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理不尽な世界で長生きしたい。  作者: おむまめ
幼少時代
1/9

記憶を思い出すのがちょっと遅すぎた

『メロディ~君と紡ぐ物語~』


乙女ゲームのタイトルが頭のなかに浮かび前世の記憶を取り戻した時、私は死の淵で三途の川にある船に片足を突っ込んでいた。


体中に襲い掛かる痛みと高熱に魘されながら、何故もっと早く記憶を取り戻せなかったのかと思う。


原因は5歳を迎えたある日私は何者かに襲われ拐われたのだ。

口を封じられ縄で縛られた体は寂れた小屋に投げ入れられたまま、何日かを顔を隠したら人間らと過ごした。


恐怖で怯える私の姿を見た悪者の何人かは卑下た笑みを浮かべ優しい声を出すものの、その日からやたら体に触られるようになった。


けれども殺されるよりマシだと厭らしい手を受け入れていた。


1週間はたまた2週間も過ぎると悪者共は何かに脅えるようになり私にキツく当たる。


だがこちとら悪者が私を拐って何をしようと考えてるか知らない幼い子供。


八つ当たりされても困る。


だが日に日に悪者達が仲違いを始めたかと思えば、一人の悪者が悪者に手をかけた事で事態は激変する。


一人また一人と悪者が血を流して地に倒れていく。


それを茫然とただただ眺めながら私は自分の運命がどうなるか悟っていた。


母様…父様。

どうやらヴィンセントの命はここまでのようです。

天の庭で先にお二人をお待ちしております。


私は5歳で命を散らす親不孝者。

そう考えると涙がポロポロ落ちていく。


声を押し殺して涙を流していると悲鳴も怒声は聞こえなくなっていた。


座り込む私の前に影が出来る、視線を動かせば返り血を浴びた男が立つ。


『ヴィンセント王子よ王を恨め』


父様を恨め?

何を馬鹿な事を言って居るのだこの悪者め!

私は一生お前を恨むに決まっている。


悪者の言葉で何もせず殺されるのは馬鹿らしいと思い、私は最初で最後の反撃に出た。


ありがたい事に私を拘束する縄もなければ口だって塞がれてない。


厭らしい悪者に今だけは感謝する。

相手に隙が出来るとタイミングを計り悪者が身を屈めた瞬間、隠し持っていた木製のフォークを悪者の眼に向けた。


ぐちゃと嫌な音と手に感触が残った。


男が絶叫を上げて剣を振り落とす。

だが一度めのそれは私に届かず空を切った。


何度も襲いくる剣が背を向けて逃げようとした私の肉を切り裂いた。


刃の衝撃に私の体は地面に転がった。


幼い体は痛みに脆くもう一度体を動かす事は出来ないでいた。


眼から涙を口唇は噛み締めたせいか血で濡れている。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

全能なる神よ、今この光景を見ているのなら!

頼むから私を殺してくれ!!


神に祈りを捧げるも私は痛みと苦しさから開放されはしなかった。


けたけたと醜い声を上げる悪者の剣が右足を串刺した。


骨をも砕いた刃がそのまま全てを貫き地面に届く。


声にならない絶叫がこの空間にただただ響くと、悪者は何を思ったのか私の髪を掴み顔を覗き込む。


『ククク、オージサマ』


何かを言い返せる気力のまま、足から剣が抜かれると私は意識を手放す。


そして息苦しさと熱さで目覚めた私は炎に囲まれていた。


悪者は意識を手放した私を死んだとでも思ったのかも知れない

王位継承権を持ちいずれこの国の王となる私の遺体が見るも無惨な姿で見付かったとすれば、国…父様は犯人をどんな事をしてでも見つけ出してくれるだろう。


あの悪者がどうなったて構わないそれに捕まれば、悪者その一族もろとも公開処刑される。


きっとあの悪者は私が動かなくなった事で冷静さを取り戻したのかもしれない。


火の勢いが増す中随分と他人事のようにこの状況を見ている自分に驚くが、この時に私はもう記憶を取り戻し始めていたのかも知れない。


『ゲホッ、うッ…うぐぐ』


ちょっと体を動かして顔を地面すれすれに付けて口元を手で覆った。


本当なら濡れたハンカチでもあればいいけどこの際は我慢だ。


こんな状態で助かるとは思えないのに、まだ心の奥底に希望を抱いていた。


ふと…何か映像のようなものが過る。


これはヴィンセントが王国騎士達の手で救い出される映像?

私はこの映像もこの先起こるであろう何かを見た事がある。


『ッ、…た、すかる?』


死なずに救い出される映像が色濃く見えている。

信じて良いのだろうか?

信じて良いなら私はこの映像を信じたい。


この事件で心優しきヴィンセントは死に、この先ヴィンセントは悪に染まっていく。

ヴィンセントは確かに此処では死なない……。


凶悪の王 ヴィンセント


『メロディ~君と紡ぐ物語~』

ヒロインの兄にして物語の最悪にして最大の悪役 ヴィンセント。


醜き姿の怪物 ヴィンセント


私は何故に今記憶を取り戻したんだろうね?


『うそぉーーーーーーーーーーーーーっ!』


自分の立ち位置そして凶悪の王 ヴィンセントである事を理解した上で痛みも忘れて私は叫んでいた。


その叫んだせいで私は意識が霞み意識を手放すのです。





『メロディ~君と紡ぐ物語~』


ヒロイン メロディ姫が攻略キャラクターと共に凶悪の王ヴィンセントが治める国を救う物語だ。

登場する攻略キャラクターは乙女ゲームにしては少ないものの、キャラクター達のデザインそして演じる豪華声優そしてなんと言っても濃密で切ない物語のストーリーは、世の乙女ゲームを愛するユーザーからは高い評価を受けた。


『メロディ~君と紡ぐ物語~』は後にアニメ化しトントン拍子で映画も決まると、それだけで留まらず実写ドラマにもなった。


君メロ現象まで起きた乙女ゲーム。


何故今この時君メロを思い出しているのか全く分からないが、もっと早くに君メロの事を思い出して居たかったよ。


王国騎士達に助け出された私は記憶を整理しつつ、未だに痛みや高熱から開放されてない。


体と顔を地面にすれすれに付けていたものの、顔の右側は肌や体に火傷を負っている。


背中の傷は思ったより深くなかったらしいが、串刺しにされた右足はどうやら元には戻らないようだ。


王宮に運び込まれた私の姿はどうも見るに無惨だったらしく、まだ意識を取り戻していないと決め付けている医者そして世話役は好き放題言ってくれている。


お前らいつか首にしちゃると喋れ無いながら決意した。


だがそれよりも私はこの先の事をちゃんと考えないといけない。

あの『メロディ~君と紡ぐ物語~』通りに事が進むと、物語の結末で私は必ずと言って絶対に死んでしまうのである。









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