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理不尽な世界で長生きしたい。  作者: おむまめ
幼少時代
5/9

囚われの悪役側妃に忍び寄る影。

長らくお待たせいたしました。



幸せになりたかった。


例え好かれず居ようとも子を産みさえすれば、冷えきった関係が少しは改善されると思い勝手に信じ込んでいた。


けれどそれは叶わず期待していた夢は、今や幻となり消え去ろうとしている。



望まれない側妃であったが時間は掛かったけれど無事に努めを果たしもした。


小さな命が順調に育ち安定期に入ると国中に側妃の懐妊が知らされる。


これから誕生する新たな王族の母として、毎日誰かしらから祝福の言葉を受け多くの贈答品が後宮に届いた。


息を潜めて生活していたのが嘘のように、日蔭から抜け出し明るく輝かしい道を歩み始めた、ミューゼはこの時確かに幸せを感じていた。


しかし束の間の幸せは呆気なく崩れ去り、ミューゼは幸せとは程遠い過酷で地獄のような生活を強いられてしまう。



国王陛下が大切にし愛する至宝。

ヴィンセント王子の誘拐を企て、暗殺を指示した主導者としてミューゼは王国騎士捕らえられ今は牢獄に繋がれている。


華やかな後宮とはまるで違う生活。


日に二度の食事は腹が満たされる量を与えられず、常に空腹で食べ物の事を考える。

つい水で腹を満たそうと手が伸びる、しかし一度思い止まり冷静になった。

此処で与えられる水は大量に飲んでしまうと腹を下す。

知らず水を口にしたら最後、身体からの水分という水分を出し1日中苦しむ事になる。

上から下から汚物を垂れ流し苦しもうが、例え命の危機だとしても薬を貰える訳でも医者を呼んでくれたりはしない。


劣悪で不衛生環境はこうして作られ、拷問に近しい仕打ちをされながら解放される日を待つしかない。


「何も…していないのに。」


身に覚えもない罪

私は無実…。

それを自分自身がよく理解している。


けれど何を主張しても聞き入れられずに、罪人の烙印を押されると地獄に落とされた。


ミューゼの捕縛をきっかけに、伯爵家に関わる人間が次々と捕らえられこの地獄に繋がれていく。


何十何百という関係のない人間で溢れた牢獄に初めの内は希望もあり笑顔もあった。


しかし最後の最後に捕らえられた父と兄が観念し、王子誘拐そして暗殺未遂の罪を認めてしまうと希望も笑顔は失われてしまった。


罪が確定した事で此処に繋がれた人間の運命が決まり、皆が皆口を揃え怨み辛みを父や兄そしてミューゼに向けた。


罵倒され貶されるのは日常であり。

処刑が執行され始めると家族を失った子供や親から『早く死ね!』『子供を返せ!』と、毎日数多くの声を浴びせらる。


命を刈り取られる罪なき何十何百の人達。


その中には年端もいかぬ幼き子供の姿もあった。

この地獄に拘束されている理由も罪の意味も分からず処刑場へと連行されていく。

まるで遊びに行くかのように兵士と手を繋ぎ笑みを浮かべる幼子が消える。


ズズズと鈍く重い音を立て扉が閉まると、ミューゼはその場に踞り嗚咽を溢して涙を流していた。


「うっ、あぁぁっ…!

許してちょうだい!!」


今の今まで自分だけが不幸で可哀想な人間だと思い込み。

父と兄が王子誘拐・暗殺未遂を認めたとしても、自分には何も関係ないと信じ決め付けていた。


しかし本当に事件に関係ないのは、此処にいる自分達家族以外の人達。

伯爵家に名を連ねている分家や遠縁というだけで、無関係な多くの人間の命が奪われてしまった。


刈り取られた命は喚いて泣こうがもう二度と蘇る事は絶対にない。



「私は…間違っていた!ごめんなさい…!

全て、全て私の罪なのです…っ。」


父と兄がヴィンセント王子の誘拐を企て暗殺の指示を出し手を黒く染めた。

こんな恐ろしくも愚すぎる計画を実行させてしまったのは、もしかしなくても私が原因なのでしょう。


確かに国王陛下から道具のように扱われ辱しめも受けた。

けれど貴族の子女として生を受けたのなら、そんな扱いは当たり前なのだと知る事も出来た。


友人の多くは嫁いだ先で跡取りになる男児を産み正妻と認められた。

逆に女児しか産めずいる友人は、嫁ぎ先での生活は肩身が狭いと手紙には書かれていた。


あまりに男児を産めずにいると、石女と罵られ女児を連れ実家に帰されると多く聞く。


だから陛下に存在を無視されていようとも、寂しくはあったが好きなように生活は自由にさせてもらえていた。


確かに望まれぬ子を身籠り涙をながして絶望していた時期もあった。

けれど腹に宿る小さな命の胎動を感じ成長を見守っていれば、いつの間にかあの絶望感は消えていた。


消えた絶望感の変わりに、胸に広がる幸福感が頬を緩ませ心を穏やかな気持ちにさせてくれた。



「幸せになりたかった…。

けれど(…)私がそれを望むのは罪…。」


幸せになりたかった。

本当は今でも幸せを望んでいる。


恋愛結婚した両親のように、好きな殿方と結ばれ穏やかで幸せな家庭を作る事に憧れていた。


彩りどりの花が美しく咲き誇る庭園。

天気が良い日には芝生に大きなシートを引いて花を愛でよう。

子供達が用意したクッキーやサンドイッチを食べ終えると素足のまま芝生の上を走りまわっている。

時より『気を付けてなさい』と声を掛けて旦那様と二人で子供達の姿を見守る光景が脳裏に浮かぶ。


しかしこれは叶わぬ幻想。

一度も手にする事が出来なかった憧れた夢。

過酷な生活から目を反らした現実逃避。


眩を開いてしまえば彩りの鮮やかな色は眼から失われ暗闇が支配する世界に戻されてしまう


「あっ…」


此方側に戻って来てしまうと、先ほど居たあの幸せな場所への思いが強くなる。

現実ではない幻想の世界。

此処に長く繋がれていると先ず肉体を壊した次に精神をそして心を壊す。

狂っていく人を初めて目にした時は恐ろしかった。

ふと、たまに精神を壊した方が楽なのではと思いが過る。


しかし父と兄が犯した罪深き業を思うと、その甘い考えだけは捨て去らないといけない。

父と兄の捕縛される少し前に、看守達の話しからヴィンセント王子が発見されたと知ることができた。

その話を聞け心の底から安堵し思わず『良かった』と無意識ながら声が出た。


しかし次の食事時使い込まれて汚れた皿を受け取ろうと膝をついて手を出せば。

目的の皿を持った看守が私の顔に目掛け勢いよく皿を投げつけてくる。

けれど鉄の柵が邪魔をし皿は飛んでこず、スープ状の液体で顔や髪が濡れるだけですんだ。


『貴様のせいで王子殿下は今も生死をさ迷われ戦われていると言うのに!!

貴様のような悪人が死なずなぜまだ生きている?!』


この数日後

父と兄が捕縛され全ての罪をみとめた


怒りで頭に血が上り目の前が真っ白になる。


なぜ、どうして十歳にも満たぬ幼子が生死をさ迷われ戦かっている?

なぜ、どうして貴殿方は幼子に手をかけるような事をしたの?

なぜ、どうして貴殿方は幼子を切りつけた挙げ句……。

なぜ、貴殿方は…貴殿方は…。

なぜ、生きたまま幼子を捨て置いた小屋に火を付ける事が出来たの?!!


聞かされた看守の話は酷く残虐だった。

生きているのが奇跡と言われる程の大怪我に致命傷となっている火傷。

予断を許さぬ容態のなか、それでも懸命に生きようと頑張っている。


私には謝る事も叶わず、ヴィンセント王子へ祈りを捧げる事しかできない。

何日、何十日でも命ある限り祈りを捧げる。


苛烈極まる取り調べ中に兄が死んだ。

同じく父は肉体を壊されながら沈黙を守っていた。


自業自得としか言い様がない結末。

死んだ兄をこれ以上恨んでも仕方のないこと。

けれどもし私の言葉を…。

意見に耳を傾けてくれていたなら…。

大罪を犯さずこんな状況に陥る事もなかった。


父様、命を散らした兄様。

貴殿方は罪深き大罪人。

貴殿方は無関係の人間をも巻き込んだ人殺しです。

そして私も罪深き女。

私という存在が貴殿方に欲を抱かせて追い込んでしまったのでしょう。


ですがこれだけは嘘偽りなく言えるのです。

私は一度たりとも陛下を…正妃フローディア様を…。

ヴィンセント王子を恨んだ事はございません。


腹に子さえ宿っていれば私の命を無事だと考えた愚かな父様にお兄様。

それは大きな間違いであり、陛下にとって私という存在は何の価値もないのです。


何の価値もない人間が陛下の至宝に手を出せばどうなるか何て予測は出来たでしょう。

貴殿方は逆鱗に触れてしまったからこそ、命をもって罪を償い本当に関係のない多くの人間の為祈りを捧げましょう。


だからあの場所に行きたいと願うのは終わり。

私を含む大罪人が罪から目を反らしてしまえば、死んでいった無実の人達に申しわけが立たないのですから。







巨大な鉄扉が鈍い音を立て開かれる。

鉄鎧を身に纏う看守達が緊張した面持ちで、中に入って行く印象的な人物達の背中を見守っている。



「ひぎゃあああーーーーーっ!!何なのこの悪臭!臭すぎる!!」


「はああ、五月蝿えな…。

初仕事何だから、シャキッとしろよアホウめ」


「いやあああ!!お肌がひん曲がっちゃうううーーーーー!!」


「うるせえよバカ!!まじホントに一回死んでこいよお前!」


空気も悪く重くるしい暗闇の空間に漫才のような掛け合いが行われていた。


「ふむふむ、アデルもディアも若人はホンに元気じゃの〜」


「お前が一番若いんだよ!」


「そうよ!このお馬鹿!!!」





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