第8話 動き出す物語
俺は今天野との集合場所にいる。
もちろんグリコに憑依された状態でだ。
「遅いねぇ春花。」
確かに遅い。
時間的にもギリギリだ。
まさか…もう既にあの霊魂に憑依されて、何かしらのトラブルに巻き込まれたんじゃ。
「それはないよ冥君。死神の目に狂いはないからねっ!」
…まぁ確かにこいつはこれでも死神だ。
そうゆう目には長けているのだろう。
…見習いらしいがな。
「それ褒めてはいないよね?若干ディスってるよね冥君?」
グリコの声色が少し変わる。
どうやら他人に見習いと言われるのはあまり好きではないらしい。
お!天野が来たぞグリコ!
ナイスタイミングだ天野!
「…おはよ、メイ。遅れちゃってごめんね。」
…天野の様子がいつもと違うことはすぐに理解できた。
「おはよう春花!…どうかしたのか?」
グリコもその様子に気付いたようで、天野に直接確かめる。
「え?…あぁ、うん。ちょっと身体の調子が悪くてね。でも大丈夫よ。ありがと、メイ。」
どうやら、未だ憑依はされていないものの、精神的にも肉体的にもかなり弱ってきているようだ。
「何かあったら僕を頼ってくれよ。君の笑顔が見れないと僕は辛いんだ。」
要所要所で格好つけやがって。
まぁ確かに心配ではあるのだが。
「メイ…。うん。その時は頼らせてもらうわ。期待してるから。」
そう言って無理に笑って見せる天野。
そうして俺たちは学校へと歩みを進めた。
時間は刻々と過ぎて行く。
いつもは休憩時間の度話しかけてくる天野が今日は大人しかった。
それほどまでに弱ってきているのだろう。
ここまでしてあの霊魂が果たしたいこととは、何なのだろうか?
「おい、天野。ちょっと良いか?」
「はい、大丈夫です。」
昼休憩が始まってすぐ、教師に呼ばれ教室を後にする天野。
教師も天野の様子の変化に気が付いたのだろうか?
結局天野が戻ってくることはなかった。
どうやら早退したらしい。
「なぁ送川。今日天野が早退したことは知ってるな?悪いが、天野の家まで届けて貰いたいプリントがあるんだが…お前天野と仲良かっただろ?頼んだぞ。」
そう言って半ば無理矢理プリントを渡す教師。
まぁ天野の様子も伺いたかったし丁度良いか。
教師から教えて貰った地図を頼りに天野の家へと向かう。
「んーっと…。この辺りで合ってると思うんだけど…。お!あったあった!ここだ!」
…へぇ。天野の家はかなりお金持ちのようだ。
家のデカさがそれを物語っている。
「冥君の家とは大違いだね!」
うるせーよ。
良いからさっさと様子を見に行くぞ。
「分かったよ、冥君はホントせっかちなんだからっ!」
そう言いながら素直にインターホンを押すグリコ。
暫く待っていると、天野が玄関を開けて出てきた。
「メイ。わざわざ家までゴメンね。さっき先生から連絡があって。メイがプリント届けてくれるって言ってたから。」
そう言う天野の表情は、学校で見た時よりもかなり具合が悪そうだった。
「気にしなくて良いよ、それより具合は大丈夫なのか?」
「うん、今のところはね。」
とてもそうとは思えない。
憑依されるのも時間の問題か…。
「…なぁ春花。ちょっとお邪魔して良いか?」
グリコもそれを察しているのだろう。
「…………へっ!?あ、でも汚いし!それに二人きりで家の中なんて…心の準備ができてないとゆうか…なんとゆうか…。」
急に少しだけ元気になってないか?
一体どうしたってゆうんだ。
「春花。僕は春花が心配なんだ。少しだけで良い。側に居させてくれないか?」
…今回は我慢してやる。
「………うん。分かった。…私も側に居てほしいし…。」
最後の方は声が小さく、何を言っているのか分からなかったが、どうやらOKをくれたようだ。
そうして俺たちは天野の家へお邪魔することになった。
ここから物語は大きく進みだすことになる。