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一方その頃、俺の部屋では

 うーん。

 説明が無い。ま、予想はしてたけどな。


 二人とも黙って作業し始めた。

 俺はやる事が無くなって、さてと。


 ……。

 おああああああああッ!

 忘れてたーっ!


 妹!

 陽音が、俺の部屋に居たんだった。

 そういや、喧嘩中だった。


 何がきっかけとか、言い争いの中身とか、全部すっぽーんと頭から抜けた。

 それどころじゃねえっ。


 妹は、そうだ。

 真っ青な顔で天井を見上げて、口をパクパクさせていた。


 それってつまり、天井に「俺」が。

 首無し状態の俺が……どうなってるんだ?


 まるで想像がつかないが、とにかく、誰かに見られたら超めんどくせー状態になってるのは間違いない。

 あいつまだ、俺の部屋にいるんだろうな?

 親父や母さんを呼びに行ったりしてないだろうな。


 俺は、なんちゃってアンティーク風の鏡を、祈りながら覗いた。

 早まるな、陽音。

 へたり込んだままで居てくれてたら、兄ちゃんとっても助かる。


 ……居ねえ。

 やっぱ親に通報コースかよ!


 俺、今どうなってるんだか分かんねえけど、うちの親の理解範囲は、絶対にぶっちぎってるよな。

 どーすんだよこれ。


「丁度いい。

 まあ、どうにでもなる」


 ティラノがめっちゃ無責任発言!

 丁度いいって何だ、どうにでもなるってほざく根拠は何なんだ。


「マスターのお近くでみだりに騒ぐなと言うのに、まだ判らないのか」


 パムは目が据わっている。

 おまえらにとっちゃ他人事だろうが、こっちは当事者だぞばかたれ。

 落ち着いてなんか、いられるか。


 ティラノが目配せっぽい事をした。

 パムは深ぁく頭を下げて、鏡の角度を調整し始めた。


 映っている部屋の様子が変わっていく。

 たとえるなら、天井にカメラアングルをゆっくり向けてるみたいな。


 ん。灰色のつま先?

 俺の靴下だ、でもっていつものダメージジーンズ、革ベルト、ブラウンチェックのネルシャツ。


 俺だな。

 うん、俺の体を足から頭にかけて、動画撮影してる感じ。


 襟元で、映像は終わった。

 やっぱ頭が無い。ま、こっちにあるからな、それはいい。


 全然良くないのは、体の位置だ!

 これどう見ても、どう考えても、頭が天井にめり込んでるようにしか思えない。

 部屋に一歩入ったら、首から下の俺が宙ぶらりんでお出迎えって図になってるぞ。


 首吊り状態じゃねーか! まるっきり!!

 スリル系カラオケルームのオブジェかっ!


 こんなの親に見られたら、どえらいこっちゃ。

 母さん気絶、父さん慌てて俺を引っ張る、陽音は警察だ救急車だと、あちこち電話しまくり。

 ……そうなるよな。パニックだよな。


 うち、マンション買ったばっかりなのにな。

 こんな騒ぎ起こしたら、もう住めないんじゃないか。

 マジでどうしよ。みんなごめん。


 ぐるぐると、いろんな事を考えこんでしまった。

 パムに


「本当に、ばかなのだな、きさま」


 一言一言を噛みしめるようにして、言われた。

 あのなあ!!

 おめーの失敗のせいでこうなってんだっつーの。ばか呼ばわりは無いだろ原因娘!


 パムが物凄く不機嫌になった。

 え?

 何か、額のティアラがきらきらし始めたぞ。

 しかも、体の周りに物騒な電光スパークがバチバチ、幾つも弾けてる。


 ええええええっ。

 これってもしかしてひょっとすると、電撃ってやつの準備か?


 ちょっと待てパム、いやパムさん、止めてみようか。

 ごめん言い過ぎ、取り消します!


「よせ、パム」


 鶴の一声ってことわざがあるけど、恐竜の一吠えってとこか。

 ティラノが短く命じたとたん、ぴたっと収まった。

 委員長顔が赤くなってる。


「大変失礼致しました、マスター」

「もう出来ているだろう。首にかけてやれ」


 ほんっと、こいつは俺なんかちっとも眼中に無いんだな。

 ティラノしか見えてない感もりもりで、命令に従っている。


 すんげー嬉しそうな顔してる。

 よく判らない関係だ。


 いやいや、そんな呑気な場合か。

 どうやって、実家のパニック発生を阻止するか。

 今はそれが一番大事だ。


「仮人の身でいくら考えても、何も出来ない。

 マスターが授けて下さった、この首飾りを使え」


 へ、首飾り?

 パムは、さっきティラノが自分でへし折った牙を持っている。


 俺の首にかけるような仕草をしてるんだけど、おーい!

 首飾りって言ったよな?


 普通、紐とかそういうのが付いてないか?

 単なる牙じゃねーか、それ。


 どうするのか見てたら、首にかけられた。

 牙が胸の辺りで浮いてる。

 魔法なんだろうけど、よく分からない。


 そしたら、いきなり俺の胸に突き刺さった!

 痛くねーけど、ミシミシめり込んでくるのがわかって、気持ち悪ぃ。

 何をしやがる。


 だいたい、三分の二くらい埋まったところで、勝手に止まった。

 ティラノが


「ほう、予想以上だな」


 感心したように、自分の牙を眺めた。

 パムはもっとはっきり意外そうな顔をした。


「まさか、こんなに素地があるとは」


 気のせいか、悔しそうに見える。

 何それ。

 俺としちゃあ、ハルネを何とかしたいんだよ、今すぐ。


 どうにでもなるって言ったんだから、どうすりゃいいのか、何か指示しろよ。

 ティラノは答えなかった。パムが鏡を指差した。


「望み通りにするがいい」


 やっぱ雑!

 ぶん投げるにも程があるだろ、程が!

 何をどうすりゃいいのか、見当がつかねえぞ。


 正直なとこ、頭にきた途端だった。

 もう、何て言やいいんだか。

 映像が浮かんだんだ、この後どうしたらいいのか、が。


 そうか、これもパム情報だ。

 さっきの「伝達」なんだな。

 あれこれ追及するのは後回しにして、とにかく俺は


「こうであって欲しい」


 情景を考えた。

 出来るだけ正確に、精密に。


 鏡を見るまでもなかった。

 頭の中っていうか、イメージ映像っていうか。


 俺の部屋で今起きている状況が、とってもリアルに浮かんだ。

 声も聞こえる。


「だからぁ! 

 お兄ちゃんがっ」


「お兄ちゃんが?」

「文人が、何だって?」


 陽音に、母さんと親父の声、でもって本人達の姿も見えた。

 血の気が引きまくって、わたわたしているのはあいつだけで、親の方は二人ともぽかんとしている。


 そりゃそうだろうな。

 家族に見えているのは、ベッドに寝転んで漫画読んでる俺の、いつもの普通の姿なんだから。


「じさ、つ?

 え?」


「誰が?」


 思いっきりすっとぼけてみる。

 親ズは、どっちもあっけにとられていたけど、すぐ立ち直って笑い出した。


「何言ってるのよ」

「そんなわけないだろう」

「だって、だって!」


 陽音は天井を見上げ、指をさした。

 その姿勢で、そのままフリーズ。


 よっしゃ、成功だ。

 俺の姿はそこに無い。


 正確には有るんだけども、見えないようになっている。

 間に合ったようだ。

 ご苦労さんだったな、陽音。


 一応、兄ちゃんはまだ生きてるぞ。ほんとに一応だけど。

 顔中にはてなマークを貼り付けた妹を残して、親はリビングに引き上げていった。


「はるちゃん、ちょっと疲れてる?

 お風呂沸かすから、早めに入って寝なさいね」


 母さんに心配されているのも、聞こえてないみたいだ。

 ただぼーぜんと、天井を見上げている。


「だって、お兄ちゃん、確かにぶら下がってた……」

「ここに居るじゃねーかよ」


 段々、余裕が出て来た。

 コツっぽいものも判った気がする。

 元の世界でいつも通りにしてる、そう信じて振る舞えば、コミュニケーションがとれるんだ。

 

「用事が無いなら、自分の部屋に戻れよ。

 俺は漫画読むのに忙しい」


「……あっそ。

 ならもういいや」


 陽音はめっちゃ不機嫌顔で、俺に背中を向けた。

 何の用があったんだろ?


 気にはなるが、でもまあ、深く追求するのは止めとこう。

 とにかく、今この場を切り抜ける。

 陽音さえ部屋を出て行けば、たぶん朝までは誰も来ないだろう。


 机の上のデジタル時計は、十九時二十一分。

 リビングで陽音と口喧嘩して、めんどくさくなって部屋に戻ったのが、確か十五分くらいだから、まだ六分しか経ってないのか。

 俺的には、かなり長い時間が経った気がしたんだけどな。


 ほっとした時だ。

 急に陽音が振り返った。


「せっかくココア淹れたげようと思ったのに。

 要らない?」


 あー、そうか。

 さっきの喧嘩の、仲直りを申し出に来たのか。


 しょーもない口喧嘩だ。

 貸してやった漫画の本に折り目がついてて、言い合いになったんだっけ。


 妹なりに気にしてたっぽいな。

 気持ちは嬉しいが、さすがに飲めないだろう。


 自室そこに居るっていうか、有るっていうか。

 ベッドに寝転んでるのは、俺の分身、魔法仕掛けのVR映像みたいなもんなんだから。

 

 パム情報によれば、イメージはイメージだけども、触われる程度なら耐えられるレベルの幻だ。

 でも、あくまで幻で、生身と完全に同一にはなれない。


 試してみないと判らないが、飲んだり食べたりは出来ない感じだな。

 うっかり試してばれたらアホみたいなので、やめとく。

 

「あー、今はいいや。

 ありがとな」

「そう」


 照れてるらしい。ぷいっと勢いよく俺から目をそらした。

 肩を超える、けっこう長めの髪を頭の高い位置で結んでいるから、あいつが大きな動作をすると、ゆらゆら揺れる。


 双子って言っても二卵性で、あんまり似ちゃいない。

 意地っぱりだし、口は悪いし。


 でも、喧嘩の仲直りに、俺の好きなココア作ってくれる。

 やっぱ妹だ。

 ティラノに差し出すのはちょっと……なんて和んでいたら!


 陽音のやつ、部屋を出て行こうとしたのを急に止めた。

 一回はそらした目を、今度はがつっと合わせてきて、めっちゃびっくりした顔になった。

 親父に似ている、ちょい切れ長な目が、気のせいか見開かれてるような。


「な、何だよ」

「お兄ちゃん?」


 何だ何だ。

 急に顔つきが険しくなったぞ。

 アイドル系とか言われて、結構もててる、要するに割と可愛い子の部類な顔が、見るからにひきつってる。


 え?

 もしかしてバレたのか!?

 やばいやばいやばい。


 焦る俺、ずんずん近づいてくる妹!

 どうしよう、どうやってごまかそう。


 ちきしょー、パムもティラノも、全ッ然あてにならねえ。

 こっちの様子は、あのいんちきアンティーク風な鏡で見えているはずなのに。

 助けてくれねえのかよ。


 わたわたしてる俺を、陽音は思いっきり睨んでいる。

 やべえ、これはバレたっぽい。


「あー、陽音。あのな」

「黙って!」


 怖えぇぇぇ。

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