ウンバブンガの洞窟
「へー、ここがウンバブンガの洞窟か、なんだか空気が湿ってるなー」
「耕太さん! 一人で先に進んで行くのは危険ですわ!」
「大丈夫、大丈夫。何かあっても俺が守ってやっからよ」
「ほんっとに男って、口だけは達者よねー、愛梨期待しない方がいいわよ」
「んだと、円! もうお前のことはゼッテー守ってやんねーかんな!」
「別にあんたに守ってもらわなくたって自分の身は自分で守るわよ」
「まあまあ、耕太さん、円さん。いがみ合っていてはダメですわ。みんなで協力しながらがんばってクリアしていきましょう」
……なんだろう、この感じ。
この疎外感。この孤独感。あー、あれか。これがモブ特有の友達がいない現象ってやつか。
よく授業で移動教室とかあると、一人寂しく歩いてるカスがいるけどこんな気持ちだったんか、ぼっちの奴の気持ちがわかった気がするわ。
いやマジで空気と化してるよ、俺。リアルではこんなこと一度も無かったから新鮮だわ。むしろ、気が楽でいいわー。なんだよ、最高かよ。ぼっち最高。
「モブ雄さん、どうしましたか? 早く行きますよ!」
ああ~、ほんっとに姫はかわいすぎるんじゃ~。
この娘だけだよ、俺のことを気にかけてくれるのは。
かわいい上に優しいって完璧かよ。
→:今行きます
:ごめんなさい、あなたに見惚れてしまっていて足を動かすことを忘れていました
:あぁっ……! イクッ……!
また、コマンドか。ほんっとめんどくせーシステムだよ、普通に喋らせろや。
てか、上二つはいいとして最後クッソキメェな。頭大丈夫か?
まあ、二番目も全然悪くないが先に進むには一番がベターっぽいな。
「今行きます」
しかしまあ、この洞窟は最初のステージにしちゃ大分レベル高そうなとこだな。
ザコ敵でもそうとう強い奴が出てきそうだ、覚悟しとかねぇと。
あの二人は置いとくとしても姫だけは絶対に守んねぇとな。
「きゃあああ!敵ですわ!」
「大丈夫か姫! 俺の後ろにいろ!」
「スライムね! さっさと片付けるわよ!」
おいおい、なんだ俺の出番ナシかよ。
てか、耕太テメーちゃっかり姫の株上げんな、殺すぞ。
ん? なんだこの頭の中に流れるメロディ、あぁ、あれか。戦闘中に流れるBGMか。いや、普通にカッケェんだが? クゥ~テンション上がるわー。
「くっ……! ダメだ! つ、強いっ……!」
「耕太さんっ! 諦めないで頑張ってくださいっ!」
なに苦戦してんだよ、まだ序盤もいいとこだろうが。
スライム一匹に何やってんだ……って、キモッ!
なんだあれ、ドロドロヌルヌルしてんじゃねぇか、リアル過ぎんだろ。ドラ○エみたいにかわいいデザインにしろよ。
いやマジで、きっもちわりィな、死ねよ運営。
「どいてな! あたしが片付けるっ! とうっ!」
スライムを倒した。経験値が5もらえた。
テテテテッテッテッテー
耕太はレベルが2になった、体力が3上がった、攻撃力が3上がった、防御力が2上がった、すばやさが2上がった。
円はレベルが2になった、バストが3上がった、ウエストが2上がった、ヒップが2上がった、色気が2上がった。
愛梨はレベルが2になった、かわいさが5上がった、美しさが5上がった、可憐さが5上がった、色気が5上がった。
「よっしゃー! 倒してレベルが上がったぜー!」
「さすがです、円さん!」
「ま、あたしにかかればこんなもんって感じよ」
耕太の野郎、自分で倒したわけでもねぇのにイキりやがって腹立つな、あいつゼッテー性格わりぃな。
しかし、まあ、なるほろね。
敵を倒せば経験値がもらえてレベルが上がっていくと。
円の胸も少しだけ大きくなってるし、姫もよりかわいくなった、ってか、ステータスの伸びパネェな。
こりゃ、レベル上げが捗りますな~……って、俺レベル上がってねぇじゃん。
カスじゃん、ゴミじゃん、なにこれ。
おっ! ステータス確認みたいなの出来んじゃん、最初に教えろ、カス運営。
どれどれ俺のステータスは……っと。
名前:モブ田モブ雄
ジョブ:モブ
キモさ:10
モブさ:9
ゲスさ:6
素早さ:10
ネクスト:15
は? 論外なんだが?
なんだこのクソステ、いいとこが一つも……いや、一つだけ素早さがあったわ。いや、素早さって。微妙すぎんだろ、もっと他になんかあんだろーが。
「ジョブ:モブ」ってなに韻踏んどんねん、殺すぞ。
ネクストってのはなんだ? 次のレベルアップに必要な経験値か? だとしたらスライムをあと三体倒せばいいわけか、俺のレベルの上がり具合、ちょっと遅ない? いや、遅くていいのか、レベル上がったらどんどんキモくなんだろ? 言ってて悲しくなってきたわ。
んだよ、ちくしょう、期待してみた俺がバカだったよ。
そりゃそうだわな、俺モブだもん、妥当なんすわ。
「おーい、こんなところに宝箱があるぞ!」
宝!? よこせ! 俺によこせ! クソな俺にせめて強い武器の一つでも持たせてくれ!
「あっ! おい、モブ! 勝手に宝を横取りすんな!」
「まあまあ、モブ雄さんにもきっと色々理由があるんですよ、この先、見つけた宝箱は順番で手にしていくってことにしましょう」
「ちぇ、姫がそう言うんならしょうがねーなー」
「モブ雄さん、それでよろしいですか?」
うぅ、ありがとう、姫。優しすぎる、まさに女神。
こんな屑な俺を庇ってくれるなんて。
→:うるせえ! 全部俺のモンだ!
:あっ……うんっ……こ
:はい、それでいいです
あーもう大体わかってきたよ、このコマンド。
正解が一つだけあって他二つがクソなんだろ?
クソもいいとこだよ、なにが、「うんっ……こ」だよ、バーカ。
ホントの糞じゃねーか。
三番に決まってんだろ、JK。
「はい、それでいいです」
「ありがとうございます、モブ雄さん。この先も一緒に頑張っていきましょう!」
涙流れてないかな、大丈夫かな。
俺マジで好きになっちゃったわ、俺この娘ゼッテー守るわ、約束する。
さて、た・か・ら箱ちゃん、何が入ってるのかなー?
モブ雄は『魔剣アンブレラブレード』を手に入れた。
おおおっ! なんだこれ!
めちゃくちゃ強そう! ……ってただの傘じゃねーか!
かっこよく言って誤魔化しても無駄だよ、傘は傘だよ、ふざけんなマジで。
どこのゲームに宝箱開けたら傘が出てくるようなのがあんだよ。
「新しい武器ですか! よかったですね、モブ雄さん!」
あぁ、この娘の純粋に俺を見るその瞳が美しすぎる……
ただ、よく見てほしい……これ、傘だよ?
いや、そんなことすらこの瞳の前ではもうどうでもいい。
そうだ、これは傘ではない『魔剣アンブレラブレード』なのだ。
とりあえず装備しよう。
名前:モブ田モブ雄
武器:ガムテの剣→魔剣アンブレラブレード
防具:葉っぱの鎧
アクセサリー:なし
これでよしっ……と。
うん、もうツッコミを入れるのはやめよう。
自分はモブだってことをよく理解しよう。そうすれば受け入れられるはずだ、この先の現実に。
「おい、モブ! どうしたんだ、急に傘なんか持って。頭おかしくなったのか?」
「モブの持ってるソレ武器なの? ちょーウケルんだけど!」
「二人共、そんなことを言ってはいけません。これは立派なモブ雄さんの武器です」
もう言葉も出ませんわ。お前らの言ってることは何も間違ってねぇしな。
そうだよ、傘だよ。なんだ、わりぃか?
殺すぞテメェら。え、なにでって? 傘で。
「なんだぁ? オメェら? まさかウンバブンガの兄貴をブチ転がそうとやってきたわけじゃねぇだろうな?」
「だ、誰だ!? お前!」
「俺はウンバブンガ兄貴の右腕と言われて“いた”サスライのジョニーだ、覚えとけ」
「ウンバブンガ兄貴の右腕と言われて“いた”? 過去形ってことはつまり……」
「その通り、今はただのザコだ」
なんだこいつ、ただのザコの癖にペラペラと喋りやがって、黙って登場しろ、ザコ。お前なんて覚える価値もねーわ。
出てきて五秒くらいで俺より喋ってんじゃねーか、腹立つ。
「オメェらに一つ頼みがある」
「ジョニーさん、頼みとは一体なんでしょうか? 私たちに出来ることなら協力いたします」
「(うおっ!? かわいっ! やべっ前屈みになっちまう)実はウンバブンガ兄貴をこの手で殺したい、そのために手伝ってくれねぇか?」
なーに姫を見てイヤラシイ気持ちになってんだ、ボケ。
ザコだろ? こんなやつシカトでいいだろ。相手にしてるだけ時間の無駄だ。
「兄貴を殺す? ちょっとあんたの言ってることは信用できないわね。油断させておいて罠でも仕掛けてあるんじゃないの?」
「確かに、円の言う通りだ。いきなり現れたこいつの言葉をそのまま鵜呑みにするのは危険だと思うぜ」
「(デカッ! 胸デッカ……! 前屈みが止まんネェ)いきなり現れて信用できねぇ気持ちもわかるが、どうか頼む。一生涯の願いだ」
「わかりました」
姫!? こんな奴の言う事なんていちいち聞かなくていいんだよ!?
姫が優しすぎて敵にも同情しちゃうってのは十分わかってるからさ。
こういうのは何も言わずに斬り捨てて、死体の上を踏み潰して歩き、舌打ちをしながら唾を吐きかける、去り際にドスの効いた声で一言言うってところまでがテンプレなんだ!
「ほ、ほんとうか? こんな俺の頼みを聞いてくれるのか?」
「それはまだわかりません。私一人で全てを決められるわけじゃありませんから。他の皆さん次第です」
「姫がそういうんならまぁ、しょうがねぇってモンだな。よかったな、オッサン」
「あたしは正直反対だけど、そしたらモブと同じ意見になるかもしれないから、しょうがないわね」
はぁ? おいおい、マジか?
こんなやつの言う事聞く流れなの? いやないって、それはさすがに。
姫、ちょっと見損なったわー。いや、ないわー。
てか、俺と同じ意見になるから嫌だってなんだ、殺すぞ、乳袋低脳女。
「後は、モブ雄さんだけなのですがどうでしょうか?」
「頼む、頼むよ、兄ちゃん。俺ら友達だろ?」
馴れ馴れしいんだよ、ザコ。引っ込んでろ。
あー姫、そんな目で見ないで。かわいすぎるから。
だめだって、反則過ぎるって。
無理だよ、逆らえるわけ無いじゃん、そんな目で見られたらさー。
いや、ザコお前はこっち見んな。
→:全然いいよ!
:いや、でも、そのっ、ややややめといたほうが……
:とりあえず、こいつを殺してからみんなで考えてみないか?
うわ、三番選びてぇ……。選んだらどうなるんだろ、マジ気になる。
まあ選んだ時点で恐らく俺のパーティ追放が余儀無く言い渡されるだろうから無難に一番だな。
よく考えたらウンバブンガって奴を倒せばここのダンジョンはクリアなんだからある意味近道ってことなんだよな、よし。
「全然いいよ!」
「モブ雄さん! ありがとうございます!」
「兄ちゃんならそう言ってくれると信じてたよ俺はぁ!」
「モブと同じとか最悪ー」
「よっしゃ! そうと決まったらウンバブンガを倒しに行くぞお前ら!」
「おー!」
サスライのジョニーが仲間に加わった。
なに耕太が仕切ってんだ、むかつくんだよ、お前のそーゆーとこが。
そしてジョニーとかいったか? なに軽い感じでみんなと打ち解けてんだ?
こんなクソザコがパーティ内に紛れ込んだところで戦力はお察しだろうが、まあいねぇよりかはマシか。
あとはこいつが何を企んでるのかを俺がしっかりと見極めてやる。
耕太を殺そうとかそーゆーのだったら全然おkなんだけど、姫になんかあったらコイツただじゃおかねぇ。
跡形も無くこの魔剣アンブレラブレードで塵にしてやんよ。
いや、俺結構アンブレラブレード気に入ったかも。
よしっ! とっととウンバブンガとか言う野郎をぶっ倒しに行くぞ!
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