしない。

 まるっきり無音の世界だ。


 めっちゃ不気味だぞ、これだけ人がいるのに、ざわつきも無いのは。音声カットした動画見てるみたいだ。

 俺の聴覚がいきなり鈍くなったのか? いやさっきティラノの声は聞こえたし?

 悩みかけた時


「お待たせ致しました」


 パムが渦巻きから姿を見せた。

 よかった、俺の聴覚の問題じゃなかった。


 ティラノは何も言わず、人の流れに乗るようにして、歩き始めた。パムも当然に従う。

 連中の背中を追いかけて、俺も足を動かした。


 もう訊いても無駄なのは学習した。自分で調べろと言われた事だし、続きは自力で! をやってみるさ。

 改めて考えたら、今度は鮮明に閃いた。


 ははぁ。

 理屈で理解した訳じゃなくて、感覚で把握したってところだが、ここはこの異世界を生きる為には、とても重要ゾーンだったのか。


 この場所でなければ出来なくて、出来なかったら消滅するしかないっていう「とある事」。

 それをやるために、みんな集まっているんだ。


 俺は前を行く二人に置いて行かれないよう、足を速めながら、あれこれと考えた。

 物事には順序がある。

 今しなきゃいけないのは、これからやる事についての予想じゃなくて、頭の整理だ。

 パムとティラノが伝達してくれた各種の知識を、扱いやすくする。


 自分の頭をパソコンとかスマホに、貰った情報をデータのダウンロードやアプリに見立てて考えれば、けっこう判りやすい。


 パムが情報を大量にくれて、ティラノが整理しやすく、つまりタグをつけてくれた感じ。

 この世界の基礎知識系とか、魔法知識系とか、そんな要領で自分にとって使い勝手良くするんだ。


 改造リメイク改変カスタマイズならお手の物、だいぶすっきりした。

 まあ、何でも知りたい放題ってわけにはいかないようだけど。

 必要最低限の基本情報は、いつでも簡単に探せるようになった。

 これで戸惑ったり、怒られたりしなくて済む。


 ごちゃついていた頭ん中の整頓が終わった、丁度いいタイミングで、先行する二人の足が止まった。

 目的の場所に着いたんだ。

 今の俺になら、判る。

 目の前の、相変わらずひたすらだだっ広い広場。

 ここが、今後の俺の「生命線」だ。



 俺は、胸の中央に、木で出来ている両手をクロスさせる形で当てた。

 見るまでもなく、パムもティラノも同じ動作をしている。


 牙が突き刺さったあたりは、形を変えていて、宝石みたいになっている。

 大きさは人間の拳くらい。

 見た目はルビーだな。 


 俺が仮人だという点と、誰が所有者かという点を証明するものだ。

 この提示は、特に大事なところだったりする。

 身分証(ID)に当たるものだと考えればいいか。


 元の世界でもよくある話だ、ID提示出来なくて、入場を断られた、みたいな。

 もっとも、異世界(こっち)で入場を断られるのは、そのまま「消滅」コースなんだけども。


 視界が変わる。

 聴覚も復活だ。


 ごわぁって、凄い音がした。

 それが、聴覚が戻った合図だったらしく、俺の周囲は一気に騒がしくなった。

 荒っぽい足音、衣擦れの音、金属がこすれる甲高い音、あちこちから聞こえてくる人の話し声。

 でもって、盛大な水の音だ。


 今、目の前に広がっているのは、何もない広場じゃない。

 巨大な。

 それはそれは巨大な、噴水だった。


 溢れているのは魔力源泉(ポーマ)だ。

 さっき見たものとは質が違う。

 俺にも判る。


 絶壁からどばどば湧き出ていたのは、接着剤みたいな粘性が高い液体だった。

 この噴水から高く吹きあがっているのは、さらっとしていて、まるっきり水と変わらない。

 濾過前と濾過後、みたいな感じだ。


 動物や恐竜系の顔をした連中が、噴水のへりから身を乗り出して、頭からしぶきを浴びている。

 柄杓(ひしゃく)ですくっては、ばしゃばしゃ被っている奴もいるし、連れのやつに振りかけていたり、水筒っぽい容器を取り出して汲んでいる奴とか。


 基礎知識を調べてみると。

 なるほど、噴水のポーマは精製されていて、安全なんだ。

 その代わり魔法力は高くない。


 未精製のポーマはその逆で、猛烈な魔法力の濃度を秘めているが、取り扱えない者は耐えられなくて溶けてしまう。

 もう少し正確に言うと、ポーマに取り込まれて一体化するんだ。


 この精製済みポーマを浴びて、魔法力を高める。

 全く魔法力が無いのも、この世界には居られない。

 ポーマを切らせたら、即消滅っていうのがルールらしい。


 ティラノがポーマ浴びするのを、俺とパムは黙って待っている。

 不本意だけどもしょうがないんだよな。


 ある程度浴びたら、ヤツはどこからともなく柄杓を取り出した。

 噴水の溜まり水をすくい取って、振り返った。

 パムが身をかがめて待ち構えている。


 頭から水浴びせた。

 ティアラが水色に輝き始める。

 俺の胸にがっちりはまり込んだルビーと同じで、ティラノの所有品だという証明なんだろう。


 パムも、仮人なんだろうか。

 そこまでは伝達されていないみたいで、調べられなかった。


 三回の水浴びでパムは終わり、次は俺だ。

 ティラノに跪くのは癪に触るけど、逆らって帰れなくなっても困る。


 とりあえず、パムの真似をしてうずくまった。

 ばちゃって音がして、水が滴り落ちるのが見えた。目の前に水溜まりが出来、すぐ無くなっていく。

 地面に吸い込まれるんじゃなくて、霧状になって立ち上るんだ。やっぱり水に見えても、真水じゃない。

 よく見ていると、霧は俺の胸にはまったルビーに吸収されていってる。


 この世界で生きるというか、存在する為には、ポーマを体に取り込まなきゃいけない。

 体内から失われると、体も意思も維持できない。消えてしまう。


 ここに集まっている連中は、存在を続ける為にポーマを浴びる目的で来ているんだ。

 容器に汲んでいるのも、たぶん何かの目的でポーマを持ち歩くためなんだろう。


 三回浴びたら終わったようだ。

 俺は立ち上がり、改めて胸のルビーを見た。


 なんか、赤黒い色に変わっている。

 さっきはもっと明るい赤だったんだけどな。

 チャージ終了って理解でいいのか? いいんだよな?


「来い、フミト」


 ティラノに呼ばれた。

 名乗った覚えは無いけどさ、家族とのやりとりを見てて、俺の名前を覚えたらしい。

 あいつら、さっさと噴水から離れて、別のところへ移動しようとしてやがる。

 無言で行動するんじゃねー!


「で、次はどこ行くんだよ?

 もう説明してくれてもいいだろ、だいたい通じるぞ」


 要求してみる。

 ティラノは面倒くさそうに、パムを見て顎をしゃくった。


「誓いの奉納だ。

 何を誓うか、今のうちに考えておくがいい」

「誓い?」


 何のこっちゃ。

 基礎知識を探せばわかるか。

  

 考えようとしたら、いきなり。

 後ろから突き飛ばされた。


 意表突かれて、俺は踏ん張れなかった。

 思いっきりすっ転んで、別に痛くないのに、つい


「痛ぇ!」


 叫んじゃったよかっこ悪ぃ。

 後ろの気配が


「何だと!?」


 えらい食いつきっぷりで、俺の目の前に回り込んできた。

 顔上げてみたら、さっきのライオン野郎だった。

 いや、さっきと同じ人物(やつ)とは限らないな。

 似たような顔がいっぱい居るし、ライオン顔の別人かもしれない。


 ライオン野郎は、俺に手を貸してくれた。

 それはありがたいんだけども、めっちゃじろじろ見られて


「痛みを感じるのか?

 おまえ、仮人だろう?

 どういう痛みだ?

 まだ痛むか?」


 質問しまくり! 子供か!

 何だこの興味津々っぷりは。

 

 しかもこのライオン野郎、信じられない事をしやがる。

 俺の右腕、手首の近くをぎゅっと握って


「これはどうだ?

 痛いか?」


 ぐるぐる回し始めた。それも凄い速さで。

 生身だったら有り得ない、関節が外れるくらいの勢いだった。

 やめろ、この野郎!


「痛いのか痛くないのかどうなんだはっきりしろ。

 さっさと答えろさあ早く」


 一息にぺらぺらと、よく舌が動くやっちゃな。

 痛くはねえよ。

 ごんごん、変な振動が伝わって来るだけだ。

 でもな、こんな失礼野郎に答えてやる義理はねえや。


「何で答えない口がきけないのかそんな事は無いはずだ。

 痛いと言ったぞおれは聞いたぞ確かに聞いた」


 うっぜぇぇぇ!

 何なんだこいつはっ。


 こっちの異変に、やっと先行していた二人が気づいたっぽい。

 パムが駆け戻って来た。


「おやめ頂きたい。

 その仮人は、所有者がおります」


「そんな事、教わるでもないさ。

 主人が居ない仮人なんか、聞いた事がない」


 普通にしゃべれるんかい、このライオン野郎。

 顔に似合わない甲高い声出しやがって、しゃべり倒したかと思ったら、意外に落ち着いて話せるんじゃん。

 めっちゃ馬鹿にされた気がして、ティラノとは違う意味で腹立たしい。


 パムも、ちょっとかちんと来たみたいだ。

 まあ、ティラノ原理主義者だもんな。

 委員長顔がひきつってる。ぴきぴきって。

 高飛車に出ないのは、どうやら立場の差ってものがあるらしい。


「恐れ入ります。

 では、主人の持ち物を手荒に扱わぬよう、お願い致します」


「うーん、どうしようかなあ」


 どうしようかなあじゃねえよ、ばかたれ。

 腕をぐるぐる回すのやめろっての。

 壊れたら弁償させるぞこんにゃろめ。


 怒鳴ってやりたいのはやまやまなんだけども、頭の中の知識が警告している。

 パムでも強気に出られないこいつ。

 うっかり勢いで逆らったら、ちょっと、いやかなりやばい。


「木製の仮人はとても珍しい。

 痛がるのは更に珍しい。

 正直、俺は気に入ったんだ」


「どういう意味だ」


 ずずいっとティラノ登場。

 表情は何も変わってないけども、むかついているのは伝わって来る。

 俺の考えがあっちに筒抜けなように、こいつの考えも、何となくだけど俺にも分かる。


 人の所有物ものに手を出すな的な。

 あくまで物品扱いだけどさ。

 

 ライオン男は、ティラノを見て


「おおう、貴君が主人か。

 早速だが、この仮人を俺に売ってくれんか」


 信じられない交渉を始めやがった。

 俺を売れだあ!?

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