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えぶりでい!  作者: あさの音琴
非常編
41/44

真実2

 格納庫に着いた俺の目にロボットの姿が舞い込んでくる。奏の乗っていたロボットは黒かったがこちらは塗装もされていないのか白にも灰色にも近い色をしていた。立ってはおらず、体育座りをしているような姿だ。

 

「これは……」

 

「これは "パワードメイル" 人の動力補助を行う鎧だね。僕達はPMと呼んでいるよ」

 

 俺と竜二がロボットと呼んでいたそれはパワードメイルと言うらしい。その姿は無骨かつ生物的で、今にでも動き出しそうにも見えた。

 

「これがあればあの捕食者と戦えるんスね」

 

「戦えはしても決して勝てる訳じゃないよ」

 

 俺は捕食者相手に圧倒的な力の差を見せ付けたパワードメイルの姿が脳裏を掠めた。生身で捕食者を相手取ればいくら屈強な人間と言えど、簡単にやられてしまうだろう。

 

「どうしてですか? 俺はパワードメイルが捕食者を倒す様をこの目でしっかりと見ました」

 

「捕食者の怖さは単体の強さでは無いんだよ。君達はあの遊園地の捕食者の死骸を見たのだろう? それならすぐに理解できるさ。捕食者の本当の怖さはその圧倒的すぎる数で攻めて来る事なんだから」

 

 圧倒的すぎる数の想像が出来なかった。奏は複数の捕食者を相手取って簡単に打ち破っているではないか。

 

「数で攻められるのなら数で押し返せば良いんじゃないスか? このPMだけでなく軍の航空戦力もあるじゃないスか。航空機で絨毯爆撃を仕掛ければ、捕食者も圧倒出来ると思うんスけど」

 

「絨毯爆撃。それは捕食者が現れてからすぐに実行された。しかし、捕食者は減らなかった。絨毯爆撃どころか核攻撃だって行ったさ。それでも捕食者は生きている。そんな事で捕食者を殲滅出来るならPMなんて物は必要無かっただろうしね。捕食者の唯一の弱点は口の中なのは知ってるかい?」

 

 それは知っている。偶然見付けた弱点だったが、それを見付けた事によって俺と竜二は生きてここにいる。

 

「はい。知っています。捕食者の口の中にロケット花火を撃ち込んで逃げて来ましたから」

 

「君達はロケット花火で捕食者に立ち向かったのかい? 生身で。それはすごいね! ハハハハハ!」

 

 乾先生は俺がロケット花火で捕食者と戦ったと言うと呆れたように笑っていた。俺と竜二には戦える術なんて無かったのだから仕方が無いとは言え不愉快な気持ちにもなる。俺は乾先生を睨んでいたようで、それを見た乾先生は笑うのを辞めると俺に謝罪の言葉を並べる。

 

「そんな怖い顔をしないでくれよ。笑った事は謝るからさ」

 

「良いですよ。少し腹は立ちましたけどね」

 

 腹は立ったがそれだけだ。

 

「気を取り直して……君達が知っているように、捕食者の弱点は口の中だ。けれど、捕食者は滅多に口は開かない。口を開かなければ柔軟かつ強固な皮膚を持つ捕食者にはどんな攻撃だって歯が立たなかった訳だ。そこで、僕はこのパワードメイルを開発したんだ。パワードメイルは人間の体そのものと言っても良い」

 

「人間の体……ですか?」

 

「そうさ。骨格フレームには特殊なジルコニウム合金を使って、筋肉部分にはこれも特殊なゴムを使い筋収縮すらも再現出来た。そして、装甲は甲殻装甲と言う物を使用しているんだ。昆虫や甲殻類は僕達アヌからしても未知の部分が多い生き物だからね。この甲殻装甲は軽量かつ――」

 

 乾先生は目をキラキラと輝かせながら解説をしてくれるが、俺からすると訳が分からないし、どうでも良い事だった。要するにアヌの技術の結晶と言う事なのだろう。

 

「――という訳だよ」

 

「は、はぁ……」

 

 竜二は乾先生の話をきちんと聞いていたのか目が点になっていた。説明なんて聞かなくとも、このパワードメイルが凄いと言う事くらいは分かるが、何が凄いと言われても俺には全く理解は出来ない。

 

「早速乗ってみるかい?」

 

「乗ります」

 

 俺は即答をした。たとえ捕食者が強大な敵であっても、俺は戦いたいし、恨みだってある。このパワードメイルを使って捕食者を駆逐したい。今すぐにでもだ。逃げるしかなかった俺が戦う力を得る。俺の心臓は高鳴っていた。不安は無い。

 

 奏が着ていたのと同じような競泳水着のような物を着用し、パワードメイルの背中の部分から乗り込んだ。かなり狭いようで、俺はパワードメイルと同じように体育座りをする形になる。操縦桿も見当たらない。

 

「聞こえるかい? これから君とPMの始動リンクを始めるよ。ちょっと痛いけど我慢するように」

 

「はい」

 

 俺は乾先生の言う痛みが来るのに備える。そして、俺の背中に激痛が走った。

 

「ぐっ……ぁ」

 

 何かが俺の背中に刺さり、背骨からギシギシと振動を感じ、痛みと不快感が俺を襲い続けた。この痛みの地獄はいつまで続くのだろうか。歯を食い縛り、痛みに耐える。

 

 どのくらい時間が過ぎたのかは分からないが、ふと痛みが消える。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「始動リンクは正常に完了したよ。動けるかい?」

 

 乾先生の声は遠くに聞こえるが問題は無い。俺は言われるがままに動こうとするも、ここは窮屈すぎるくらいのコックピットで身動きは取れるはずもない。

 

「動くって、こんな狭い場所じゃ動けないですよ」

 

「大丈夫さ。立ってごらん」

 

 俺は乾先生に言われるままに立ち上がる。不思議な事にスッと立ち上がる事が出来た。

 

「それじゃ今からヘッドデバイスをセットアップするよ。これからPMのブレインコンピュータと君の脳波をリンクさせる」

 

 乾先生の声が聞こえたと思ったら俺の頭に何かが装着される。

 

「うっ……」

 

 何かが装着されたと思ったら、俺の頭の中を何かで掻き乱すような、そんな不快感に襲われた。痛みは無いが思考が定まらなくなる。色々な記憶が見えては消えるを繰り返していた。俺が憶えていないような事や、学校での出来事。委員長や環、そして、奏の最期の顔。

 

 真っ暗だった俺の視界に光が射し込んでくる。俺の眼前にはコンピュータに何かを打ち続けている乾先生とその隣に立っている竜二の姿が見えたが、その二人が小さく見える。

 

「セットアップも正常に完了……と。達弥君。僕の声が聞こえるかい?」

 

 先ほどまでノイズが混じったように聞こえていた乾先生の声がクリアに聞こえた。そして、俺の思考もどこかクリアになった気がする。

 

「たっちゃん大丈夫スか?」

 

「あ、あぁ。竜二か……大丈夫だ。それよりも」

 

 俺が手を動かすと、パワードメイルの手も動く。俺の動きに合わせてパワードメイルが動くのだ。

 

「なんだか不思議な気分だな」

 

「これが僕の開発したリンクモーションシステムだよ。PMという体に君という心が宿ったという事さ!」

 

 自分の体となんら変わらない動きをするパワードメイルはまるで自分の体なのではないかと思うほど俺に馴染んでいた。

 

「ただね、この、リンクモーションシステムにも欠点があって、PMの受けた傷は操者自身の痛みとなって反映してしまうんだ。PM自身も達弥君の体の一部と言う事だね」

 

 乾先生は興奮したかと思うとすぐに冷静な口調になって話す。しっかりと地に足が着いている感覚があるのは、パワードメイルと俺の体そのものがリンクしているからと言うのを乾先生の説明で理解は出来た。痛みさえもリンクしてしまったと言うのは乾先生からすると失敗なのかもしれないが、俺からすると、この痛みや感覚のおかげで自制も利くのでは無いかと思う。

 

 そして、俺はパワードメイルから降りる。降りる時は少し戸惑ったが、ただ、降りたいと願うだけで、背中のハッチが開いて降りる事が出来た。

 

「乾先生。これ、降りる時に降りたいと思えばハッチが開くじゃないですか。もし前線でそんな事を思ってしまうとどうなるんですか?」

 

「どうにもならないよ。PMのブレインコンピュータに設定を入力すれば、そう言った事故も起きなくなるからね」

 

 ちょっとした疑問を乾先生にぶつけていると、次は竜二がパワードメイルに乗り込んだ。

 

「準備は良いかい? 竜二君」

 

「大丈夫っスよ」

 

 こうして、竜二のセットアップも着々と進んで行った。ここには他にも2体のパワードメイルが置いてあるのだがどうするのだろうか。

 

「あっちにある2体はどうするんですか?」

 

「一つは僕が乗るけど、もう一つは廃棄するのも勿体無いから捕食者討伐隊と合流した時に操者を探すとするよ」

 

 竜二もPMに乗る為の洗礼を終えて戻って来た。

 

「始動の度にあんな思いするんスか?」

 

 確かにそうだ。乗る度にあんなに痛い思いをしていると、こちらの精神が参ってしまう。

 

「その辺は大丈夫さ。初期セットアップでの脊髄注射はブレインコンピュータと君達の体との親和性を高める為の物だから今後はその必要は無いよ。あのPM達は君達専用のPMだ。君達だけにしか動かす事は出来ないからね」

 

 乾先生の言葉に自然と気持ちが高ぶってくる。捕食者と対等に、いや、それ以上に渡り合える力を手に入れたんだと言う事を実感出来ていた。

 

「そういえば、あの紫電の剣は無いんですか?」

 

「紫電の剣? あぁ。マイクロソーの事かい?」

 

「そうです。多分マイクロソーの事だと思います。捕食者はどんな攻撃にも耐える事が出来るのに、そのマイクロソーで捕食者を切る事が出来るのはなぜですか?」

 

 核攻撃すら耐える捕食者がそのマイクロソーで倒せるのはなぜなのか。その原理が知りたかった。

 

「マイクロソーについてはだね、まず、名前の通りなのだけどマイクロ波を纏った刃と思って貰った方が早いと思うかな。原理はマイクロ波増幅装置と似たような物なのだがね。マイクロソーはそのマイクロ波を収縮させてあるんだけど、その収縮したマイクロ波の余剰分を刃に見立て、マイクロ波の摩擦熱で切断する事が出来たんだ。レーザーでも切断は可能なのだけど、捕食者を切断出来たと言うのは副産物であって、マイクロソーの真価は刺突攻撃にあるんだよ」

 

「刺突攻撃スか?」

 

「そう! 刺突攻撃さ。マイクロソーは収縮、蓄積させたマイクロ波を捕食者の体内で開放する事によって、捕食者を内側から殺す事が出来るのさ」

 

 そう言う事か。紫電の剣で突き刺された捕食者はぶくぶくに膨れて弾け飛んでいた。それはマイクロ波の放出によって体内から熱され、膨張して弾け飛んでいたと言う事だろう。

 

 こうして、俺と竜二は戦う力を手に入れた。これからは俺も戦場に立つ事になるだろう。この施設のデータのバックアップが取れるまでそう時間は掛からないだろう。この施設を放棄した瞬間から俺は捕食者と戦う事になるだろう。

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