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やったろうじゃん、この勝負、受けてやる

「おはようございます、フミト様」


 レナの声に起こされて、俺は飛び起きた。

 豪華ホテル風の客間じゃない、マンションの六畳間だ。


 そうか、元の世界か。

 学校があるからな、寝る前に意識をこっちに戻しておいたんだった。


 ついでにレナにモーニングコール頼んだら、元の世界ではちゃんと姿を見せてくれた。

 今朝も、言いつけ通りにしてくれてる。


 言い換えれば、昨日の夜に起きた事は夢じゃなかったって意味でもあるけど。

 とはいえ、朝が来たからにはいつもの日常が始まるんだ。


 俺は時計を見て六時三十分だと確認した。

 もう母さんは起きてて、朝飯の支度をしている。


 俺の家は父さんが和食派なんで、基本は日本人の食卓って感じ。

 いい匂いがする。

 部屋を出たら、隣からも陽音が出てきた。


「おはよ」

「おう。

 昨日はいろいろ、ありがとな」


「大丈夫なの、お兄ちゃん」


 まだ病気を疑ってるんだろうか。

 それとも、あのスチールを引き裂くアホパワー全開を心配してるのか。


「ああ、いろいろ大丈夫だ」

「変な日本語」


 陽音はくすくす笑っている。

 機嫌は良いようだ。


 表面だけ見りゃ、ほんとにいつも通りとしか言えない、諏訪家の朝なんだけども。

 頭の中にはレナが居る。

 そして、あの超絶な怪力も。


 コントロールが出来るだけで、消えたわけじゃないんだ。

 感覚で判る。


 朝のやる事を一通りやってから、みんな揃って朝飯を頂きまーすなんだけども、俺は内心でどきどきしていた。

 食べる事は、有能レナちゃんが


「普段通りにお召し上がり下さい。

 後は私が何とかします」


 って、とっても頼れる発言してくれたんで、遠慮無く食卓についた。

 問題はパワー制御だ。


 トイレに行く必要は無かったし、顔洗ったり口をすすいだりは、普通に出来た。

 でもメシを食うのは、ちょいハードル高めだ。

 細心の注意を払ったつもりでいても、さ。


 茶碗を手に取っただけでパカッ! とか。

 箸をべきべきっとか。

 ちょっと食卓に手がひっかかっただけでガッシャーンとか。


 やらかしそうな気がして、落ち着かない。

 レナは


(ご安心ください。フミト様。

 力の抑制は十分に効いております。

 私もお手伝いさせて頂いておりますから)


 にっこり笑ってくれる。

 でも、やっぱ怖いものは怖いんだよな。


 親ズの目の前だし。

 結果は、考えすぎだった。


 茶碗を捻り潰す、箸をへし折る、食卓をひっくり返す、とかは起きなかった。

 ほんと、ごく普通だった。


 あああああ。

 普通って素晴らしい。

 ただ、母さんには


「どうしたの文人。

 緊張してるの?

 今日は学校で何かある?」


 俺の挙動不審がばれてたけども。

 父さんなんか、全然知らんって顔で、飯食ったり新聞読んだり、ニュース見たり。


 陽音もそうなんだけど、元祖は母さんだな。

 女性って、やっぱ男より勘がいいんだろうか。


 とかなんとか言ってるうちに、七時十分。

 そろそろ準備して家を出なきゃ、バスに遅れる。


 うちは、父さんは車通勤で、母さんは会社の始業時間が俺らより一時間遅いから、出るのも遅い。

 俺と妹は同じ学校だから、出る時間も同じ。

 家からバス停までは徒歩二分、バスと電車乗り継ぎで三駅、約四十分だ。


 後は学校まで十分くらい、また歩く。

 ま、だいたい標準の通学路だよな。

 問題は、例の接触したら誰でもテレパシー友達ってやつだ、でもまあ今のところ大丈夫だし、たぶんこっちもクリアになってる。


 うん、きっとなってる。

 ていうか、なってて。


 標準の通学路だからさあ、ラッシュアワーには人がごちゃごちゃ、ずんどこ居るんだよ。

 どう頑張っても、絶対にもみくちゃになる。


 人間WI-FI状態だけはご免だ。

 相変わらずどきどきしながら、玄関を出た。


(よう、陽音。

 これテストな。

 ちゃんと聞こえてるか?)

(うん、聞こえてる)


 試しに心で呼びかけてみたら、陽音は俺を見ないまま、返事してきた。

 ちらっと横目で確認。


 特にしゃべっているような仕草は無いし、前を見て歩いている感じだ。

 良かった、出来る子で。


 マンションの集合玄関を出るくらいまでは一緒に歩くけど、バス停に向かうあたりで、陽音は友達と合流する。


 俺は駅までは一人だ。

 なるべく自然に、いつも通りに。


 打ち合わせたわけじゃないけども、俺達は普段と変わらないように通学した。

 よし、バスの中はぎゅうぎゅう詰めだったが、特に誰かと繋がった感じはしなかった。


 時々、陽音がちらちらこっち見てきた。

 あいつなりに気にしているようだ。


(俺は大丈夫だ、今のとこは。

 ちなみに、陽音は何か異常あるか?)


(こっちも問題ないよ。

 何か、あたしまで超能力あるみたいで、ちょっと楽しい)


(あのな)


 そりゃ、そっちは兄貴限定のテレパシー程度だから気楽だろうが、俺は下手すりゃ人間凶器だぞ。

 これでも緊張しているんだが。


 無表情を保つのが精いっぱいだ。

 今はレナともしゃべれない。


 めっちゃ不審人物になりそうなんで、自粛中。

 終点で学生団体がわらわら降り、一斉に駅へ向かう。


 異世界でも見たな、似たような流れのやつ。

 普段の流れ通りなら、そろそろ友達と合流するパターンだな。

 ちょっときょろきょろしてたら


「よ、フミト」

「おう」


 やっぱり、腐れ縁に声をかけられた。

 オタ仲間の後藤優也、もう幼稚園の頃からの付き合いだ。


 俺と似たような感じで、背はひょろ高いけど、体力は全然無い。見るからに文系の帰宅部ってとこ。

 気も話も合うし、約束は破らないやつだ。


 陽音の他に今の俺の事情を打ち明けられるとしたら、こいつだと思ってる。

 思っちゃいるが、まだちょっと心の準備が出来てない。

 なので、テレパシー友達は保留って事にして、普段通りを心がけた。


「あー、もう帰りてぇよ」


 いきなりか。

 まだ学校に着いてないのに。


 ユーヤの気持ちは、判らないでもない。

 今日は一時間目から体育だもんな。


 文系オタクにゃなかなかキツい。

 ……あ。


「やべっ」

「は?」


 つい声を出しちゃった俺を、優也はぽかんとして見ている。


「ジャージ忘れたとか?」

「いや学校にある。

 ジャージじゃない、まあ、大した事じゃないから、気にすんな」


 うん、そうじゃないんだ。

 日常モードは、とりあえず何とかなってるっぽいからいいとしても、運動モードはどうなんだ。


 いい感じに力を制御出来るんだろうか。

 試してみるチャンスはかなりの確率で無い、ぶっつけ本番になっちまうぞ。


 昔から、運動神経ダメ系の俺が、急にとんでも脚力披露しちゃうとか。

 そういうのは避けたい。


(レナ、頼むぞぉ)


 心の中で、ちょっと情けないけど召使ちゃんにお願いする。


(お任せください)


 俺にしか見えない属民の女の子が、にこやかに一礼してくれて、少し気分が落ち着いた。

 優也は不思議そうな顔のまんま。


「何だおまえ。

 やべぇとか言った途端に、へらへらして。

 変なクスリ飲んでないだろうな」


「んなワケねーじゃん」


 指摘されて焦った。

 やっぱり心の中での会話は、油断すると表情に出ちゃうらしいや。


 こりゃ陽音にも、むやみに声をかけない方がいいかもしれん。

 そういや、妹はどこにいるんだろう。


 学生集団に揉まれつつ改札を抜け、ホームまで来た時、軽くあたりを見渡した。

 だいたい三メートルくらい離れたところに、女の子の友達と何か盛り上がってる陽音がいた。


 妹はこっちを見ていない。

 特に変わった様子は無いから、俺は安心して視線を線路へ向けた。


 ん?

 優也?


 あれ、こいつ。

 陽音に見とれてないか?



 通学中、俺は長い付き合いの友達をそれとなく観察してみた。

 今までは、全然そんな気配は無かったというか、俺が気づいてなかっただけかもしれないが、とにかくそんな様子は見せた事が無い。


 でも。

 優也のやつ、どうも陽音に気があるっぽいぞ。


 話しかければ反応はするし、別に挙動不審ってわけじゃないんだが、時々こいつは妹をチラ見している。

 ていうか、俺が黙っていると、妹をガン見し始める。


 うわ、マジか。

 よりにもよって、今このタイミングかい。


 異世界の恐竜野郎ティラノが、その陽音に惚れてるっちゅーの。

 こんなタイミングで


「俺、実は異世界に首だけ誘拐されちゃってさー」


 なんて、言えるか!

 どう考えてもややこしくなるし、あのティラノが、恋のライバルなんて存在を物分かり良く許してくれるとは思えない。


 陽音の兄貴な俺でさえ、平気で頭をばくっとやりかけた野郎だぞ。

 所有する属民でも仮人でもない優也を


「目障りだ」


 の一言で抹殺するくらい、めっちゃ普通にやりかねないじゃん。

 だめだ、異世界の話は出来ない。


 打ち明けるの、思いとどまってよかったぁぁぁ。

 優也にも厳重に秘密を守らなきゃな。


 ガチでこいつの命に関わるぞ。

 今だって、こんな事を考えてるってのが、向こうに筒抜けていない保証は無いんだからさ。


 俺の方から上位者のティラノに探りを入れるのは恐らく出来ないか、出来たとしてもソッコーでばれる可能性が高い。


 やばい、これ以上はやばい。

 考えるのやめなきゃ。


 俺はとんでも異世界パワーの制御が上手くいくかどうかに続いて、幼馴染の命についてまで、心配事を抱える羽目になっていた。

 何でだよ!



 時間はとっても無情に流れて、あっというまに懸念の一時間目がきた。

 そして、一学期の始まりらしく、体育担当は


「体力測定するぞー」


 いろんな意味でちっとも有難くない宣言をかましてくれやがった。

 何となく想像はついていたけどさ。


 うちのクラスは平均的な高二のクラスだし、そもそもが公立だから、すんげぇスポーツ系なやつは特にいない。


 でも、体育が得意なやつは必ずいる。

 正直なとこ、あんまり気が合わない体力自慢の三人組が、やたらと張り切って最初の種目五十メートル走の準備をしている。


 もうグラウンドに出た時点で


「タイム勝負するべー」

「一番遅いやつがジュースおごりな」


 とか言っている。

 仲間内でやるんなら好きにしろってとこなんだが、こいつら。


「お前らもやるんだぞ」


 勝手に決めてきやがる!

 俺と優也は、クラスでも一、二を争う運動ダメ人間で、こいつらはそれを知っているんだ。


 この中の一人、森野って野郎が一年の時に同じクラスだったから。

 くそー、こいつ一人でもうざいのに、仲間を二人も連れてやがるから、うざさにえっらい磨きがかかっちゃってるぞ。


「俺はそういうのは苦手だから」


 一応は首を振ったが、あいつらにすれば俺も優也もカモだ。

 はいそうですかと引き下がるわけはない。


「やるんだよ、もう決まり」


 自分が負けるなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇ。

 森野の強気っぷりといったらない。

 腹が立ったので、俺は少し考えて


「なら、俺だけにしろよ。

 優也は無し。

 この条件だったら、やってもいい」


 勝負を受けてみた。

 全員が、もちろん優也も含んで、驚いた。


「マジか」

「諏訪が? 俺らに勝てる気でいんの?

 諏・訪・が・ぁ?」


 うるせぇ。見てろ。

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