#1 親父の死と目覚めた魔眼
初投稿になります天嵩 夏音と申します。不定期な更新となりますが、二つの小説を同時に投稿していけたらなと思います。目指すは完結ですね!
それではご覧あれ!
世界は見方を変えればつらいことも楽しいことばかりだ。これはいつも親父が言っていた言葉だった。どういう意味か聴いても、そのままの意味だとしか言われなくて、深い意味を教えられることはなかった。
そんな親父は俺が10歳になるころには魔物に殺されて死んでしまった。その魔物はいわゆる魔王軍の幹部といわれる存在のペットに殺されてしまったらしい。そのことについては悲しいなとしか思わなかった。しかし、目の前で親父が死んだこと、そして片目が魔物に奪われた激痛によって、俺の左目はいわゆる"魔眼"というものに変化していた。
親父が死んだことで村全体で大掛かりの葬儀のようなものをやっていたが、俺は一人それには参加せず、村にある全ての本をかき集め、親父の死と自分の右手を犠牲にして手に入れた魔眼という力について調べてみることにした。
ざっと調べてみると魔眼にはランクが存在し、一番上のランクを『虹』。それから順に『金剛』、『紅玉』、『黄金』、『白銀』とランクが下がっていくらしい。それで、自分の魔眼のランクの判別方法は自分の魔眼の色を確認するだけでいいらしい。どんな力があるかは実際に使ってみないとわからないが、ランクが上がれば上がるほど強力な力があるらしい。人によっては一つの魔眼で二つの能力がある可能性もあるとのことだった。
鏡の前まで行き、自分の左目の色を確認する。鏡の中に映る自分の左目の色は虹色…つまりは最高ランクの魔眼だった。どんな力があるか…そもそもどうやって使ったらいいかもわからないが、とりあえず、親父から教わったわずかの剣術とその親父の死と自分の右目を代償に手に入れた魔眼で自分の命を守れる程度には強くなりたい。
「そうと決まったら、早速家に戻って自分のいつも使ってる剣を取ってこよう。近くにはスライムやゴブリンみたいに子供でも狩れる魔物もいるからそれで練習してこよう」
目的が決まれば、あとは実行するのみ。誰もいなくなってしまった自宅から護身用にと親父から貰っていた短剣と普段剣術を教わるときに使っている大剣を持ち誰にも気づかれないように村を出ていく。親父には立派な騎士になってほしいとか言われたけど、この二つの武器を使ってると暗殺者的な存在にもなれそうだね……まぁ、なるつもりは毛頭ないけどさ。
「ギィギギギ」
「ギギギィィ」
「ギャギャギャ」
村を出て適当に歩くこと数分、草むらの陰から三匹のゴブリンの声が聞こえてきた。草のわけ少し顔を出してみると門番をしている三匹のゴブリンがいた。その手には刀身に穴の開いたゴブリンソードと呼ばれるゴブリンが作った武器を持ち、何やら話しているようだった。こんなに警戒心の薄いゴブリンを見ることはなかなかないだろう。
しかし、それ以上に、目を見開いたのはそのゴブリンたちが守っていた門の奥…いわゆるゴブリンの巣だった。普通のゴブリンの巣はあっても10~30程度のものが合わさった程度の物に過ぎないのだが、今、目の前にあるのは100をも超えるゴブリンの巣が合わさった大規模のゴブリンの巣だった。
一つのゴブリンの巣に大体10~20匹のゴブリンが住んでいる。そのため、この場所には少なくとも1000匹を超えるゴブリンがいることだろう。
「…あはは、なんだよこれ。こんなのが村を襲ったら、せっかく死んだ親父を見送ってくれてる村の人たちが死ぬじゃねえか。……はぁ、処理を始めよう」
死ぬかもしれない恐怖はない。あるのは目の前に張る邪魔者を排除するという明確な殺意と、魔眼の実験台が見つかった喜びだけ。
口元が自然と笑みを浮かべる。あぁ、楽しい。確かにたのしいことばかりだな親父。こんなにも自分の力を試すことができる場所が近くにあることは嬉しいことだったんだな。
「さぁ、盛大な祭りを始めようか」
そんな言葉とともに草むらから飛び出す。ゴブリンと俺との距離は約4メートル程度。大地を強く踏みつけ、ゴブリンに近づく。ようやくゴブリンが俺の存在に気付いた…が、それは既に遅い。
「残念、それはもう俺の間合いだ」
ゴブリンソードを振り上げたその三匹のゴブリンの首を大剣で切り落とす。切り落としたと思ったつもりであったが、どうやら一匹だけ外してしまったらしい。首の薄皮一枚斬る程度でとどまり、俺にその剣を振り下ろす。大剣は既に二匹のゴブリンの首を斬り、刀身を地面へと抉らせていた。今のままではゴブリンのそれを受けていたことだろう。そう、もし"大剣のみ"であったらの話だ。
大剣を持った手をいったん離し、その凶器を避ける。避けたことによって俺を見失ったゴブリンはキョロキョロと俺の姿を探す。が、背後に既に回った俺は腰に差していた短剣を抜き取り……。
「門番お疲れ様。あの世でゆっくりと休みな」
首を刈り取る。無駄に切れ味のいい短剣は、骨が存在するだろうゴブリンの首を何の障害もなく刈り取る。
実際にモノを殺したのは初めての経験だが、特に何も感じない。既に心がおかしいのかそれとも人型ではあろうとも魔物だからなのかはわからないが、これでまだ中にいるゴブリンが殺せることが分かった。
「特に疲れもない。むしろ心地よささえ感じる。この中からは魔眼の力の確認もしていく必要があるが…。それよりも短剣や大剣を使った方が早いと思ったんだよな。まぁ、そもそも魔眼の力確認に来たんだから使わなきゃ意味がないか」
一人でそんなことを呟いているとゴブリンの巣がある門がわずかに開き、武装したゴブリンが次々に出てくる。どうやら、先ほど狩った三匹のゴブリンが死んだ瞬間、敵襲が来たこと悟ったらしい。なかなか面白いじゃないか。
先ほどまで浮かべていた笑みがより一層深い物へと変わり、口元が三日月のような形になっているような気がした。それをみたゴブリンが一歩後ずさったような気がした。…それでは俺のほうが悪者ではないか。
が、気にしない。気にするだけ無駄であり、今回の目的はゴブリンの完全討伐と魔眼の力確認であり、ゴブリンからどう思われようがどうでもいい話であるからだ。
「さて、武装したゴブリン諸君、大人しく俺に殺されるか………思う存分抵抗してこい!」
短剣と大剣を持ち、武装したゴブリンの集団に突撃していった。
その時、左目は深紅色に染まっていた。