プールのアサコちゃん
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「……先輩、怖い話って得意ですか?」
「な、なんだお前そんな急に。お、俺が、この俺が、こ、こここ怖い話? っが、得意なワケ……いや、苦手なワケがないだろうっ!」
「そうですよね。『ポセイドン番長』と名高い先輩に怖いモノなんて無いですよね。今朝のたくましい消火っぷり、同じ消防士として尊敬します!」
「あ、あぁあぁあ当たり前だろっ! ど、どんな話でもどんと来い!」
「では、さっそく。……先輩は『トイレの花子さん』って知ってますか?」
「ひ、ひえぇぇぇ…………」
「『ひえぇ』?」
「ひ……『比叡山』が発祥の話だろ!?」
「え、そうなんですか? さっすが先輩、博識ですねー」
「お、おう……」
「それに似た名前の話が、最近若者の間で流行っているんですよ」
「そ、そうなのか」
「その名も『プールのアサコちゃん』。なんでも、何年か前に家が火事になった「アサコちゃん」っていうお嬢様が、家の窓からプライベートプールに落ちたあと行方不明になったらしくて、それでいつの間にか『夜中にプールに入ると、幽霊としてこの世をさまよっているアサコちゃんが水中へ引きずり込んでくる』っていう怪談になったらしいんですよ」
「……もう、プール入れねぇ…………」
「……でも「実は生きていて、家に放火した犯人に復讐する機会をうかがっている」なんて説もあるみたいで、謎が多いんですよね。ホントに放火だったかどうかどころか、実際にあった火事なのかどうかもわかりませんし。……あれ、先輩どうかしましたか? 難しい表情をしていますけど」
「……いや、前にそんなことがあったような気がしてな……。そのお嬢様、なんて名前だった?」
「『アサコちゃん』です。『アサコちゃん』」
「『アサコちゃん』? ……そうか。あのときの女の子か」
「知っているんですか?」
「……ああ。俺の記憶が間違っていなければ、その子は倉田元かん……」
『○○丁目の住宅街で、火災発生』
先輩の言葉は、出動命令のアナウンスで掻き消されてしまった。