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食われてたまるか! 思わず口が滑って…

「待てぇぇぇぇ!!!

 何でそうなるっ!?

 俺は帰らせろって言ってるんだぞっ」


「黙れ、邪魔な騒音」


 いつのまにか立ち上がっていた谷間娘(パム)が、俺の頭を垂直に押さえつけてきた。

 げ!?

 びっくりする怪力だった。


 見た目細いのに、おっぱいでかいのに。

 とにかく凄い腕力で、俺は頭のてっぺんから床に抑え込まれた。

 首一つろくに振れない。


「大人しくマスターに召し上がって頂くがいい。

 希望通り、元の世界には戻れる」


「誰が首無しで帰りたいって言った!

 普通に生きて帰らせろ、普通にッ」


「面倒な。

 パム。どけ」


 ティラノ野郎は横柄に命令した。

 つまり、数秒後にはぱっくり行くぞって事だ。

 冗談じゃねえ!


 一秒でヤツの考えを変えさせなきゃ、頭から食われるっ!

 ヤツの関心を一発で引き寄せる一言を思いついて叫ばなきゃ……でも何だ!?


 インパクトがあって、ティラノ男の気が変わる内容。

 どんな話なら注意が引ける!?


 十七年間の人生で、これ以上無いくらい、俺は頭をフル回転させた。

 頭の真上からぐいぐい来ていた圧迫が消えた。


 パムが俺から離れたんだ。

 ここが勝負だ、ダメなら元の世界をオーバーランして、死後の世界まで到達しちまう。


 凶悪サイズのギザギザ牙が目前まで迫った瞬間、俺は渾身の力を込めて


「しょ、紹介ッ。

 紹介してやるっ!!」


 怒鳴った。

 ティラノ野郎の動きがぴたっと止まった。


 やった!

 とりあえず、ヤツの動きは止まった!


 俺は更に力を振り絞って


「妹だろ、お前のお目当ては。

 何かの手違いで、間違ったんだろ?


 分かった、妹を紹介してやるよ。

 何とかしてやるから、俺を食うのは止めろ。な?」


 思い付きをまくし立てた。

 済まん、陽音(はるね)。兄ちゃんを助けてくれ。

 どきどきしながら、ティラノ男の反応を待ってみる。


「間違いないな?」


 ぼそっと、返答が来た。

 谷間娘が


「ええっ」


 すんごい驚いてるのも聞こえた。

 良かった、提案に食いついた。


 後は説得だ。

 このチャンスを逃したら、提案じゃなくて頭の方に食いつかれる!


「間違いない!

 保証する。責任もって、妹に紹介するっ」

「承知した」


 奴は、物騒な牙を口の中にしまい込んだ。

 女の子が絡んだら、いきなり聞き分けが良くなりやがるんだな。やっぱこいつも男かよ。


 お陰で、今すぐに食い殺される心配だけは無くなったっぽい。

 で。

 これからどーするんだろ?


 俺はティラノ男と、たぶん奴の召使なんだろうパムを、交互に眺めた。

 恐竜顔の方は、全く何も変化が無い。

 パムは、めちゃめちゃびっくりしたらしく、濃い紫色の目を見開いている。


「マスターが……。

 あ、赤くなっていらっしゃる」


 どの辺が!?

 奴のどこを見て、顔色の変化を発見したんだおまえ。

 俺にはどう頑張っても、小学生くらいの頃に図鑑で見たティラノサウルス(想像図)にしか思えねー。


 ま、まぁいいや。

 ティラノ野郎が乙女ちっくに顔を赤らめようが、爬虫類っぽいまんまに見えようが、どうでもいい。

 とにかく、この首だけって状態を何とかして貰わんと。


 今のところは痛くも苦しくも無い。

 ただ、首から下の感覚が全く無いんだ。

 

 痺れるとか、そんな感じでもないんだよな。

 手を動かしてみようと思っているんだけども、どうなってるんだか分かんねえ。


「おーい、ティラノ。

 照れるのは後にしてさ、この状況を何とかしてくれよ、食うのはナシの方向で」

「マスターに妙な呼びかけをするな」


 パムに怒られた。

 だって、名前知らないんだもん、しょーがねえじゃん。


「だからといって、無礼は許さない」


 また怒られるし。

 あ、そうか。

 今の俺って、考えた事をぺらぺら喋っちまうんだ。


 こっちを先に何とかして欲しい。

 そう思った途端、鼻で笑われた。


「注文の多い男だな、この騒音めが。

 おまえ如きに、マスターへのご要望を口に出来ると思ったら大間違いだ」


 えっらい言われ方だな、おい。

 (はるね)を呼び出す予定が、兄貴(おれ)を引っ張り寄せちゃったくせに。

 このうっかりさんめが。


 パムが急に青ざめ、あっという間にしょげ返った。

 なんか、痛いところをどん突きしたらしい。

 あー、間違えたの、実は気にしているんだなぁ。


 強気になったり急にしょんぼりしたり、一人で忙しそうな女の子を眺めていたら、視界に恐竜顔が、ずずいっと割り込んで来た。


 急に来るな、急にっ!

 おっかねえんだよ、その顔!

 一声かけるか、徐々に来いよ、心臓に悪い野郎だ。


「パム。

 この男を黙らせろ。


 効きすぎている、要らん事まで喋って(うるさ)い。

 耳障りだ」


 誰のせいだ、誰の!

 ほんと(ひで)ぇ言いっぷり。


 主人も召使も、揃って人でなしだな、外見も中身も。

 落ち込んでいたパムが、命令を受けた瞬間にキリっとなった。


「はい、直ちに」


 今度はミントっぽい匂いがしてきた。

 また何か、魔法を使ったんだろう。


 今んとこはよく判んねえ。

 それより、この首だけ異世界こんにちは状態を何とかして欲しい。


 しばらく様子を見ていたらしいティラノ男が、俺の目の前にしゃがみ込んだ。

 指でちょいちょいやって、パムを呼びつけ


「口を開けろ」


 またまた、訳の分からない事を言い出した。

 何をする気だ。

 戸惑っていると、パムも片膝をついて身をかがめ、俺を睨んで


「お言葉に従え、ばか者」


 叱りつけてきた。

 さっきから扱いが酷すぎる。


 誰がこんな状態になりたいって頼んだんだよ、こんちくしょー。

 お前らの勘違いだか手違いだかで、俺は思いっきり被害受けてるんだぞ。


「せめて説明しろ、説明!

 何が何だか判んねえのに、口なんか開けられるかよ」


「黙ってマスターのお指図に従えばよい。

 説明を聞いたところで、どうせ判るまい」


 細い指が伸びてきた。

 口に突っ込んで無理やり開けさせるのか、それとも鼻をつまむ積もりか。


 パムって女は、見かけは委員長風の意識高そうな自立系なのに、マスターとか呼んでいるティラノ野郎には、アホみたいに忠実だ。

 何が何でも、任務をやり遂げる。

 すんごい使命感が伝わってくる。


「雑に扱うなっつーの!」


 押さえつけられている頭を、それでも必死に反り返らせて、迫りくる指を避けながら、つい叫んじゃったよ。

 どうも忠誠心が高すぎて、何の為の命令かって事がすっぽ抜ける癖があるようだ。

 俺がどうなろうと知った()っちゃねえ、みたいな。

 極端か。


「無茶やらかして、もし俺が死んだら、妹を紹介するって話もパァになるんだぞ」

「ふむ、もっともだな」


 命令実行の為なら手段を選びません主義らしい女の子の実力行使を、主人が手で制した。

 むしろこいつの方が話は通じるっぽいな。

 ほっとしていたら


「未来の義兄どのに対して、あまりに礼を失するのも、考えてみれば宜しくない」


 何か、妹と結婚する気満々なんですけど!?

 こいつも、別の意味で話が通じないのかもしれない。


 やばいやばいやばい。

 確かに、責任もって紹介するとは言ったよ。

 言ったけどさ。


 結婚まで責任もつとは言ってないぞ、俺。

 でも、今更やっぱさっきの話はナシで、とか。

 通じる――感じは、ぜんぜんちっともさっぱりしない。


 待て、落ち着け、俺。

 物事には順序ってもんがあるはずだ。


 今、一番大事なのは、晒し首みたいになってる状況を何とかする事だよな。

 後の事は、何とかなってから考える!


 それに、だ。

 こう言っちゃなんだが、陽音は割と出来がいい。

 口は悪いけどな。

 あいつなら、恐竜男に求婚(プロポーズ)されても、きっと切り抜けてくれる。

 うん、きっと……たぶん。もしかしたら。


 とにかく、頭を食われても生きてられる程の強者(タフ)じゃないぞ、俺は。

 いろいろ不本意なんだが、死ぬよりはマシ。

 決心がついて


「ざっくりとでいいから、何をする予定なのか説明してくれよ」


 要求してみた。

 ティラノがパムに目をやった。


 こいつ、ほんとに自分じゃ何もしないんだな。

 主人と召使ってのは、そういうもんなんだろうが。

 視線で命令された方は、とっても無愛想に


「おまえを、召喚円陣から抜き取る。

 その為の薬を飲め」


 とってもざっくり解説してくれた。

 変なところは素直なやっちゃ。


 まあ、原理をあれこれ聞いてもしょうがない。

 他のやり方で、なんてうっかり頼んだら、頭をばくってやられるんだろうし。


 抜き取るって単語がちょっと引っかかるが、もう贅沢は言えない。

 腹を括って、なるべく大きめに口を開けた。


 ティラノ野郎が、爪で何かを弾く仕草をした。

 ん、何だこれ。


 錠菓(タブレット)みたいなのが舌の上に乗ったぞ。

 コンビニなんかでよく売ってるやつに似てる。

 噛んでいいのか?


「そのまま飲み込め」


 パムに言われたので、噛むのはやめた。

 味は無いけど、ぼそぼそしてて飲み込みにくい。水が欲しいぞ。


 喉に引っかかる嫌な感覚を我慢して、飲み下した。

 で、どうなるんだ。


「待っているがいい」


 女の子らしくないぶっきらぼうな口調で命令された。

 まあ、この対応はもういいや。言ってもしょうがねえもん。

 腹立つけども、我慢我慢。


 う?

 何だ。

 気持ち悪っ!!


 胸やけっつーか、すげえ吐き気がする。

 続いて、腹が膨れた感じもしてきた。


 うぷっ!!

 もぉ無理っ、我慢は無理っ!


 でも。

 何故かリバースはしなかった。

 つーか、さらに何故かは判んねえんだけども。


 耳が!

 耳が熱くなってきたんだ。


 ティラノ野郎が、ぬっと腕を伸ばして、俺の両耳を掴んだ。

 いや、違う。

 掴むような動作をしたんだ。


 そしたら、視界が急に変わった。

 今まで水平だった世界が、真上から見えている。

 俺の頭上も含めて。


 え?

 俺が見える?


 目を凝らしてみたが、間違いない。

 くせ毛が強くて、ぴょんぴょんと外ハネしてる、耳を隠すくらいの黒い髪。

 俺の後頭部だ。


 幽体離脱とかって、こんな感じなのかも。

 なんつーか、低反発マットの上に寝転んでるような。


 こうやって見ると、改めて、異世界に居るんだって実感が湧いてくるな。

 自分の頭のてっぺんや後ろを上から眺めるって、妙な気分になるもんだ。

 

 そんなもんだけ見ててもしょうがないので、周りを見渡してみる。

 俺がいる場所だけ、はっきり見えるんだけど、他はモザイク状態だ。


 これも魔法なのか? 

 テレビでよく見るプライバシー配慮みたいな感じ。

 目で見て理解できたのは、ここが学校の体育館並みに広い空間って事だった。


 う?

 何だ、息が苦しいぞ!?

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