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えぶりでい!  作者: あさの音琴
日常編
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日常6

なんだかフワフワとしている感覚。幽体離脱なんてしたことは無いが、幽体離脱をするとこんな感覚なのだろうか。


 ぼーっと浮遊感を感じていると、どこからか声が聞こえる気がした。


『たっちゃん。たっちゃん。公園いこー?』


『うん! わかった!』


 これは……もうほとんど覚えていないが、俺の幼い頃の記憶なのだろうか。朧げながらにもこんなやり取りがあったのかもしれないと自分を無理矢理納得させる。


『なにをするの?』


『んとねー。決めてない! アハハ』


 そういえば奏はこんな奴だったよな。とりあえずどこに行く。行ってから何をするのか決めようって感じで。こう考えると奏は小さい頃からほとんど変わっていないのかもしれない。


『たっちゃん! 虫採りしようよ』


『わかった! なにを捕まえるの?』


『蝉を捕まえよう!』


 この公園も今じゃ閉鎖されて、建物が建つらしい。懐かしいな。


『たっちゃん! たっちゃん! 捕まえたよ!』


 ジージーと大きな声で鳴く蝉の声が突然聞こえてきた。恐らくこれは夢だろうと思う。なにを思ってこんな夢を見てるんだろうと思う。


『虫の顔ってなんだか怖いよね。たっちゃん知ってた? 虫って本当は宇宙から来たんだよ!』


『虫はどうして宇宙から来たの?』


『知らない! アハハ』


 奏の突拍子の無い発想もこの頃から変わって無い。俺は夢ではあっても自分の思い出であろう、この場面を懐かしく思いながら眺めていた。


『おい! お前ら! ここは俺たちの場所なんだぞ! どっか行けよ!』


『そうだ! そうだ! 女なんかと遊んで女々しい奴だ!』


 そういえばこんな奴もいた。近所で有名だった悪ガキどもだ。悪ガキどもは今何をしているのだろうか。名前も思い出せない。


『なんだと! 馬鹿にするなよ!』


 俺の記憶力が悪いのか、俺の夢のオリジナルな場面なのかは分からないが、この場面の出来事については全く思い出せなかった。


『お前やるのか! いいよ! かかってこいよ』


『ここはみんなの公園なんだぞ! お前たちの物なんかじゃないんだからな! 倒してやる!』


『たっちゃん止めなよ!』


 夢の中の幼い俺は奏の制止も聞かずに、悪ガキ数人に一人で立ち向かっていった。案の定やり返されているのだが。


『弱っちいのにつっかかって来るなよ! 早くどっかいけよ!』


『うぐっ。ひっぐ』


 そういえば、俺は小さい頃は泣き虫だった。情けないと思う。


『たっちゃんをいじめるなんて許せない!』


『女のくせに俺たちにつっかかってくるのか! お前もボコボコにしてやる!』


 奏は悪ガキたちの挑発に乗って、悪ガキたちに殴り掛かっていった。奏は悪ガキ数人をたった一人で全員を倒してしまっている。


『うぐっ。女のくせにゴリラみたいだな。このゴリラ女! お前なんか死んじゃえ。ばーか』


『私はゴリラじゃないもん! "人間" だもん!』


 奏は悪ガキ達をたった一人でやっつける。悪ガキたちは奏に悪態をつきながら公園から出て行った。奏の "人間だもん" という言葉がやけに強調されて聞こえてしまったが、買い言葉に売り言葉だったのだろうと思う。


『たっちゃん大丈夫? 足擦りむいてるし、口も切ってるみたいだよ?』


『うぐっ……痛いよ……えーん』


 小さい頃の俺が大泣きをしだした。夢とは言え、こんな過去を見せられるのは恥ずかしい。


『たっちゃん。大丈夫だよ? 私が治してあげるね』


 奏はそう言うと、俺の擦りむいた足を両手で包み込んだ。すると、淡い光が奏の両手から漏れ出す。なんなのだろう。


『はい。たっちゃん。これで治ったよ! まだ痛い?』


『あっ! 本当だ! 痛くないよ!』


『これはみんなに秘密だからね?』


 この夢はなんなのだろうか。ファンタジーすぎてめまいを覚えてしまう。夢だから有り得ないことも普通に起こるのだろうが、俺は自分に何を見せたいのか疑問を覚えてしまった。


『うん! わかった! これはどうして秘密なの?』


『えっとね。ママが誰にも言っちゃダメなんだって。だけどね、たっちゃんが泣いてる所を見たくないし、たっちゃんにだけは秘密にしなくても良いと思ったんだ』  


 俺のこの夢は完全に俺が作り出したオリジナルだと確信した。何が昔の思い出だ。俺はこんなに泣いていた記憶も悪ガキたちと喧嘩をした記憶も無い。確かに奏と公園で虫採りなんてしたことは憶えはあるが、そんなのはいつもやっていた事だ。


『奏はすごいね! 怪我だって治せちゃうし、すごく強いし』


『私はたっちゃんを守るために生まれてきたんだもん! たっちゃんを守れるならなんでもするよ!』


『ありがとう! 奏は強くて優しいんだね! 大好き!』


 これは俺が奏を意識しすぎてるんだと思う。幼い自分の姿とはいえ奏に大好きだなんて、夢で無かったらまず言える言葉じゃない。


『たっちゃん! 私も大好きだよ! 口の中も切ってるから治してあげるね』


 夢の中での奏は俺を抱きしめると、全員から淡い光を出していた。その光は奏から俺を包み込むように俺の中に吸収されていく。


『たっちゃん。たっちゃんは私が守るからね』


 俺と夢の中の奏の目が合う。夢の中の幼い俺ではなく、この夢を傍観していた俺とだ。奏と目の合った瞬間に景色は消えた。


「ちゃん? 大丈夫? たっちゃん?」


 夢の中で景色が消えたと思った瞬間、奏の声が聞こえる。夢の中のような感じでは無く、ハッキリと。俺は目が覚めたのだろう。


「あぁ。奏? 大丈夫。少し疲れてたみたいで寝てたみたいだわ」


「もう……なんだか唸されてたから心配しちゃったよ! ご飯出来たから呼びに来たんだよ」


「悪い。顔洗ったらすぐ行くわ」


 奏は分かったと部屋を出て行き、俺は洗面所で顔を洗ってから、奏が待っている食卓へと向かっていった。

 

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