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妹、頑張りました!

「分かった」


 短い時間だったけども、えっらい悩みまくったらしい。

 顔面蒼白、冷や汗だらだら状態のティラノは、壁に体を向けた。


 手をかざした途端、等身大の鏡が出現した。

 鏡面がぼんやり光って、その後に部屋着姿の妹が全身ばーんと映った。

 向こうも気が付いたらしい。


「あんた、ティラノ!?

 うちのお兄ちゃんに何してくれてるのよっ」


 いきなり来たよ。

 自己紹介の暇も無かった。


 強気でぐいぐい攻める攻める。

 ティラノ、たじたじ。


 あの偉そうな態度なんか、これっぽっちも出さねー。

 それはそれで、何か腹立つ。


「お兄ちゃんを元に戻せるんでしょ?

 今すぐやってよ」

「いや、残念だが、すぐには出来ない」


「何で!?

 魔法があるんでしょ?」


「魔法は、そのう、万能ではない。

 今は、召喚円陣に体が封じられた状態だ。

 円陣を解く方法を用意しなければ」


「じゃ、出来るのね?

 今すぐは無理でも、出来るんだよね?」


 陽音の強気に、ティラノは押されっぱなしだ。

 あわあわしながら、方法はあると言った。


「ただし、兄君にはこの世界のルールに従って、働いてもらわねばならん。

 こればかりはどうしようもない」


 兄君とか言われたぞ、おい。

 気持ちわりぃ。


 直前までフミトって呼び捨てだったくせに。

 陽音は引き下がらない。


「何よ、そのルールに従って働くって。

 バイトでもしろって?」


 いやいや、バイトなんて言われても、ティラノには判んねーだろ。

 ほら、やっぱりぽかんとされた。


「あのさ。

 バイトっていうのは、雇われて働く事なんだよ」


 話が進まなくなりそうなので、ちょいと助け船。

 ティラノは、どこまで正確に理解したのか不明だけども、とりあえずは納得顔をした。


「まあ、それに近いな」

「俺に何しろっていうんだ」


「誓いを実行する。

 つまり、世界の為に役立ち、業績を上げる事だな」

「へー、業績を」


 ……え?

 何だと!?


「ちょっと待て!

 その業績を上げなかったら、俺はいつまでたっても元の世界に戻れないのか!?」

「努力を期待する」

「簡単に言ってんじゃねー!!」


 何だその業績っていうのは。

 どうしろっていうんだよ!?


「もっとはっきり言ってくれ、判るように」


「例えば、新しい街づくりに参加する。

 あるいは、魔力源泉を発掘する。


 暮らしに役立つ品を開発する。

 いろいろいあるな」


「時間がかかりそうなのばっかりじゃねーかよ」


 マジか。

 もっと手っ取り早いのは無いのかよ。


「開拓が一番早いな。

 判りやすい業績を手早く上げるのなら、開拓民達のために働く、または魔物を退治するのが常道だ」

「魔物退治ぃ?」


 この世界には、魔物がいるってか。

 あの特殊メイクみたいな、顔だけ動物で体は人間ってやつじゃなくて。


「ドラゴンだのオークだのっていうのが、もしかしているのか?」

「ほう、よく知っているな。

 おまえの世界にもいるのか」


「いねえよ」

「いないのに、なぜ知っている」


 ティラノは不思議そうに首を傾げた。

 あー、説明がめんどくさい。

 どうしようかと思っていたら


「ティラノ、必ずお兄ちゃんをこっちに返してよ。

 何なら、あたしも協力するから」


 陽音はとっても頼もしい。

 こんなに兄ちゃん思いだったとは知らなんだ。

 ちょっとじーんとしてたら、あいつ

「お兄ちゃんの事、ごまかすの大変なのよ!

 こんなのがばれたら、パパやママに何て説明すればいいわけ?」


 ……あ、そうですかそうですか。

 ま。正論ではあるな。


 俺が陽音の立場だったとして、もちろん肉親の情はあるけども、それはそれとして、やっぱ面倒だとも思うだろう。

 あんまり腹は立たなかった。


 ドラゴンだのオークだの、ティラノにとっては


「何でこいつが知っている」


 情報の出所については、何となくうやむやになった。

 俺が追及する話でもないので、そのままにしておいて、今日のところはこのくらいにして貰いたい。


「なあ、ティラノ。

 俺も陽音も、明日は朝から用事があるんだ。

 もう寝ないとやばい」

「ガッコウとやらか」


 っておい。

 おまえこそ、何で知ってるんだ。


 こいつ、どこまで俺の頭から元の世界の情報を引き出してるんだろう。

 まともに聞いても口を割るわけはないけどさ。


 疲れたので、そうだとだけ答えておいた。

 幸い、ティラノも疲れてるのか、あっさり了解された。

 鏡との通話を終えてから、指ちょいちょいで、スミを呼んでくれた。


「客間に案内せよ」

「かしこまりました」


 スミは丁寧に俺を先導してくれる。

 どーでもいいけど、ほんとにばかでかい屋敷だな。


 歩くのがしんどいぞ。

 やっぱ魔法で移動は無理なんだろうか。


 さっきは倹約が云々とか言ってたな。

 ちょっと興味を感じて、スミへ


「あのさ。

 倹約方針って何だ?」


 訊いてみた。

 スミは歩きながら軽く振り返って


「当屋敷は、マスターの魔力源泉で維持されております。

 私どももポーマがあってこそ、この姿を維持出来ます。


 移動など、魔法に頼らなくても可能な事は、自力で行うのが基本方針なのです。

 そうでないと、マスターがお疲れになりますから」


「え、そうなの?」


「はい。

 もっと申しますと、庭であるこの世界全体が、マスターのポーマによって維持されているのです。

 当屋敷にお入りの際、噴水をご覧になられたでしょう」


「ああ、見た。

 あれがマスターの専用ポーマなのか」

「はい。

 全てをマスターが御意のままにお使いあそばされる事は出来ません。

 一部は上納しないといけないのです」


「上納?」

「庭の上位におわす、世界の持ち主様方へ。

 それもマスターの誓いです」


 教えてくれた。

 訊きながら、俺は頭の中のパム情報を高速検索してみた。


 何となくだけども、仕組みがビジュアル化されて頭の中に展開している。

 なるほど、そういう事なのか。



 庭と呼ばれているこの世界は、正民階級の私有品だけども、ティラノ達の更に上位者というのが居るんだ。


 たぶん、神殿で会った女神様もその上位者なんだろう。

 屋敷の前に沸いていたあの噴水は、ティラノ専用のポーマで、一部は上位者に納められるんだ。

 ま、税金みたいな感じか。


 残りはティラノが自由にしていいけども、私有品の維持は本人の責任だから、自分の為にばかり使うわけにはいかない。


 ポーマは世界を維持する基本エネルギーでもある。

 振り分けが必要なんだな。


 ますます税金みたい。

 だから、余計なところで無駄遣いは出来ないって話なんだ。


 ほんとに、思ってたのとだいぶ違う。

 やけに生々しい魔法の裏事情だな、おい。


 文句言っても始まらない。

 決まっている以上は、魔法を使っての移動は諦めるしかねーや。


 自分の足でとことこ歩いて、客間まで。

 えっらい疲れたわ。


「ありがとな、スミ。

 もういいよ」

「どうぞ、ごゆっくりお休みください」


 スミは礼儀正しく下がっていった。

 部屋の中はまあ、めっちゃ豪華。


 子供の頃、家族旅行で温泉に行った時に泊まったホテルより豪華だ。

 具体的には、絶対に教室より広い。


 ドアからベッドまで、一〇〇メートル単位かってくらい距離があるんですけど。

 でもって、そのベッドがまだとんでもないレベルで広い。


 うちの四人家族が寝転んで、全員が寝がえり打っても余裕な感じ。

 調度品もでかくて凝った造りになっている。


 近寄ってみたら、ヨーロッパで買い付けてきたのかと思った。

 俺もハンクラーだし、こういう手の込んだ工芸品にはかなり惹かれる。


 美術の授業を思い出してみた。

 確か、ルネッサンスだ。


 十五世紀のイタリアで流行したデザインによく似ている。

 暗い木調なんだけども、触ってみると木とは違う、どちらかと言えば石のような質感だけど、見た目はかなり忠実だな。


 ティラノは、イタリア系の趣味なのか。

 つる草を図案化しているとか、波をイメージした円を基調に繰り返す幾何学模様とか、まるっきりゴシック彫刻じゃんか。


 部屋の天井も高いし、先頭が尖ったアーチや高いところから飛び出すように組まれている、飛び梁っていう柱の使い方。

 ほんと凝っている。


 あれ?

 壁に何か黒い板がはまっているぞ。

 客間なんだし、触っちゃダメなものは無いだろう。


 すんげー高そうなグラスがずらっと並んでいる食器棚の隣に、ぽつんとあった黒い板、直径だとだいたい三十センチ四方って感じ。


 とりあえず人差し指でつついてみる。

 黒い板がぼわんと光って


「ご用件を承ります」


 女の子の声がした!

 何じゃこりゃ。


「あのさ。

 これ何だろって思って、ちょっと触ってみたんだけども」

「お飲み物またはお食事を御所望の際にご利用くださいませ」


 親切にナビゲートしてくれた。

 へー、これはあれか?


 元の世界風に言えば、ルームサービスみたいな?

 もう一回触って、同じ返答がしたので


「あのさ、喉乾いたんだけど。

 水くれる?」


 頼んでみた。


「かしこまりました。

 棚からグラスをお持ちになられて、こちらへお渡しください」


 何か、人工知能みたいだな。

 とりあえず手近なグラスを持ち出して、黒い板に近づけてみる。


 すると、みるみるうちに水が!

 おおおお、すげえ。

 こういうのだよ、俺がイメージしてた魔法って。


「お待たせ致しました」

「水だけじゃなくて、何でも出せる?」


「お客様が御所望の品でしたら。

 ただし、飲食物に限ります」


「まじか」


 ちょっと実験してみたくなった。

 カップ麺とか、どうなんだ。

 要求してみたら、答えは


「具体的にお願い致します」


 この辺は、ディテールにこだわって頭の中で想像する、魔法の基本通りにしなきゃいかんらしい。

 気に入っているメーカーの塩タンメンを考えてみた。


 即座に、黒い板からにょきっと生えてきた!

 カップ麺が飛び出してくる黒い四角形って、よく考えたらかなりシュールなんだけども。

 とにかく実験は成功だ。


 良かった、食い物も確保したぞ。

 こっちの食事がどういう感じなのか、今のところさっぱりわからん。


 ティラノなんか、俺を食おうとしたくらいだ。

 生肉かもしれんって、ちょっとびびってた。

 下手すりゃ、生きた小動物を渡されて


「召し上がれ」


 とか言われるかもってさ。

 実はいろいろ考えちゃってたぜ。


 ティラノが何を食ってるのかは知らないが、俺としては、馴染みの食い物が手に入ればいいや。

 実際は木のボディになってる俺に物を食う必要性があるのか、ちょっと疑問だけども。


 とにかく疲れたので、今夜は寝る。

 俺は、ベッドサイドに備えてあったパジャマ(たぶんそうだよな?)に着替えて、ばかでかい寝床にもぐりこんだ。

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