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ウンバブンガの洞窟②


俺たちのパーティはサスライのジョニーをパーティに加え、洞窟内を歩いていた。ウンバブンガは洞窟内の最深部にいるらしく、そこへジョニーが案内してくれている。

 ジョニーの見た目は俺と同じクソモブ臭が漂ってはいるが、元々はウンバブンガの右腕と言われていたのでそれなりに腕は立つらしい。

 最深部へと向かう道中でなぜウンバブンガのことを殺したいのかジョニーに聞いてみた。

 聞いた話によると、ここ一ヶ月で優しく兄貴肌だったウンバブンガが大きく変わってしまったという。

ウンバブンガを慕っていた仲間たちにも手を上げ暴れまわり、自分たちでは手に負えなくなって助けを求めたとのこと。

 それ以来ジョニーはウンバブンガの右腕をやめ、今は亡き同胞の仇討ちとしてこの洞窟内で人を探していたらしい。




「うぅっ、俺だってほんとはこんなことはしたくねぇんだよ……今までずっと慕ってきた兄貴なんだっ! このまま放っといたらどんどん仲間たちが消えていっちまう……俺が、俺が止めてやんなきゃダメなんだよっ!」


「ジョニーさん、落ち着いてください。気持ちはよくわかります、ウンバブンガさんのためにもジョニーさんの仲間のためにも絶対に止めてさしあげましょう!」


「うぅっ、お嬢ちゃん、ほんとにありがとな(やべっ、カワイスギィッ!)」




 けっ、なにが兄貴のためだよ、そんなもん俺からしたら鼻クソ並みにどーでもいい話だわ。

 んなもん俺らじゃなくて他のやつに頼めっつーの。

 てか、もしかしたらこれもゲーム内のイベントみてーなもんなのか。

 これを引き受けない限りは先には進めないってわけね。

 たりーイベントだな、おい。



「ジョニー、お前の経緯はわかったけどウンバブンガの野郎はなんで突然仲間に手を上げるクソ野郎に変わっちまったんだ?」


「たしかにそうね、いきなり変わるなんてちょっとおかしいわ。何かあったんじゃないの?」

ジョニーは俯き黙り込み静かに口を開いた。


「ちょうど一ヶ月前ある男が兄貴の元を訪れてきたんだ。黒いローブを羽織って顔は見えなかったが、声でわかった。それからだ……兄貴が変わっちまったのは……」


「黒いローブの男ねぇ」


「絶対あの男のせいだ! 間違いねぇ! あいつのせいでウンバブンガの兄貴がっ……! ちくしょう!」


「ジョニーさん……」



 傷心しているジョニーの元へ姫が近寄り、手を握る。姫の胸がジョニーの腕に当たっており、ジョニーは前屈みになっている。

 クソ腹立つ。何が楽しくてこんな光景を見なきゃならんのだ。

 その証拠に耕太の顔も歪んでいる。ジョニーに嫉妬心丸出しのようだ。



「とにかく、とっととあんたの兄貴の所へ案内してちょうだい」


「あ、あぁ……もちろんだ(クソッ! もうちょっと堪能したかったのに)」



 それから俺たちは三十分ほど歩き、洞窟内最深部へと辿り着いた。

 この洞窟内はとても空気が湿っているが、最深部へと進むほどによりひどくなっている。

 なるべくなら息をしていたくないほどだ。てか、臭ぇ。

 目の前には大きな扉がありその奥からウンバブンガと思わしきうめき声が聞こえてくる。



「この先に俺たちの兄貴がいます、気をつけてください」


「わーってるよ、とっとと行けタコ」



 耕太のジョニーに対する接っしかたがアレ以来大きく変わり、ひどく暴力的になっている。やはりこいつは性格が悪いな。

 ジョニーが扉を開けるとそこには巨漢の男……というよりゴリラがベッドの上で横たわっている。

 なにやら苦しそうな表情でそれがまた笑える。

 それを見たジョニーが一目散にゴリラの元へ駆け寄る。



「兄貴! 大丈夫ですかい!?」


「ハァハァ……ジョニー……か?」


「そうです、ジョニーっすよ! 一体どうしたんですかい!?」



 ジョニーの語尾の「ですかい」ってなんだあれは。

 完全に俺らを笑かしにきてるだろ、シリアスで笑っちゃいけない場面ほど笑いたくなるもんなんだよ。

 耕太もきっと笑いそうに……いや、めっちゃ冷めた目してるー、こいつはこいつでめっちゃ冷めた目してるー。

 なんだこいつの目、どうやったらこんな冷めた目が出来るんだ? 今結構、シリアスな場面なんだけど?



「ハァハァ……俺は、もうダメだ……お前らは逃げろ……」


「兄貴っ! 一体何があったんですかい!? 教えてください!」



 その瞬間、ウンバブンガの体を黒いオーラが覆い、嗚咽をあげ、目が白め剥き出しになっている。

 涎を垂らし、とても正常とは言えない。

 脳のリミッターが外れたかのように筋肉がモリモリと膨れ上がり、その姿はゴリラに近い、というよりゴリラ。

 近くにいたジョニーを腕だけで軽く吹き飛ばし、俺らに襲い掛かってくる。

 ヤベェ、これはマジで結構ヤベェ、どうヤバイってもうヤベェ。

 俺らの二倍はあるであろう体格が時速六十キロくらいで迫ってくる。

 俺死ぬのか、ここで? まあ、仕方ないか、相手ゴリラだもん。

 そう思わせるほどに凄まじい迫力。ジョニーなんか壁に叩きつけられ見るも無残な姿だ。

 きっと俺らもああなるんだろうな、そんなことを思っていると耕太がみんなの前に出て言った。



「俺らが食い止めるッ! 姫と円はその間に逃げろッ!」



 どうすればいいか戸惑い、動けない姫を無理やり連れ出す円。

 動けないのも無理はない、それほどにこのゴリラの気迫は凄まじい。

 状況を素早く理解し、動くことができた円がすごいのだ。

 ってか、「俺ら」って、さりげなく俺のことも道ずれにしてんじゃねーか! ふざけんなよ、ゴミ。

 姫と円が無事に逃げたのを確認すると、耕太は剣をとり、ウンバブンガへ向ける。

 俺はというと魔剣アンブレラブレード()なんかで太刀打ちできるわけも無くただボーっと突っ立っていることしか出来なかった。

 ウンバブンガの突進に合わせて耕太は剣を大きく振りかぶる。

 しかし、ウンバブンガの体を覆う強固な筋肉に弾かれ、耕太ごと吹き飛ばしていく。

 耕太ざまーみろ! そのままくたばれ! とか言おうと思ったが、そんな余裕も無いほどにウンバブンガは俺めがけて突進を開始する。

 やべ、これ俺死ぬんじゃねぇか? いや、死にたくないんだが? 

 そう思い、魔剣アンブレラブレードを手に取り構えた。

 やるだけ無駄なのはわかってる。それでもやらねぇよりはマシってやつだ。

 俺は多分今から死ぬ。このウンバブンガ(ゴリラ)のタックルを食らってな。だが、ただじゃ死なねぇ。ウンバブンガお前も道ずれだ。

 あぁ、これで姫ともお別れなのか、ちょっと寂しいかな、ちゃんと自分の言葉で色々話したかったし、耕太と円は、まぁ特に言うことはない。

 言うならばサヨナラはちょっと寂しいかな。みんなバイチャ。

 そう思い、ウンバブンガめがけて魔剣アンブレラブレードを振り下ろす。

 魔剣アンブレラブレードがウンバブンガの額を捉えた瞬間、白い光を放ちウンバブンガの体を覆う。

 一体何が起きたのか、理解が追いつかないでいると、ウンバブンガの体内から黒い物質が浄化されていくのがわかった。

 ウンバブンガは地面に横たわって気絶している、恐らくウンバブンガの体内にあった黒い物質が優しかった彼を変えてしまった原因なのだろう。

 それにしても魔剣アンブレラブレード。こいつをちょっと舐めていたかもしれない。てか、すまん、舐めてた。

 すると、そこへ姫と円が戻ってきた。



「モブ雄さん! ご無事でしたか?」



 そう言って姫が俺の手を握る。

 あぁ~、かわいすぎるんじゃあ~。ご無事もご無事、心配ご無用。

 少しだけ前屈みになっていると耕太とジョニーも起き上がってきた。

 死ねばよかったのに、そう心で思ったが姫の手を握っているせいか、そんな思いもすぐに消え去る。耕太が俺のことをとんでもない形相で見ていたことも忘れることにした。




→:姫、好き

 :大丈夫でした

 :えっ、アッーーーー!



「大丈夫でした」


「ほんとに、ほんとに、よかったですぅ」



 姫が泣いて喜んでくれている、あぁ、好きだ。

 そのまま俺の胸の中に飛び込んできてもいいんだよ?

 抱きしめてあげるからサ!



「兄貴! 無事ですかい!? 兄貴!」



 ジョニーの声が聞こえてくる。横たわっているウンバブンガに向けて精一杯語りかけていた。

 ウンバブンガはそれに気付き体を起こし、周りを見回している。



「兄貴……」



 ジョニーは気持ち悪く顔をグシャグシャにしてウンバブンガに抱きついた。おえ、気もちわりぃからそーゆーのは同人誌でやってくれ。



「ジョニー……俺は一体……」



 何が起きたのかを理解できていないウンバブンガにジョニーが言う。



「兄貴……俺がこいつらに頼んで兄貴を救ってもらったんす」



 ジョニーはそういって俺らのほうを指差す。

 ウンバブンガはわけもわからないまま指先の方へ視線をやる。まずい、目が合ってしまった。



「お前たちが俺を……?」



 驚いた様子で言うウンバブンガになんて言おうか考えていると耕太が出しゃばった。



「そうだ、俺たちがお前を救ってやったんだ。感謝しろ」


「お、おぉ……そうか、すまん助かった」

 


 ウンバブンガを覆っていた黒いオーラも消えているし大丈夫っぽいのでよかった。手柄を全て耕太に持っていかれたのは癪だったが説明するのもめんどかったのでとりあえずスルーしといた。



「お前ら、ほんとに助かった、ありがとう。兄貴に手をかけることなく済んだんだ、なんてお礼を言えばよいやら」


「お礼なんて必要ないですわ。みんなが無事ならそれで結構です」


「ま、金品の一つくらいもらってもおかしかねーけど、姫がそう言うならな」


「モブを殺してくれればそれがあたしにとって一番の礼になるんだけどね」



 んだと、円てめ、どんだけ俺のことが嫌いなんだよ、死ねよ。

 てか、むしろ好きなんだろ、俺のことが。照れんなって。



「お前たちのおかげで命が助かった。感謝する。お礼といっては何だが俺たちに何か出来ることはないか?」


「それなら一度みんなで休憩をとりたいので近くの町へ案内してもらえないでしょうか?」



 たしかに、姫の言うとおりだ。俺はこの一時間で大分老け込んだ気がする。

 いや気がするんじゃない、老けたんだ。最悪だよ、カス。

 とっとと疲れを癒したいもんだ。



「それならお安い御用だ、ここから一番近い町ってーと……」


「“マホトシ”じゃないですかい?」


「そうだな、マホトシが一番近い。それにあそこは驚くことが多いぞ」



 驚くことが多い? なんだそれ、少し楽しみだな。

 どんな町なんだろ。



「そうと決まればとっとと行くぞ! 急がば回れだ!」



 急がば回れの使い方間違っているような気もするけどまぁいいか。

 とりあえずはウンバブンガの洞窟攻略ってことで。

 このおっさん普通にいい奴だしな。なんで敵なのかがイマイチわからん。

 その辺の作りも運営はガバガバなんだろうな。

 よしっ、行くぜ! 待ってろよ! マホトシ!





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