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想定してなかったのかよ!

 落ちつけ、問題ない。

 俺は手近にあった岩を、真一文字に叩き折った。


 手刀で!

 岩の先端から少し下あたり、狙った場所がびしびしと割れて、細かい瓦礫を振りまきながら、上の部分が一塊になって転がってくる。


 落ちてきた岩の塊を、両手でキャッチ、すかさず頭上へ。

 割れたガラス状の破片は、大体のところ弾き返す事が出来た。


 一緒に降ってきた落雷も、岩に受け止めさせる。

 同時に、俺は電流を受け付けない自分の姿をイメージしていた。


 感電は考えない。

 悪いイメージは全部排除して、ひたすら俺に好都合な場面を、全力で想像する。

 思い通り、ティラノから浴びせられた雷の魔法は、俺に直撃したものの、体の外へ放電された。


 やった、ノーダメージ!

 結界の張り方とは、要するに、この世界の魔法の基本、精密なイメージなんだ。

 電気を通さない自分を鮮明に思い描いて、頭の中に保存するって感じだな。


 今までは、この「保存」が出来てなかった。

 確かに、言葉で伝えられる事じゃない。

 自分で体感して、一度描いたイメージを忘れないように、強く印象付ける必要があったんだ。


「それでいい」


 ティラノの声がした。


「それが、結界だ。

 忘れないようにしろよ」

「ああ、ありがとな」


「ついでに、パワーコントロールも自分の物にしたようだ。

 俺が思っていたよりも、おまえは呑み込みが早いとみえる」


 そう、有り余るパワーを制御する方法も、元の世界で生きていくにはどうしても覚えなきゃいけない技だった。

 これも解決方法は単純で、元の世界の影武者が持ってるとんでもパワーを、こっちの俺と共有する。


 幸い、俺と影武者はポーマで繋がっている。

 元の世界から、あの超絶怪力を、この体に移してやればよかったんだ。


 やれやれ、と深呼吸した瞬間だった。

 恐竜ティラノが、またもや大剣を振りかざし、俺に切りかかってきた。

 あっぶねえ!


 とっさにかがんで、水平の一薙ぎをかわしたけども、あいつの攻撃は岩を完全に破壊しても終わらない。

 ちょっと待て、おい!!

 まだやるのかよ!?


「せっかくだ、もう少し鍛えてやる」

「要らねえええええええええ!」


 陽音とお話タイムはどーするんだよ、ティラノ。

 あいつ、寝ちまうぞ?


「それならそれで、止むを得まい。

 なに、機会はいくらでもある。

 今でなければならんという事でもなかろう」


 こいつ、すっかり戦闘モードに入ってやがる。

 俺なら女の子と楽しくおしゃべりする方が、こんなバトルより何百倍も大事だけどな。

 ティラノは違うらしい。


「仮人を倒すまでは終わらんぞ」


 とってもちっとも嬉しくない宣言がされちまった。

 しょうがない、やるしかないか。



 恐竜バージョンのこの野郎、めっちゃ強い!

 岩だらけの狭い空間でも、わずかな隙間を見つけてはジャンプまくって足場を確保するんだ。


 しかも、つま先立ちしながら、有り得ねー勢いで大剣を振りおろしてくる。

 俺も、なるべく精密に頑丈な盾をイメージして防ぐんだけども、やっぱ疲れているみたいで、期待した程は丈夫じゃねえヤツしか作り出せない。


 だいたい、二~三回でひびが入ったり、上半分をすっ飛ばされたり。

 考える時間もくれないんだよな。

 岩に隠れても、力任せに粉砕されて、すぐ場所を移動するはめになる。


 あー、くそ!

 狭すぎだ。

 こいつ、何でこんな動きにくい場所を選んだんだろう。


 意味があるんだろうか。

 とか思ってたら、岩をはね飛んで移動しながら、飛びかかってきた!

 もう逃げ場がなくて、俺は思わずそこら中に転がっている岩の残骸を拾い上げ、投げつけた。


 おおお!

 弾丸みたい。


 人間が投げたとは思えない、物凄いスピードで、拳くらいの大きさの石ころがティラノへ向かう。

 それが、俺の目にはしっかり見えている。


「もう少しだったな」


 本人には華麗にかわされた。

 でも、やつの背後にあった岩をぶち抜いたぞ!

 これなら、当たれば、かなりのダメージになるはずだ。


 そっか。

 剣を扱えない俺でも、石なら武器に出来る。

 ティラノが岩を、あっちもこっちも砕きまくってくれたから、俺の足元は石だらけだ。

 もしかしたら、こいつは、剣で戦えない俺に、とりあえずは石を使わせるって考えてるのかもしれない。


 そうと分かれば!

 片っ端から石を拾っては投げ拾っては投げ、を繰り返してみた。

 ティラノも体をよじったり、剣で叩き落したりするが、俺に攻撃を仕掛ける暇は無くなったようだ。


 俺は、だんだんと力の強弱をつける事も出来るようになってきた。

 力をコントロールする方法が、わかり始めたんだ。


 そういう意図か。

 剣を振るのは単純動作だけども、石を投げるのは腰をかがめたり、拾い上げたりと、複雑に全身を使う。

 わざとそういう動きをさせる事で、体に慣れさせてくれてるんだな。


「やっとわかったようだな」


 ティラノが笑っている。


「今回はこのくらいにしておくか。

 フミト、その仮人にとどめをさせ」

「え?

 俺がやるの?」


「おまえがやるんだ。

 俺では止められない」


 何でだよ。

 そういう仕掛けなのかよ。

 よく判らねーけど、たぶん、この恐竜男は戦闘専用の仮人で、勝負の決着がつくまでは動き続けるような魔法でもかかってるんだろうな。


 ならしょうがねえや。

 俺は、ばかでかい岩に手をかけた。

 少し力む必要があったけども、生身ではぴくりともしなさそうな、俺の五倍くらいはある岩の塊を引っこ抜く事は出来た。


 石ころでもそこそこの威力があったんだ、こいつを投げつければ。

 別に相手を死なせるわけじゃない、気持ちは楽だ。


 めいっぱい力を込めて、ティラノが大剣を振り上げた隙をつき、ぶん投げる!

 ヤツの上半身に命中した。


 仮人の体は吹き飛んで、岩に挟まれた。

 腕がびくびく動いていたけども、すぐ静かになって、大剣が地面に落ちた。

 足だけ見えている。血は出ていない。


 スプラッタな光景じゃなくて良かった。

 ほっとして、その場に膝をついた時。


 素顔のティラノが姿を見せた。

 光の柱が出来たと思ったら、すぐ消えて、代わりに男が立っていた。


「まあ、上出来だ」

「あ、そう」


「大体のコツはつかめただろう。

 まだ当分は練習しなくてはならんだろうが、仮人を自分の体も同然に動かす程度は可能になったはずだ」


 確かに、指を動かしてみたら、かなり細かい動作も普通に出来た。

 普段通り、いちいち考える事も無かった。


「元の世界の俺も、同じように出来るんだよな?」


「当然だ。

 何のために練習の時間を作ったと思っている。


 この世界と、おまえの住む元の世界は、ポーマで繋がっている。

 今までは、ただ繋がっているだけだったがな。


 元の世界に置いた仮人と、おまえの意識は、ほぼ同化した。

 後は、おまえ次第だ」


「助かったよ。

 こっちの世界では必要かもしんないけどさ、元の世界じゃ超絶パワーなんか使い道ねえもん」


 皮肉なもんだ。

 元の世界じゃ持て余す創造力も力も、こっちの世界でなら有効なんだもんな。


「もうここに用は無い。

 屋敷に戻るぞ」

 ティラノの言葉が終わりきらないうちに、俺はまた居間の椅子に座っていた。



「まずは、その椅子から立ち上がれ。

 離れないと、ポーマを取り込みすぎるぞ」


 そう言われて、意識も完全に取り戻した。

 急いで立つ。

 いつまでも座ってたら、ポーマ風呂と同じ事になっちまうらしい。


「部屋を用意させてある。

 しばらくはそこに居るんだな。

 召喚円陣から、おまえの本体をどかす方法については、考えておく」

「何か方法があるのか?

 頭ばっくりとかは無しで」


「さあな。

 調べない事には何とも言えんよ。

 全く無い事もない、とは見当がついているがな。

 問題は実行が可能かだ」


 頼りになるような、ならないような。

 何ともあやふやな事を言いやがる。

 でもまあ、無責任に


「任せておけ」


 とか言われても、それはそれで不安になるし。

 むしろ、正直に肩をすくめられる方が、ある意味で信用は出来る。


 元に戻れる方法が見つかるまでは、この異世界で何とかやり過ごすしかないんだ。

 俺の生殺与奪を握ってるティラノを、信用出来ないやつだと疑いながら過ごすのは、ちょっときつい。

 そういう意味では、安請け合いをしなかったこの男に、安心を感じた。


 ところで、今は何時なんだ?

 陽音、もう寝ちまってるかな。


 妹は睡眠時間をめっちゃ気にするタイプで、夜にはあんまり強くない。

 もしあいつが寝てるなら、十一時を超えているだろう。

 試しに


(陽音、起きてるか?)


 訊いてみた。


(起きてるよ)


 あ、返事が来たぞ。

 って事は、まだ十一時前なんだ。

 俺は、ティラノを見て


「なあ。

 妹、起きてるんだけど。

 話するか?」


 質問した。

 何だかんだいって、こいつは面倒見はいい。

 超人パワー全開状態で、コントロール方法も判らなくて、途方に暮れてた俺を多少はサポートしてくれた。

 めっちゃ荒っぽかったけども。


 その礼と言ってはおかしいかもだけどさ。

 ちょっとくらいなら、便宜を図ってもいいかなって。

 すると、ティラノはいきなり落ち着きを失った。


 え?

 うろたえてる?

 顔も赤いぞ?


 そういや、最初の時にパムが驚いていたのを思い出した。

 さっきまで、きりっとしてて、余裕たっぷりだった貴族風の偉そうな男が。


 もじもじしながら、俯いちゃったぞ!?

 何だこの純情モードは。


「どうしたんだよ。

 陽音と話すのが嫌なのか?」

「嫌ではない……ないのだが。

 嫌というよりも、嫌とは言うべきではないな、嫌、そうではなくて」


 訳の分からん事を口走ってる。

 信じられない動揺っぷりだ。


 俺もつられて、あたふたしちゃったよ。

 こんな反応されるなんて、思ってもいなかった。


 ただ話すってだけで、どぎまぎするくせして、よく召喚円陣だかで陽音を呼び出そうとしたな、こいつ。

 その様子が、たぶん生中継されていたんだろうな。


(お兄ちゃん、その人なの?)


 陽音が、こっちを見てるんだ。

 レナがかけたくれた魔法で、俺の視界を通じた世界の様子が、鏡に映る。

 音声までは聞こえていなかっただろうが、間違いなく妹に見られてる。


「ティラノ、妹がこっちを見てるっぽい」

「何だと!?」


 めっちゃ慌てふためいてるな。

 全然、想定してなかったのかよ。


「レナが魔法かけてくれたんだけど」

「そんな力があったのか!?

 生まれてまもない属民にか!?」


「え?

 そんな驚く事か?」

「当たり前だ」


 ティラノの驚く様子からして、これは想定外なのが普通っぽいぞ。

 まさかそんな、とかつぶやいている。


 いやいや。もう陽音には見られちゃってるから。

 それどころか


(お兄ちゃん、ティラノと話しさせて。

 早く!)


 妹から希望がきちゃったよ。

 さー、どうする。ティラノ?

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