第12話 受け継がれた"約束"
今回は天野春花視点です!
途中から天野兄視点に切り替わります(* >ω<)
ーーー天野家ーーー
私は今、夢を見ている。
小学生の頃の夢。
泣いている私の手を握り、ずっと側に居てくれたお兄ちゃん。
笑っている私の頭を撫で、一緒に笑ってくれたお兄ちゃん。
どんな時でもお兄ちゃんは私の側に居てくれた。
「なぁ春花!明日はお前の誕生日だろ?何か欲しいもんがあれば何でも言えよ?お兄ちゃんが好きなもん買ってあげるからな!」
そう言いながらニヤニヤと笑い掛けてくるお兄ちゃん。
その優しい笑顔は、今でも忘れない。
「…ええー…。欲しいものかぁ~…色々あるんだよなー!どうしよっかなぁー!」
意地悪そうに微笑みながら、そんなことを言う小学生の頃の私。
「…服なんかどうだ?今時の小学生はお洒落だもんな!そうだ!そうしよう!」
高いものでも頼まれると思ったのか、服をごり押ししてくるお兄ちゃん。
「…じゃあ、ブランド物の服で欲しいのがあるんだけどさ…」
「あぁ!服はやめとこう!やっぱお前の欲しいもんが良いもんな!俺が言ったものを買うのは可笑しいしな!よし!服はやめ!」
食いぎみに服を却下してきたお兄ちゃん。
自分で言ったくせに、何て態度だ。
うーん…でも欲しいものか…。
私の欲しいもの…私の願い…それは……………
「お兄ちゃんと…ずっと一緒に居たいな…。」
気づくと想いは言葉となり口に出ていた。
ふと我に返り赤面する私。
何て恥ずかしいことを口走ってしまったのだ。
早く訂正しなければ!
…だが私が訂正するより前に、お兄ちゃんが口を開いた。
「…え?それは別に頼まなくても良くないか?俺はお前と離れるつもりはないぞ?いや、でもお前も将来結婚する時がくるんだもんな…。悲しいことだがそれがお前の幸せなら、その運命甘んじて受け入れよう。ん…?でもそれじゃずっと一緒に居れないな…。どうしたもんか…。」
そんなことを平然と言ってのけるお兄ちゃん。
先ほど赤面した顔が更に赤くなっていく。
そんな私をよそに、一人考え込むお兄ちゃん。
本気で考え込まなくても…。
でもそれほど私のことを想ってくれているのだ。
…この頃の私は何て幸せだったんだろう。
「よし!決めたぞ、春花!」
お兄ちゃんが何かを決心したように叫んだ。
「な、なにお兄ちゃん?」
「お前とずっと一緒に居ることは出来ないかもしれない。お前もいずれは結婚するだろうし、俺だってそうかもしれない。だけどな、約束してやる!」
真っ直ぐに私を見つめ、一呼吸置くお兄ちゃん。
「……約束?」
「あぁ。約束だ!いずれお前に好きな男ができるまで、お前のことを本気で想ってくれて、お前のことを命懸けで守ってくれる男が現れるまで、俺は………の………生を……お前を…………るよ…」
最後の方は声が聞き取れなくなった。
どうやら、目が覚めてきたみたいだ。
…あぁ、夢の中でくらい…
もう一度聞かせてよ…
大事な大事な約束を……。
そして私は夢の中から現実へと引き戻された。
一人ぼっちの部屋。
そうか…メイは帰ったんだ…。
天井近くの壁に吊るされた時計が時を刻む音しか聞こえない。
こんなに広い部屋があっても、こんなに大きい家があっても、中には私しか居ない。
もう一度眠りにつこうとしても中々寝付けない。
はぁ…一人の夜が、一番辛いのに…。
私が何とか眠りにつこうと努力している時、その瞬間は訪れた。
ガラガラと家の門が開く音が聞こえる。
一体誰だろう?
メイが戻って来たのかな…。
玄関を開き、階段を上がってくる音が微かに聞こえてくる。
足音は次第に大きくなり、私の部屋の前でピタッと止まった。
………。
「…メイ……?」
返事がない。
一体誰が…
まさか泥棒でも来たのだろうか…
無駄に大きな家だ。
金目の物があると思われても無理はない。
ゆっくり扉が開く。
私は心臓の鼓動が次第に早くなっていくのを肌で感じた。
扉が開ききり、入ってきた人物と目が合う。
…何で…。
何でこの人たちが…。
「…春花…。寝ていたのか?起こしてしまったならすまない。」
………。
「…お父さん…?…お母さん?」
私は何が起きているのか分からなかった。
今の今まで私に関わろうとしなかった両親が、私のことに関心がなかった両親が、今目の前に居る。
私の部屋で、私に話しかけている。
「…まだ私たちのことをそう呼んでくれるのね……。…こんな遅くにごめんなさい…。ちょっとだけ話しをしたいのだけど、大丈夫?」
今度はお母さんが私に話しかけてきた。
私は思考が纏まらぬまま首を縦に振った。
言葉が出ない。
何と言えば良いのか、何を話せば良いのか全く分からなかった。
「…春花…。本当に…本当にごめんなさい。」
…………。
「…え?」
予想外の言葉に、逆に落ち着きを取り戻した。
お母さんは話しを続ける。
「私は…私たちは、親失格です。お金さえあれば、子供達は幸せになれる。そう勝手に決めつけて、春花の気持ちを考えようとしなかった。春花の想いを、春花の言葉を聞こうとしなかった。私たちが子供とちゃんと向き合っていれば、勝手な価値観を押し付けていなければ、あの子は死なずにすんだかもしれない…。あの子が死んだ後も、私たちの考えは変わらなかった。あの子の分も春花に幸せになってもらうために…もっとお金を稼ぐしかないって…そう思っていたわ…。」
私は、ただ黙って聞き入っていた。
両親の想いを…。
「でも違った…。今日春花の友達が会社まで来たの。春花の話しを聞いてくれと、春花に想いを伝えてくれと、頭を下げて…。送川冥君。春花の友達でしょ?」
…
「……うん。」
メイ…。
「その子のおかげで本当に大切な事が何か分かったわ。私たちが春花の幸せを願ってやっていたことは、春花を苦しめているだけだった。だから…こんなにも時間が掛かってしまったけど…もう一度やり直したい…春花の本当の想いを聞いて、春花の親として、春花の幸せを守っていきたい。春花のことを…本当に愛しているから。」
私は気づくと泣いていた。
涙が止まらなかった。
私は愛されていたのか…。
お兄ちゃんだけだと思っていたけど、
私は…愛されていたんだ。
「私は…お母さんと…お父さんと…もっと話しがしたい…皆でご飯が食べたい…皆でお出掛けしたい…皆で…皆で…」
どんどん溢れ出てくる涙でうまく喋ることが出来なかった。
そんな私を抱き締めてくれるお父さんとお母さん。
二人とも私を抱き締めながら、ずっと謝っていた。
私は泣き疲れたのか、その後すぐに眠ってしまったらしく、目が覚めた時は朝だった。
昨日のことが嘘のような、いつも通りの朝。
いつものように服を着替え、いつものように顔を洗う。
ただいつもと違うことがあった。
「春花、おはよう。ご飯作ってみたんだけど…食べてく?」
「うん。勿論食べて行くわ。」
いつもと違う温かいご飯。
「おはよう春花。今日は仕事を早く切り上げるから、どこか食べに出掛けよう。」
「え?ほんと!じゃあ私も早めに帰ってくるわね!」
いつもと違う暖かい会話。
私はお兄ちゃんの遺影の前で手を合わせる。
「お兄ちゃん…。やっと私たち…本当の家族になれたよ。我が儘を言うならお兄ちゃんに側に居てほしかったけど…でも大丈夫。私はもう一人ぼっちじゃないから。だからお兄ちゃん。安心して。」
そう言って部屋を後にしようした私だけど、今日はどうしても言いたいことがもう一つあった。
「…お兄ちゃん。約束…覚えてる?私のことを本気で想ってくれる人が、私のことを命懸けで守ってくれる人が現れるまでって。お兄ちゃんがしてくれた約束。優しいお兄ちゃんの事だからさ、約束を守れなかったって、凄く後悔してるんだろうね。でもそれは違うよ。お兄ちゃんはちゃんと約束を守ってくれた。お兄ちゃんと遊んだこと、喧嘩したこと、泣いたこと、笑ったこと、お兄ちゃんとの全ての思い出が、ここまで私を育ててくれた。私を守ってくれた。それにね。ちゃんと現れたんだよ?私のことを本気で想ってくれる人。守ってくれる人。私の大好きな人。お兄ちゃんと"同じ"約束をしてくれた人。だから、お兄ちゃん…」
そこまで言った私の頭の中で、お兄ちゃんと過ごした思い出の数々が流れてゆく。
私は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
大きな声で、笑顔ではっきり伝えるために。
「" 行ってきます "」
外に出ると朝陽がいつもより眩しく感じた。
「…メイに何てお礼を言えば…。」
私は一人呟きながら、学校へと足を運んだ。
ーーー天野 兄視点ーーー
本当に強くなったよ…春花。
これで安心して旅立てる。
「…これで想い残すことはないかな?」
「あぁ…もう満足だ。本当にお前らには迷惑をかけた。俺何かのために、ここまでやってくれて本当にありがとう。」
俺は最後の力を振り絞り、感謝の気持ちを伝えた。
「…その言葉。ちゃんと冥君に伝えておくよ!それにしても…本当にギリギリだったね。いくら春花への想いが強いといっても、かなりの時間現世に留まっていたからね!もう少しで本当に消えちゃうところだったよ?」
我ながら良く頑張ったよ…。
「死神グリコ。ついでに今から言うことも送川冥に伝えてくれ。…春花のことを頼んだ。あいつを幸せにしてやってくれってな。」
「…おっけぃだよ!そういえばさ、貴方が春花とした約束ってなんだったの?」
…約束…か。
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[回想]
「なぁ春花!明日はお前の誕生日だろ?何か欲しいもんがあれば何でも言えよ?お兄ちゃんが好きなもん買ってあげるからな!」
春花の誕生日前日。
俺は春花に好きなもの買ってやると言った。
「…ええー…。欲しいものかぁ~…色々あるんだよなー!どうしよっかなぁー!」
そんなに欲しい物があったのか!?
ヤバイ…俺の財布にも限度がある…
「…服なんかどうだ?今時の小学生はお洒落だもんな!そうだ!そうしよう!」
プライドを捨てて服をごり押しする俺。
「…じゃあ、ブランド物の服で欲しいのがあるんだけどさ…」
「あぁ!服はやめとこう!やっぱお前の欲しいもんが良いもんな!俺が言ったものを買うのは可笑しいしな!よし!服はやめ!」
俺にはもうプライドなんてものはない。
そんなことを思っていると、春花が自ずと口を開いた。
「お兄ちゃんと…ずっと一緒に居たいな…。」
何を言ってるんだ?
そんなこと言われなくても当たり前じゃないか?
てゆうかそれはプレゼントなのか?
「…え?それは別に頼まなくても良くないか?俺はお前と離れるつもりはないぞ?いや、でもお前も将来結婚する時がくるんだもんな…。悲しいことだがそれがお前の幸せなら、その運命甘んじて受け入れよう。ん…?でもそれじゃずっと一緒に居れないな…。どうしたもんか…。」
うーん。
思ったより難題だ。
春花の幸せを側で守ってやりたいのは山々だが、それはいずれ俺の役目ではなくなる。
………………
「よし!決めたぞ、春花!」
俺は春花の目を見て力強く叫んだ。
「な、なにお兄ちゃん?」
「お前とずっと一緒に居ることは出来ないかもしれない。お前もいずれは結婚するだろうし、俺だってそうかもしれない。だけどな、約束してやる!」
一度深く呼吸をし、話し続ける。
「……約束?」
「あぁ。約束だ!いずれお前に好きな男ができるまで、お前のことを本気で想ってくれて、お前のことを命懸けで守ってくれる男が現れるまで、"俺は俺の一生を懸けてお前を守るよ"」
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………………。
「…さぁ、覚えてないな。」
俺は適当にはぐらかした。
本心とはいえ、こんな臭い台詞を言ったことを、誰かに知られたくはなかった。
「えぇー!凄く感動的だったのに、それは最低じゃないかな!?」
バレるくらいなら最低で結構だよ。
それにしても、あの臭い台詞を俺以外に言う奴がいたとはな…。
十中八九、送川冥、お前だろうが。
だからこそお前に託す。春花のことを。
「…さて。これでお別れだ。そういえばまだ俺の名前を教えてなかったな。俺の名前は、天野夏夜。例え冥土へ行っても俺はお前らから受けた恩を忘れはしない。本当にありがとう。」
「…気にしなくて良いよ。ほら、早く行きなよ!本当に消えちゃうからさ!」
「せっかちなやつだな。……それじゃあな。」
俺の頭の中で、生前の想い出が駆け巡っていた。
そして俺は大空へと飛び立つ。
現世に一切の悔いを残さず。
諦めなくて良かった、どれだけ惨めでも醜くても現世に留まり続けて良かった。
俺の長かった戦いも終わりを迎える。
…そうして俺は旅立って行く。
-終わりではなく 新たな始まりに向けて-
これにて天野編終了です( ´-ω-)( ´-ω-)