表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/25

動けるようにはなったけどもさ

 首が締まってる、いや何かに絞められている?

 違う、引っ張られてるんだ。

 散歩を嫌がる犬か、俺はっ!


 ぐいぐいと、床に向かって引き寄せられていく。

 恐竜男の仕業だ、指でちょいちょいって呼び寄せてやがる。


 情けないっていうか何て言うか。

 とにかく俺は、浮かんでいた空中から床へと移動した。

 めっちゃ不本意に。


 しかも!

 下りてっていうか、降ろされたっていうか、床が近づくにつれて、またまた訳の分からない事案が目の前に。


 人形だ。

 美術室に有りそうな、ポーズとるやつ。

 あれのでっかいバージョン、等身大タイプ。


 おい、ぶつかるぞ、このままじゃ!

 そうじゃない!

 ぶつける積もりか!?


 ティラノは最後の仕上げって感じのノリで、右腕をぶんっと水平に振った。

 げ、加速ついたぁ!

 絶対ぶつかる!


 どう考えても、階段から転がり落ちるか、自転車ですっ転ぶ並のダメージが来るとしか思えない。

 つい、歯を食いしばって目を閉じた。

 衝撃が、来るっ!


 来、る?

 る?


 あれ、来ねーじゃん。

 ドスンともガタンとも言いやしねえ。

 痛くも(かゆ)くもない。


 それよりも、体が動く!?

 さっきまでは、首をちょこちょこ動かすのが精いっぱいだったのに。


 今は手も足も自由に動くし、ちゃんと周りも見える。

 原理は全然さっぱりだけどさ、あのタブレット状の薬が、俺を解放してくれたっぽいな。


 ほっとしていたら。


「ばかだろう、おまえ」


 パムにドきっぱりと決めつけられた。

 何だと、この谷間メロン。


 ・・・あれ?

 今、俺は確かに口を動かした、絶対に動かしたぞ?

 少なくとも動かした実感はある。


 でも、何でだ?

 何で口が動いてない、違うそうじゃない。

 口が無いんだよ!?


 慌てて顔を触ろうとして、またまた違和感が大発生。

 手を開いた積もりだったんだ。

 でも、視界にあるのは、手の平じゃねえ。

 もっと言うと、人間の手じゃない。


 まるっきり「木」なんだよ、俺の手が!

 美術室のポーズ人形だ。

 指の造形が省略されている、あのつるっとしたやつが、今の俺の手だ。


 まさかと思って顔を触ってみたら、やっぱり凹凸が無い。

 口も鼻も、何にも無ぇ!

 のっぺらぼうじゃんかよ!


 お、落ち着け。冷静に落ち着け、俺。

 自分に言い聞かせながら、とりあえず匂いを嗅いでみる。

 さっきまでは、桃とかばあちゃんちの箪笥とか、ミントとか、いろんな匂いはしていたんだ。


 ……何も感じない。

 匂いどころか、呼吸すら出来ていない。


 息をしている気はするんだけども、完全に気のせいっつーか。

 空気を大きく吸い込んだ時の、胸が膨らんだり、横腹のあたりがぎゅっと絞れたりする、あの感覚が無い。


 五感で、まともに働いているのは視覚と聴覚だけ。

 これはつまり……どーいうこっちゃ。


「やはり、ばかだろう。

 訳も分からない癖をして、勝手に一人で決め込むとは。

 おまえには、自分の身の回りを確認する程度の知恵も無いのか」


 またまたパムのドS発言。

 委員長顔でその発言は、めっちゃ心をえぐるからやめて欲しい。


「ばかの癖に生意気な。

 何でも()けばいいというものではない、さっさと周りを確認するがいい」


 考えた事がダダ漏れになる感じ、まだ修正されてねぇのかい。

 そもそも、喋ってないのに会話が成立するって、さっきより悪くなってないか?

 プライバシーはどこいった。


 いろいろ腹立つけども、確かに身の回りを見ておいた方がいいな。

 とりあえず振り向いてみた。


 嫌すぎるモノを発見した。

 --俺の生首。



 ぬわぁんじゃこりゃあああああああああ!


 大理石風の床に、とってもスーパー思いっきり!

 無造作に首がどんって!

 置いてあるんですけど!?


 両目がくわっと見開かれていて、白目剥いてるよ我ながら気持ち悪ぃっ!

 これにはモザイクかけてくれないのかよ。

 とても見てらんない。無理。


「判ったか。

 今のおまえは、生身の体を離れ、マスターがご用意下さった仮人(かりびと)に意思を宿している。


 望み通り、体は自由に動くだろう。

 マスターのお慈悲によるものだ、ありがたく思え」


 どこら辺が!?

 どこら辺がお慈悲なんだ完全に罰ゲーム、それも抜群のハードモードじゃねえか。

 こっちにしてみりゃ、ありがたがる理由なんかねえよ。


 あー。

 なんちゅう無残な姿だ俺。


 何で、床に首だけサッカーボールみたいに置いてあるんだよ。

 召喚円陣とかいうのはどうしたんだ、さっきまであった光る円みたいなやつ。

 いつのまにか消えている。

 でもって、答えは無い。


 とにかくもう、扱いが雑だ。

 もし、こいつらの予定通りに妹が召喚されていたら、やっぱこうなってたんだろうか。


 何だかんだ言っても、十七年間を一緒に過ごした妹なんだ。

 あんまりにも雑に扱われるのは、気分が悪い。


 俺で良かったのかも。

 何となく、そう思った。


「殊勝だな」


 ティラノが、お辞儀する感じで上体を揺すりながら言った。

 これもしかして、笑ってんのか?


 知らんうちに俺の左横に来ていたパムが、大げさに両手を胸の位置で組んだ。

 すんげー、瞳うるうる。

 感涙にむせぶ感ばっちり。


「マスター。

 久々に楽し気なお笑いぶり。

 拝見出来て、わたくしは光栄でございます」


 だから、どこら辺を見てそう思うわけ!?

 パムにしか見えない、ティラノの本当の顔とかあるのか?

 何なんだ、こいつらは。


「そんな事より、知りたい事は別にあるだろう」


 ティラノも、俺の考えている事が判るんだな。

 もう、ばればれのダダ洩れは覚悟しなきゃ。


「パム、説明してやれ。

 未来の義兄どのは、雑な扱いが気に入らんそうだ。

 なら懇切丁寧に、納得いくまで」


 主人の命令には、召使はやたら張り切るらしい。

 パムは恐竜顔に会釈して、急に後ろを向いた。


 俺の首と向かいあって、しゃがみこむ。

 おい、何する気だ


 え!?

 頭を掴む気か?


「いちいち(うるさ)い。

 希望通り、納得いくよう説明するところだ」


 あのなあ、パムちゃん。

 横柄な上から目線で、頭をわし掴みにするってのは、懇切丁寧な説明の姿勢とは言わねえよ、少なくとも俺の元いた世界じゃあな。


 そしたら!

 えええええっ!

 むぎゅーん攻撃が来たあああああっ!?


 何だよどういうことだよ聞いてねえぞ。

 パムは、あのぷるふわメロンを、ぎゅうぎゅう俺に押し付けてる!

 でもちくしょう、全然ちっともさっぱり何も感じねえっ。


 悔しすぎる。

 何だこの謎の敗北感は。

 俺が、俺の生首に負けた気がしてしょうがない。


「控えていろ、鬱陶(うっとう)しい」


 ティラノにまで文句を言われた。

 やつは、俺の頭に手をあてて、ぐりぐりした。

 

「十分な説明を求めたのはお前だ。

 冷静になれ。

 パムの伝達を受け入れろ」


 は?

 伝達?

 何言ってるんだ、意味がわからん。


 ……あ。

 そうか、そういう事か。



 頭の中に、大量の情報がどばどば流れ込んで来る。

 ほとんどアプリのアップデート状態だな、これ。

 話として聞いてちゃ理解しきれないあれこれ。


 これは肌を接触させて、一気に伝えるってやり方なんだ。

 触れ合う範囲が広い程、情報の伝達は、量も速度も上がる。

 ま、まぁ。ある意味リクエスト通りだな。


 まずは、俺の状態をざっくり把握。

 幽体離脱だって印象は、だいたい当たってた。


 意識だけが俺本人から引っ張り出されて、仮人かりびとっていうらしい、美術のポージング人形みたいなやつにぶち込まれた、と。


 体の方は、これがややこしい事になってやがんの。

 この世界に、よその世界から誰かを呼び出す、要するに召喚ってやつな。


 詳しい仕組みまでは情報が来なくて、よく判んねえが、召喚には円陣と呪文を使う。

 で、どっちも、目標専用だっていうんだよな。


 つまりだ。

 こいつらはストーカー状態で妹に目をつけていて、あいつだけを呼び出す召喚儀式を準備、いざ異世界誘拐事件を起こそうとして、まさかの失敗こいたわけだ。


 原因は、まるっきり不明なんだが。

 実際に召喚円陣から顔を出したのは俺。


 でも、陽音専用の円陣だったもんで、全身が通れなかった。

 そもそも、頭すら通れないのが本来っぽい。


 間違いだろうが本来ありえん話だろうが、俺の頭だけが通っちまってるのは、もうどうしようもない現状なわけで。

 でもって、うんともすんとも状態だ。


 円陣を、これ以上は通れないし、かといって元の世界に帰れもしない。

 身動きがとれない、頭だけ異世界に封印された感じ。


 そこで、意識だけ体と切り離して、仮人に強制憑依させた、と。

 そうしなきゃ、いずれ消滅しちまうって言うんだ、パム情報によると。

 さらにとんでもねぇのは、意識は消えても抜け殻になった体はこのまま残る。


 冗談じゃねえよ。

 罰ゲームなんてぬるいカテゴリーなもんか。

 もう、呪いとか祟りとかのレベルじゃん、これ。


「災難だったな」


 めっちゃ他人事に言いやがるな、この恐竜野郎。

 あー、ほんとに災難だよ。

 どうしてくれるんだ、こんちくしょー。


「どうもこうもない。

 おまえには、召喚円陣からどいてもらう。


 頭を食いちぎってしまえば、話は早かったのだがな。

 そうはいかないのなら、どうにか手を打つより他にはあるまい」


 問題は、その手を打つってヤツなんだけど。

 具体的にどうするんだろうか。


 考えていたら、ティラノが口を開けた。

 凶悪サイズな牙が、また剥き出しになったよおっかねえ。

 食いついては来ないと思うけどさ、間近で見ると、ついびびる。


 え!?

 何をする気だ、こいつ。

 全然、予想も何もつかなくて、俺はぼけっとヤツの様子を見ていた。


 いきなり。

 ビキッって、すんげー音がした。


 いやいやいやいや、どういう事だよ。

 何やってるんだ、こいつ。

 何で、自分の牙をへし折ってやがるんだ!?


 口を開けたと同時に、あのごつい爪を一本の牙に引っ掛けて、目いっぱい外側へ。

 全然、躊躇(ためら)わなかった。

 痛くなかったのか、おい。


 相変わらずの無表情で、軽く閉じたって言うか、閉じきれてないって言うか。

 口の端っこから、血が滴っている。


 普通に、赤い色なんだな。

 てっきり、青とか黒とか緑とか。そんな方向かと思ってた。


 そうじゃない、血の色なんかこの際はどーでもいいんだ。

 牙の行方が問題だ。


 今までの流れからして、何か、俺に使おうとしてないか?

 どう考えても、俺と無関係なわけねーじゃん。


 どきどきしながら待ってみる。

 ティラノは、パムを呼びつけた。


「これを」


 主人の方は何気ない感じの、軽い動作だったけど、召使はもう、優勝トロフィー受け取るみたいな。

 両手で、やつが自分でへし折った牙を大げさに受け、頭上に捧げちゃったよ。


 あれ?

 俺じゃないのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ