表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理不尽な世界で長生きしたい。  作者: おむまめ
幼少時代
4/9

囚われの悪役側妃

昼間でも満足な光が差し込まない薄暗い牢獄。

湿気っぽくじめじめとした空間はカビ臭く嫌な臭気がする。


牢獄の出入り口には筋骨逞しい鉄鎧を身に付ける兵士が彫像のように微動だせず立ち。

昼夜問わず牢獄を見回る看守の靴音が大きく響き渡る。


入り口付近の牢に収容される罪人の罪は軽く。

奥に進むに連れて通路の灯りは暗くなり重苦しい空気に変わる。

鼻に付く刺激臭は強くなり、長年収容された罪人は精神に異常をきたす人間が多く見える。


重くドンよりとした場所を抜けると頑丈で壊れそうにない巨大な鉄扉が見えてくる。

巨大な鉄扉には閂が差し込まれていて、見て分かるように内側からは絶対に開けられない仕組みになっている。

大人一人では到底持ち上げる事が出来ぬ閂。

看守二人が閂を持ち上げ抜くと重い鉄扉を押していく。

ズズズと鈍い音を響かせてゆっくりとだが鉄扉が開かれる。


一日中閉めきられた空間は酷く暑い。

それでいて此処には窓一つなく、汗や体臭、排泄物など耐え難い臭気が暑さでよりキツくなり鼻が曲がるような酷い臭いをさせていた。


昼夜分からない空間。

通路を挟んだ左右両側に牢屋がありその所々から微かに光が漏れて見え、その光を見る限り此処に罪人はごく少数なのが分かる。

此処には大逆罪で捕らえられた罪人が収容されている。


大逆罪。

国王、王妃、または国王の長男の死を企み、または目論むこと。

王妃、国王の長男の妻を汚すこと。

国王に対し、その王国内で戦争を仕掛けることなど他にもある。


大逆罪は王族一族に危害を加え企てた人間だけでなく、その家族一族連座にまで及ぶ。

年老いた老人老婆、産まれたばかり赤子であろうが、それが例え国王の側妃であっても逃げる事は出来ない。


昼夜分からぬ暗い牢で厳しく拷問に近しい劣悪な環境で精神に異常をきたした者も多くいた。

この牢獄に多くいた罪人は毎日行われる処刑で残るのは10人もいない。

酷い臭いがする息苦しく暑い牢獄に今もこの場に似つかわしくない人物が収容されていた。


紺色のゆったりとしたドレスを身に包んでいるが、下腹はふっくら膨らんでおりは一目見れば罪人が妊婦だと分かる。

劣悪な環境で雪のように白く輝いていた肌は薄汚れ、美しかった黄金色の髪は罪人の烙印を押された時に切り落とされてしまった。

柔らかく青く澄んだ瞳は今は正気を失っており、頬の肉が落ち口唇は噛み締めたせいか所々血が滲んでいた。


罪人は嘗てフォルセティ国一の美姫と謳われていた側妃ミューゼ。


側妃ミューゼは幼き頃から牢獄に収容される今まで不自由する事なく幸せに生きてきた。

それが今や食事も満足に与えられず、劣悪な環境で自由はなく平民以下の暮らしを強いられている。


裕福な伯爵家の長女として生を受け両親から溺愛されるほど可愛がられていた。

偏屈であるも厳しくも優しい兄や侍女たちに大事にされ甘やかされ育てられてきた。


男性優位なこの国で貴族の子女は家族から邪険に扱われる事が多くある。

女性には厳しい世界で有りながら、家族から深い愛情を受けて育ったミューゼは幸福者だったと言えよう。


貴族の子女のお役目は後継ぎを産む事である。

ミューゼも当然多くの縁談が舞い込んでくるが婚約者が何故か決まらないでいた。

伯爵家の長女としては異例な事だったが、しかし年頃になるとミューゼの婚約者が突然決まった。

その婚約者はフォルセティ王国第一王子ヴァンクリーフであった。


婚約者として後宮に上がれば、同じ年頃の貴族子女が多く集められていた。

ミューゼは婚約者ではなく婚約者の候補の一人として集められたに過ぎない。


後宮に入り季節が一回りしても婚約者候補達の元に王子が訪れることはなく、何の音沙汰もない生活に飽きてしまう者が多かったが、ミューゼは己を磨きいつか自分の元だけに王子が訪れてくれるのを願っていた。


だが翌月婚約者候補達は王子が妃を選定された事を知る。


王子が選ばれた妃の名前はフローディア。

彼女は亡国の皇女であり王子の元婚約者だった。


王子の宣言に謁見の場は荒れに荒れたという。

滅んだ国の元皇女を妃にするなど前代未聞。

臣下の貴族は反対だと声を揃えたが、国王は王子の宣言を認めてしまう。

国王が認めたとしても反対する者が消えたわけじゃない。


その日から亡国の姫フローディアは心ない嫌がらせをされるようになった。

悪意ある陰口や命に関わる事件に巻き込まれもしたが、元皇女は泣き暮らすのではなく全てに立ち向かって見せた。

結局反対の声を上げた貴族達は元皇女を認める形が出来上がりを見せるなか、最後まで強硬に反対の意思を変えず認めなかったのはミューゼの父と兄であった。


挙式の後に行われる御披露目のパレードが行われた翌年妃は王子を産んだ。

けれど妃は難産の影響で血を流しすぎたのが原因で二度と子供を作れない体となってしまう。

その話が直ぐに知れ渡ってしまえば、妃を認めなかった反対派の貴族達が息を吹き返したように動きを見せた。

嫌な空気がミューゼを不安にさせる。

妃を追い落とそうとする反対派の貴族の中心父と兄は加わりを見せて居なかったが、側妃に選ばれたと告げられた時ミューゼは何とも言えない恐怖を感じていた。


その予感は数年見事に当たる事になるがミューゼはまだこの時は何も知らないでいた。


後宮に上がり真っ先にミューゼは王妃フローディアの元へ挨拶に訪れると、側妃であり邪魔者であろうミューゼを妃は嫌がることなく迎え入れてくれた。


初めて見る耀かしい銀の髪は柔らかな絹のようで、潤んだ赤い瞳を向けられて艶やかに微笑まれると頬が熱くなるのを感じ赤く染めてしまう。


今までフォルセティ国一の美姫と謳われていたミューゼだが、自分より遥かに美しい女性に出逢い嫉妬心は芽生えたものの、王妃と会話をしていくうちにその思いは直ぐに消えてしまう。


側妃として後宮で生活をするもヴァンクリーフの訪れの沙汰はなく、それが例え寂しく悲しくても側妃の立場では何も言えやしない。

それにヴァンクリーフは妃フローディアを心から愛しているし、二人の愛の結晶である王子が産まれたばかりのこの時期に後宮に現れた側妃が一番の邪魔者である。


時より耳にする国王とその家族の話。

聞こえてくる話は国王が家族を大切にされていて深く愛されているのだと思い知らされる。


側妃としてのお役目もなく女として見向きもされない存在は段々と影を潜め薄れて行くも、ミューゼは国王の訪れを待つことしか出来なかった


そして再び季節が何度か巡ると初めてミューゼに転機が訪れた。


病を患うことなく健康に成長されたヴィンセント王子は国王の期待を一心に受け育ち、知勇に優れた賢く聡明な王子と言われるようになっていた。

そんな賢く聡明な王子であってもまだまだ幼き子供であり、たまに無茶な我が儘を言っては国王や王妃を困らせる。

そのヴィンセント王子の何気ない一言がミューゼの薄れいく運命を変えてしまう。


国王が此処に訪れ滞在するのは一時間も満たない。

子供を作る行為を終えれば国王はさっさと着がえミューゼの元から立ち去っていく。


王子の我が儘が発端でミューゼは子供を身籠る為だけに国王に股を開く。

何度か股を開き愛もなく子を身籠れば、国王はそれからミューゼの元に訪れはしない。


腹に宿る命。

この命を産み落とし国王が産まれた子を愛してくれるのかと考える。

けれど考えるだけ無駄だ。

国王がこの命を愛してくれないのは分かりきっている事。

子を身籠ったと告げた時に言われた台詞がその証拠だろう。


『我の子はフローディアが産んだヴィンセントだけだ。』


国王ヴァンクリーフ2世はフローディアが産んだ王子以外の子を望んで居なかった。


弟が欲しいと望んだ王子。

小さな子供の我が儘を国王は叶えるべくミューゼを孕ませた。

王子にとって優しく何でも願いを叶えてくれる国王は良き父親なのだろう。


けれどこれから産まれてくる子供にとって、国王は良き父親となるのだろうか?

それだけは絶対にあり得ないのは分かりきっていたし、産まれてくる子供は国王にとって邪魔者でしかないだろう。


寵愛を受けてもいない側妃。

国王に望まれず愛されないとしても、それでもミューゼは王子の我が儘を叶える為に子供を産まねば為らない。


此処で幸せになれるのは、国王と国王が認めたその家族だけ。

国王に認められぬミューゼは此処では幸せに慣れないのだとようやく知ることになる。


事実を受け入れるには時間は掛かった。

ようやく受け入れれば家族に沢山の手紙を送るようになっていた。


腹に宿る命も安定期に入ると、側妃の妊娠は国中に知れ渡る


新たに王族が誕生するとなると、城に多くの者が出入りする。

王子は城内の警備が不安になると言う理由で、国王の母君エリトリアが住まう領地に行かれる事が決まった。


国王はそれは必要の無い事だとし反対だと声を荒げると身籠る側妃を後宮外に出そうとした。

だが国王の意見を変えさせたのは、他ならないヴィンセント王子自身だった。


王妃と同じ絹のような耀かしい髪を持ち、国王と同じく金色の鋭く切れ長の大きな瞳をした美しい王子が城を旅立っていった。


けれど王子が旅立ちその数日後王城に最悪な知らせが届いたのだ。


王子を護衛していた騎士の死体が発見された。

少数で旅立ったと言え王国騎士が全滅にされたうえ王子の安否も分からず国は隣国を疑った。


一番に疑われた隣国だったが直ぐに関わりがないと証明された。


王子が誘拐されたと知った隣国の皇子は自らフォルセティに現れるとヴィンセント王子の捜索を願い出た。

兵も率いずごく少数に守られながら現れた皇子に、国王その願いを聞き入れ隣国が関わりのないと確信し、次に疑いの目を向けたのが王妃を追い落とそうとした貴族達であった。


苛烈極まる拷問に近しい取調べに、口を閉ざして居た貴族の大体が根を上げていた。

それでもヴィンセント王子の安否は分からず国王は等々しびれを切らし側妃の捕縛を命じた。


この時すでに側妃の実家が黒幕とされていたが、決定的な証拠が揃わず未だ捕らえられずにいた。

ならばと国王が打って出た方法は黒幕達を大きく動揺させる事に成功したが、この事により王子は命に関わる危機にさらされる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ