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電話

作者: 堤 冬馬


 女が恋に落ちてしまうのは悪魔にでも止められないらしい。

 その日、カフェで並んでいたとき、後ろにいた客の男と偶然にも着ていたセーターの柄が一緒だったと言う理由だけで話が盛り上がり、今はその男とベッドの上にいる。

 女は、柄が一緒のセーターを脱いだ裸の男の頭を自分の膝の上に乗せたまま、ある男に電話をかけた。

「わたし恋に落ちてしまったの」

 突然にその電話を受けた男が、突然のその内容に驚いているのが受話器越しにも分かった。

「気の毒だと思うけど、自分でも驚いているのよ」

 受話器を耳に当てたまま、その男は目を閉じて女の声を聴いていた。

「そうか。今、幸せかい?」 男は聞いた。

「少しね」 女は応えた。

「そうか。すまないが新しい彼氏に代わってもらえるかい?」

「ええ」 女は膝の上の頭に受話器を渡した。

「やあ」 新しい彼氏は言った。

「やあ」 男は応えた。

「こんなことになって気の毒だと思うけど、つまりそういうことなんだ」

「そうか。すまないが君、その娘を幸せにしてやってくれるかい?」

「ああ、わかったよ」

「ありがとう。君の彼女と代わってくれるかい?」

 彼女は、窓の外を流れ行く車のライトがカーテンを黒く揺らすのを眺めている。暗い部屋に時折入り込むライトは、大理石の小さいテーブルを重く光らせた。

 新しい彼氏は受話器を彼女へと渡した。

「優しそうな男じゃないか。」 彼氏だった男は言った。

「たぶんね」 女は言った。

「今までありがとう。愛してるよ」

「わたしもよ。愛してるわ」

「さよなら」

「さよなら」

 男は通話を終えた電話を、寝そべっているベッドの横にある小さなテーブルの上にそうっと投げた。電話はマホガニーの上を静かに滑り、落ちることなく留まった。

 窓の外から白いブラインド越しに入ってくる車のライトに目を閉じて、こめかみに中指の腹を当てると、大きく息をゆっくりと吐いた。

「どうしたの?」 女は膝の上に頭を乗せたまま、ため息をついた男に聞いた。

「彼女と別れたんだ」 男は女の膝の上で目を閉じたまま応えた。

「そう」

「ああ」

「彼女を愛してたの?」

「とてもね」

「わたしのこと愛してる?」

「愛してるよ」

 男は顔を横に回して女の膝に口付けをした。

「今、幸せかい?」 男は聞いた。

「たぶんね」 女は応えた。


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