第13話 冥界からの観察者
ーーー冥界ーーー
ここは冥界。
冥土へ向かう霊魂たちが最期に訪れる場所。
そして、霊魂を冥土へと送る役割を担う神、"死神"たちの住まう世界。
その冥界にて、下界を見下ろす死神が一人。
「……………」
その表情は決して穏やかではない。
どれほどの時間が経過したことだろう。
ただひたすらに下界を見下ろしていた死神が、静かに目を閉じる。
それとほぼ同時に"とある霊魂"が冥界へとやってきた。
「…久しぶりだな、じーさん。」
霊魂は死神へと声を掛ける。
死神は深い溜め息を吐き、ゆっくりと目を開け霊魂の居る方へと振り返った。
「…何が久しぶりじゃ。手間かけさせよって。」
その言葉を聞き、霊魂はムッと顔を強張らせた。
「ジジイにゃ迷惑かけてねーだろ!」
「…くっ。礼儀を知らん小僧じゃ。…まぁ今回の事はこちらに非がある。それにお主は自身の意思でここに戻って来おった。そこは素直に褒めてやろうぞ。」
死神は息つく暇もなく話しを続ける。
「下界へと逃げた霊魂はお主以外にもおる。それも相当な数じゃ。お主のように、想いを果たして戻って来る奴も居ろうが、強い恨みを持ち下界へ居座り続ける霊魂も居ろう。その霊魂が厄介極まりない!」
死神は、今まさに冥土へと向かおうとしている霊魂に対し、今現在の冥界の状況を熱く語り続ける。
「…なぁジジイ…それを俺に言ってどうなるんだ?」
霊魂は少し呆れた様子でそう答えてみせた。
「…どうもなりゃーせんわい。ワシとて霊魂相手に愚痴なんて言いとうないんじゃがの。…なんせこの事件の発端はワシの"孫娘"じゃ…。今回ばかりは気が滅入るわい。…グリコの奴め…本当にバレておらんと思うておるのか…我が孫ながら恐ろしいポンコツぶりじゃて…。お主もそう思わぬか?天野夏夜よ。」
死神はそう言いながら霊魂"天野夏夜"に同意を求めた。
「…まぁ…ポンコツなのは確かだな。だがアイツのおかげで何の悔いも残さず冥土へと行くことができる。少なくとも俺は感謝してるさ。」
天野夏夜は何の迷いもなくそう言い切った。
「…そうかい…。」
死神はそれだけ言い、もう一度下界に目を向けた。
「…じゃあ俺は行く。世話になったな。ジジイにも…アンタの孫にも。」
天野夏夜は死神の背中に最期にそう言い残し、冥土へと旅立って行った。
「……。」
「…グリコよ。ポンコツなのは相も変わらぬようじゃが…しっかりケジメはつけちょるようじゃの。」
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[下界]
時間は8時20分。
眩い日差しが部屋へと差し込み目が覚める。
俺はベッドから出て、すぐ近くで呑気に漫画を読んでいる死神に悪態をつく。
…グリコ…。
なぜ起こしてくれなかった!
「それは冥君が悪いんだよっ!私が春花の家に居ることを忘れて勝手に帰っちゃうなんて!」
…くっ…。
完璧に遅刻ではないか…。
「まぁ冥君のおかげで春花も春花のお兄ちゃんも皆救われたんだから、おっけぃなんじゃないかな!」
…まぁ今日ぐらい良いか…。
とりあえず早く憑依してくれ。
さっさと学校へ行かなくては。
「…え!?まだ憑依して学校へ行くつもりだったの?昨日いっぱい喋ったんだよね?もうそろそろ大丈夫なんじゃないかな?」
…ふっ…アホな死神だ。
大丈夫だったら今だってちゃんと口で会話しているさ…。
俺が喋り終えるとすかさずグリコのチョップが飛んできた。
「そんなこと堂々と言わないでくれるかな?あとさ、アホってなに?今まさに私に助けを求めているところだよね?そうなんだよね?」
軽いジョークじゃないか…。
…って、早く行かなくては!
グリコ!はやくはやく!
「あぁもう!分かったよ!」
そうして今日もグリコに憑依された状態で学校へ向かうことになった。
「ひゃっほー!おはよう世界!送川冥様のお通りだーい!」
そうして今日も少し後悔している俺。
…まぁなんだ。こんな生活も悪くはない。