始まりは灼熱地獄
結局。
俺は朝早くから追加の誓いを奉納させられた。
やり方は前回と変わらなくて
「庭の新たな開拓に参加し、魔物退治と道具の開発をやります」
そんな感じで、俺的には無難だと思った内容を宣言、無事に受け取って貰った。
もう、課題もそっちのけで考えたんだけどさ。
これしか思いつかなかったんだよな。
恐竜バージョンで立ち会っていたティラノは
「大きく出たな」
体を揺すり、パムなんか
「誓いを述べたからには成果を上げなくてはならんぞ。
貴様、出来るのか」
腕組みして、マスターより偉そうに言ってくれちゃったぜ。
しょうがねーじゃん。
やるしかないんだ、まあ見てろって。
すると、ティラノが
「早速ながら、取り掛かるぞ」
いきなりスタート宣言!
まじ?
心の準備とか事前学習とかは?
「あるか、そんなもの」
パムに鼻であしらわれた。
相変わらず風当たりが強い。
ティラノが
「後は任せる」
とっても短く言って、そそくさと神殿を出て行った。
あああ、パムと一緒かー。
ちょっとでも失敗しようものなら、何を言われるか判ったもんじゃない。
とは言っても、ティラノが直々に開拓地へ来るわけもないし、来られてもそれはそれで困るし。
仕方が無い。
よっぽど顔に出ていたのか、移動しながらパムが目を細めて
「気に入らんようだな」
図星をついてきた。
いやそんな、気に入らないって事は、ええとそのう、ちょっとだけある。
せめてもう少し優しくしてくれたらなーとか、そんな贅沢、ちょっとだけ考えてる。
でも、言えない。
「緊張してるんだよ。
だって、開拓地なんか行った事ねえし、魔物とかいるんだろ?
そりゃびびる」
「おまえの世界には、本当に魔物はいないのか。
マスターから伺ったが、ある程度の知識は持っているという事だった」
パムは不思議そうだった。
んー、説明が難しい。
「何て言えばいいんだが、よく判らんけどさ。
元の世界じゃ、魔物っていうのは物語とか、そうだなあ。
伝説の生き物? そんな感じなんだよな。
あんまり実感がねぇや」
「伝説か」
話しているうちに、俺達も外に出た。
例のオーロラみたいなカーテンをくぐり、周囲は何も無い、白い床だけが目立つ風景に変わる。
パムは足下に黒い石を置きながら、納得したようなしてないような、眉を寄せた顔になった。
「まあいい。
自分の目で見れば、実感も沸くだろう。
行くぞ」
あっというまに竜巻が現れた。
今の俺には、この仕組みが判る。
怖いとは、もう感じない。
竜巻エレベーターは怖くないけども、これから行くっていう開拓地はなぁ。
イメージ出来ないし、そもそもそんなところ、元の世界には無ぇもん。
やっぱ怖くはあるよな。
ほんのちょっぴりもたもたしてたら、パムに
「さっさと行かんか!」
怒られた。
だからさぁ、もうちょっと優しく!
ははぁ。
ここが開拓地ね。
……帰りたい。
着いて二秒で帰りたくなった。
何だよここ!
「見ての通りだ」
パムが素っ気なく言う。
俺、出来ないなりに何とか開拓地っぽいものを頭の中で想像したんだぜ。
森とか、草原とか。
全然違った。
何で火の海なんだよ、辺り一面!
大地はぼこぼこ音を立てて煮えたぎっているわ、表面は炎が燃え盛っているわ、おまけに砂!
砂が降ってるじゃねーか、ざあざあと。
どこから降ってきてるのか、思わず頭上を見たけども。
雲は無くて、空も赤い。
つーか、マグマじゃね?
どろどろした渦巻きが空を覆っていて、あちこちに黒い点がある。
穴が開いてるみたいで、そこから大量の砂がひっきりなしに降っているんだ。
いや、砂時計が落ちているみたいだな。
熱気は感じない。
パムが結界を張ってくれているからなんだが、生身のままだったら一秒どころか、一瞬で蒸発しそう。
何ちゅう灼熱地獄だ。
「こんな世界があるのかよ」
「目の前にあるではないか」
「どうなってんだ、ここ」
何から手をつけりゃいいのか、さっぱり見当がつかねー。
開拓っていうんだ、最終的には街を造って、人が住めるように整えるのが目的なんだろうけども。
そうなんだろうけども!
魔物だって御免被るとしか思えない、とにかく見渡す限り炎と溶岩、でもって謎の砂。
ここから街が出来る気がしない。
「何なんだ、これ。
え?罰ゲーム?」
「訳のわからない事を言っていられる時間は無い」
私の結界がいつまでもあると思うなよ」
パムは苛立っているらしい。
結界って、タイムリミットが有るのか。
やばい、突っ立ってる場合じゃねえ。
「だったらさ、早く始めよう」
「まずは拠点を用意する」
めっちゃ素早く反応して、例の移動に使う竜巻を呼び出すお姉さん。
え? また上に行くの?
疑問は持ったけども、聞くのはやめとこ。
たぶんっつーか、ほぼ確実に怒られる。
あ、何か横に移動してるっぽい。
今までとは違う感じ。
上に吸いこまれる感覚じゃなくて、するするっと左に向かってる様子だ。
周囲は見えない。
ただ、ドンっとかビキっとか、嫌ぁな音が聞こえる。
俺の推測だと、この竜巻の表面にマグマやら炎やらが衝突しているんだろうな。
ははぁ。
こんな外観なのは、防御の役割もあるからなのか。たぶん。
ドンガンと派手な音が鳴り響いているうちに、目的地へ到着したらしい。
横移動の感覚が消えて、ぴったり動かなくなった。
同時に竜巻が解除されたようだ。
周囲は、ええと。
ええええええええええ!
目の前に、ドラゴンがいる!?
もう、何が何だか。
ファンタジーものでお馴染みっつーか、創作世界でしかお馴染みじゃないやつ。
真っ赤なボディと、同じ色のアーモンドみたいな形をした目、下唇から飛び出している牙。
俺達は、いわゆるレッドドラゴンの足元にいるんだ。
パムの結界に守られているとはいえ、頭上から降り注ぐ謎の砂、煮えたぎるマグマの海って状況は何も変わっていない。
そのうえ、今はこの巨大な赤竜が目前に追加されてる。
怖ぇぇぇぇ!
ドラゴンはマグマの海表に平然と座っているように見える。
ただ、足元をよく確認したら、少し違っていた。
こいつ、砂の上に腹ばいになっているんだ。
謎が解けた感じ。
頭上から降ってくる大量の砂は、このトンデモな環境で唯一、足場になるんだ。
赤竜は、砂を集めてカーペット代わりにしているってところだな。
想像は当たっていると思う。
降ってくる砂は、竜の頭上で弾かれて、胴体の周囲に均一に積もってゆく。
やつは時々しっぽを大きく左右に振って、砂をかき集めてるんだ。
そして、俺達も砂場に立っている。
「用意はいいか」
パムに訊かれた。
思わず
「え?
あ、ああ」
テキトーに頷いちまった。
その途端、レッドドラゴンが口を開いた!
めっちゃ無遠慮に、容赦なく。
でもって、舌が伸びてきたぁぁぁっ!
マジか!?
とか何とか慌てる余裕もあったもんじゃない。
俺はパムごと舌に巻かれて、竜の口の中に放り込まれた。
ああああ、気色悪っ。
べっとりした粘膜の感じが全身にまとわりついて、鳥肌もんだぜおい。
喉を通過しているようだ。
そのまま落下。
何でだ。
どうしていきなり食われなきゃなんねーんだよ。
ぼーぜんとしているうちに、俺は胃袋へ……って、あれ!?
なんだこりゃ。
てっきり胃酸の海へ真っ逆さまかと思ったら、途中で体が勝手に減速のうえ、足が下に向いた。
トランポリンみたいなぼよんぼよんした場所に着地。
「食われたんじゃねーのか!?」
「使役魔獣に食わせるわけがあるか。
マスターを差し置いて」
ツンツン口調で、パムが答えた。
めっちゃ冷たい目で俺を見ている。真横で。
「少しは考えて発言するがいい」
「知らねーもん、そんなの。
いきなりばくってやられたら、普通は食われたと思うだろ」
「貴様の普通など、それこそ知った事か。
いい加減に頭を切り替えろ。
貴様が今いるのは、貴様の普通だの常識だのが一切通用しない場所だ。
こんな初歩もまだ判らないのなら、命が幾つあっても足りないだろう」
きっつい口調で言われたけど、俺は息を呑んでいた。
確かに。
ここは俺が生まれた世界じゃないんだ。
誰も、いちいち警告したりなんかしてくれない。
むしろ、強く言われて良かった。
「……ありがとな、パム」
俺にとっちゃ、命に関わる事だからさ。
我ながら素直に礼を言ってみた。
パムの方はめっちゃ意外だったらしい。
ぎょっとしたように、目を見開いた。
「叱責されて、礼を言うのか」
「いやまぁ、おかげで自覚し直せたもんで。
やっぱそうだよな、ちょっとたるんでたよな」
「判ればいい」
「パムってさ、言葉遣いは荒っぽいし、スーパーそっけないけど。
悪いやつじゃないよな」
「な、何を言い出す」
「だって、悪気があったらそんな事も言わないだろ?
考えが甘いやつは勝手に死ね、くらいに思って、放っておくんじゃね?
俺ならそうするもん。
わざわざ注意しねえって」
素直ついでに思った事を言ってみた。
ありゃ。
パム、赤くなってんぞ。
ひょっとして、照れてる?
「ばか者、からかうな。
私はマスターの代理人だ。
貴様の上位者だぞ」
冷たい声と顔つきで凄んじゃいるが、無理があるって。
どう見ても照れてるじゃん。
せめて、その赤い顔を何とかしなきゃ説得力も迫力も出ないぞー。
そう言ってやろうかと思ったけども、にやにやした方が効果的な気がして、俺は黙っておく事にした。
パムは小さく咳払いして
「つまらん戯言は終わりにする。
それよりも、やるべき事だ」
必死感もりもり、頑張って態勢を立て直そうとし始めた。
あー、からかいたい。
めっちゃからかいたいんだけども、そうも言ってられないか。
ま、パムは不意打ちの感謝に弱いらしいってのが分かっただけでも上出来だな。
「んじゃまあ、早速やろう。
で、何をすりゃいい?
指示してくれよ、上位者さん」
「貴様、覚えておけ」
悔しまぎれの常套文句をつぶやいてから、パムはやっといつも通りの顔色になった。
「レッドドラゴンは使役魔獣、つまり我々の意のままに動く。
こやつの体内から命令を発し、開拓の村へ行く」
「えっ、開拓の村?
あるのかよ、そんなとこ」
「あるにはある。
ただし、現状は使い物にはならない。
貴様がやるべき事は、この村の整備だ」
言い終わると同時に寝ころんだ。
パム!?
「お、おいっ!?」
パムの体がっ!?




