第14話 慌ただしさは終わらない
「おっはよう~諸君!送川冥の登場だぁ!」
ガタンと激しく扉を開け、教室へと入っていくグリコ。
「おはよう、メイ。…てゆうか…」
天野か…
いつもと変わりないようで良かった。
「お!春花!元気そうで良かったぜ!朝から君の美しい顔を見れるなんて幸せすぎて俺ぁ失神しそうだぜ……」
今にも天にも上りそうな、とろけたような表情でそんなことを言ってのけるグリコ。
控え目に言って気持ちが悪い。
ましてやこれを言ってるのが俺の顔なのだから尚更気持ちが悪い。
おい!グリコ!
マジでやめろ。
色々解決したのは良いとしても、それはホントにドン引きされるぞ。
「…う、美しいなんて…皆の前で………じゃなくて!前!」
最初の方はゴニョゴニョ言って聞こえなかったが、最後のは聞こえた。
"シバくでお前"
うん、どうやら俺の学園生活はここで終わりらしい。
「…おい送川。遅れて来たくせに彼女とイチャつくなんて良い根性してるじゃないか…」
……いや、彼女じゃない。
そんなこと言ったら天野に殺されるぞ。
……って、…げ!…怒門先生…
おい!グリコ!ここは素直に謝れ!
天野にも怒門先生にも謝れ!
「…ん?なに?怒門がなにって言ったの?」
おい!グリコ!声に出てる!声に出てるから!
怒門先生に謝れって言ったんだよ!
「怒門に宣戦布告すればいいの?」
違う!怒門先生だ!
お前絶対わざとだろ!?
何で急に耳が聞こえなくなるんだよ!
「…ほぉ…担任を呼び捨てにしたあげく、宣戦布告だと?……どうやら俺とじっくり話しがしたいらしいな…長くなりそうだ。今は勘弁してやる…放課後に生徒指導室まで来い。……バックれるなよ?……よし、じゃあ気を取り直して授業始めるぞ!」
…本当に終わった…
これはマジで終わった…
グリコ…お前なんてことを…
そんな俺のことはお構い無しに、グリコはニコニコと笑顔で授業を受けている。
はぁ…どうしていつもこんな目に…
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その後は特に何事もなく順調に昼休みまで進んだのだが、なぜか俺の周りにはクラス中の人間が集まっていた。
「まぁまぁ皆落ち着いてくれ!俺は、どこに逃げたりしないぜ!」
その光景を見て何を思ったのか、嬉しそうに格好つけているグリコを見て、俺はため息をつくほかなかった。
「でも送川、お前ホントにスゲーよ!あの怒門に楯突くんだもんな!見直したぜ!」
クラスの男子が俺を称賛する。
それもそのはずだ。
怒門はこの学校の生徒指導の先生でもあり、この学校で一番恐ろしく、逆らってはいけない存在だ。
そんな先生を俺(俺に憑依してるグリコ)は、あろうことか呼び捨てにし、宣戦布告までしてしまったのだ…
全くもって意味が分からない。
心の底から意味が分からない。
「でも…メイ。ホントに大丈夫なの?この前も怒門と揉めて退学になった生徒がいるって聞いたことあるわよ。」
天野が心配そうな顔で俺に問いかける。
退学か……
このままグリコに任せていたら本当に危ないかもしれない…
「…大丈夫だ春花…俺は春花さえ居てくれればそれで…」
そう言って天野の腕をガシッと掴むグリコ。
「…や、やだ…皆の前で…照れちゃうよ…」
天野の顔はみるみるうちに赤みを帯びていく…
おい、グリコ。
天野の怒りが頂点に達する前にさっさと手を離せ。
このままだと退学になる前に命尽きるぞ。
「……愛してる春花。」
俺の言葉にガン無視をかますこのアホ神はあろうことか、怒りで顔を赤くしている天野を愛してるの言葉と共に抱き締める。
おい!離せ!
天野だけじゃない!
このままじゃクラス中からブーイングだぞ!
「………!」
さすがの天野のも怒りを通り越して殺意が芽生えているようだ…
もはや黙って硬直している。
「あーあ!また天野と送川のイチャつきが始まったぞ!邪魔みたいだから席戻ろーぜ!」
この光景を見ていた周りの生徒たちは、ニヤニヤとしながら席へ戻っていく…
…じゃなくてこのアホ神を天野から引き離してくれ!頼むから!
そんな俺の願いも虚しく休憩終わりのチャイムが鳴り響き、俺の命運が尽きるタイムリミットも刻一刻と近づきつつあった…
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午後の授業も終わり、とうとう放課後がやってきてしまった……
グリコの野郎はいつものように呑気にスキップをかましながら生徒指導室へと向かっている。
グリコ…頼むから余計な事は言わないでくれよ…
「大丈夫だよ!冥君はほっんと心配症なんだね!まぁ大船に乗ったつもりで気楽にしててくれればおっけぃだから!」
こいつのおっけぃ程信用ならんものはない…
「…あーそんなこと言っても良いのかなぁー。冥君の命運を握ってるのはグリコ様なんだけどなぁー。どうしよっかなぁー。」
…くっ……
分かりましたよグリコ様…
あとは頼みました………
「ふふん♪宜しい!」
そう言ってまたルンルンとスキップしながら楽しそうに前進する。
……やはりグリコのおっけぃは信用ならんと、俺が肝に命じることになるのは、それから5分も経たないうちであった。