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えぶりでい!  作者: あさの音琴
非常編
39/44

非常6

「やばっ!」

 

 俺はすぐにポケットに入れてあった癇癪玉を化け物の足元に投げつける。大きな爆発音が響き渡り、化け物は一瞬怯んだ。


 俺はすぐに外へ駆け出す。

  

「急げっ! 竜二!」

 

「分かってるっスよっ!」

 

 竜二も外へ駆け出すと化け物に相対する。そして、漁網を化け物に投げた。漁網は広がり化け物を捕らえる。化け物は俺達を追おうとするも脚が網に引っ掛かり、大きな音を立てて転ぶ。

 

「早くっ! 逃げるぞ!」

 

「やったスよ!」

 

 ついに化け物へ一泡吹かせてやったと言わんばかりの竜二。ただの足止めではあるが、俺と竜二にとっては一矢報いた形だ。

 

 俺と竜二はひたすら走る。走れど走れど隠れられそうな場所は見付からない。化け物とのデスレースだ。先に逃げ切るか、捕まるか。先ほどの俺の癇癪玉の音を別の化け物も聞いているだろう。俺はふと思い立ち、ロケット花火に火を着けて茂みへ発射させる。何発かを茂みに打ち込むとすぐに走る。時間稼ぎにはなってくれるだろうと思った。

 

 この峠道は俺と竜二とってはデッドゾーンだ。逃げる場所は無く、隠れる場所は少ない。

 

 息も絶え絶えで建物を見付けて中に入った。建物と言ってもトタンで出来た粗末な倉庫だ。今にでも崩れそうな倉庫ではあるが隠れる事は出来る。

 

「はぁ――はぁ――何とか……」

 

「そうっスね――はぁ――はぁ」  

 

 俺は大の字に横になり、竜二はトタンの倉庫にもたれ掛かるように座っていた。まだ逃げ切れた訳では無い。このまま行けばジリ貧だろう。それでも俺は生きて行く。

 

 少ししてからトタンの錆びた穴から化け物が走り去る姿を追う事が出来た。竜二が漁網に掛けた固体か別の固体かは分からない。最低でも近くに4匹の化け物がいる事には違いない。

 

 夜になる前にはこの峠道を越えたい。明日だなんて悠長な事は言えないだろう。いつ見付かるか分からないし、夜になれば化け物の方がアドバンテージはある。化け物には目が無いのだから、夜目も何も関係が無いのだ。

 

 しかし、走り去る化け物を見てしまった。俺達が向かえば化け物が戻って来ているかもしれないし、戻る事も叶わないだろう。道無き道を行くか? いや、ダメだ。滑り落ちたらひとたまりも無い。と、言う事は俺と竜二はここで走り去っていった化け物を待つか、打開策を見付けて先へ進むしか無い。

 

「たっちゃんどうするんスか?」

 

「とりあえず待つか。今外に出るのはリスクが高いと思う」

 

「俺もそれには賛成っス」

 

 そして、俺達は休憩とは言えない待機をする事となった。神経を研ぎ澄ませ、いつ来るかも来ないかも分からない化け物を待つ。水を飲み、チョコレートを口に入れる。

 

 その時は来た。最悪の形でだ。

 

 後ろから来た化け物がこの倉庫の周りをウロウロしているのだ。鼻も利くのかもしれない。俺は息を殺す。右手にライターを持ち左手にはロケット花火だ。いつでも着火する準備は出来ていた。竜二は包丁を持っていた。

 

 化け物が倉庫を持ち上げた。俺はその瞬間にロケット花火の導火線に着火し化け物へと向ける。倉庫は投げ飛ばされ俺と竜二は太陽の下に顔を出した。

 

 化け物は餌にありつけたと思ったのか大きな口を開ける。化け物が大きな口を開けたのを見計らったかのようにロケット花火は化け物の口の中へと吸い込まれ爆発する。それを見た竜二は化け物を包丁で切り付けるもすぐに包丁を捨てて逃げて来た。

 

 化け物は口の中が弱点なのか、のたうち回っていた。俺と竜二はその隙に茂みの中へと飛び込む。

 

「うぉっ!?」

 

「たっちゃん!?」  

 

 飛び込んだが、飛び込んだ場所が悪かったのか、俺は足を滑らせた。足を滑らせはしたが、なんとか木に捕まり事なきを得た。竜二から手を貸してもらい上の方へ上がっていると、化け物がジャンプして来る。しかし、ジャンプした先は崖の方向で化け物は崖下へ落ちていった。恐る恐る下を覗き込むと崖に落ちた化け物は死んでおらず、崖を登ろうとしているが、滑って登れないようだった。

 

「死ぬかと思った」

 

「危なかったスね。本当に良かったっス」

 

 二人でガッチリと手を取り合って峠道へ出た俺達は隠れる場所も無くなり先へと進むしか方法が無くなったが、化け物の口の中への攻撃は有効手段のようだと分かったのは大きな収穫かもしれない。しかし、残りのロケット花火の数も少ない。慎重に使わなければいけないだろう。

 

「ところで、包丁はダメだったのか?」

 

「全然ダメっス。包丁がひん曲がったんスよ。化け物の皮膚は恐ろしく堅いっスね」

 

 刃すら通さない鋼の皮膚に驚異的な身体能力を持つ化け物。これに知能なんて物があれば俺達はとっくの昔に食われていただろうと思う。

 

 付け入る隙があるとすれば口の中への攻撃かその知能の低さだろうか。ただ、口の中への攻撃は化け物が口を開いた瞬間しか出来ないし、化け物は食う時以外はほとんど口を開かないように思える。本能的に弱点が分かっているのかもしれない。

 

 俺と竜二はボロボロになりながらも峠道を越える為に歩く。もう少しで峠道は終わる。ホッとしたのも束の間だった。化け物がいる事は分かってはいた。分かってはいたがいて欲しくは無かった。

 

 前方にいる化け物は俺達の事は認知していないようだ。俺は後ろを振り返って双眼鏡を覗き込む。そこには見たくは無かった者がいた。化け物だ。米粒のように小さく見えるが、この一直線の場所で化け物に挟まれたのだ。

 

「最悪だ……」

 

「どうしたんスか?」

 

「見れば分かるさ」

 

 俺は竜二に双眼鏡を渡す。竜二も化け物を視認したのか顔が青くなっていた。

 

「これは最悪っスね」

 

「戻る方が危険だと思うけどどうする?」

 

「待っても無駄っスね。前に進むしか無いっスよ」

 

 竜二はそう言うと俺に双眼鏡を返してくれる。ほぼ丸腰の俺達ではあるが臨戦体制だ。武器はロケット花火。俺が2本に竜二が3本持っているだけだ。

 

 俺と竜二はゆっくりと前へ進む。ちょくちょくと後ろを確認すると、化け物の距離は近付いているのが分かる。

 

「もう少し急がないとやばいかもしれない」

 

「化け物の足が速いっすか?」

 

「あぁ」

 

 短いやり取り。このやり取りだけでも感じられる危機感だ。俺はロケット花火を持つ手に力を込める。化け物は目の前だ。もう少しで俺と竜二に気付くだろう。

 

 ジリジリと近付いていく。いつ化け物が襲って来ても良い距離だ。俺は化け物がロケット花火を追い掛けると信じて、着火する。導火線が燃えて行くのがスローに見えた。少しずつ短くなる導火線。そして、ロケット花火が発射する。

 

 甲高い音を上げながら渓流の方へ飛んでいったロケット花火は大きな音を出しながら弾け飛んだ。俺は化け物を見るも化け物はロケット花火に反応はしていなかった。

 

「くそっ!」

 

「やるしか無いんスねっ!」

 

 後ろを振り返る余裕なんて無い。恐らく化け物はこちらに気付き、走って来ているはずだ。

 

 化け物は突っ込んで来る。俺と竜二も走った。

 

「避けるぞっ!」

 

 俺は一言叫ぶと化け物と交差する直前にスライディングをする。ジャージが破れ、皮膚は擦りむいているだろうが気にする余裕は無い。

 

「食らえっ!」

 

 導火線に火を着けていた俺は化け物の口目掛けてロケット花火を発射するも化け物は口を開いてはおらず、ロケット花火も化け物に当たらずに虚しく弾けた。

 

 ロケット花火を発射するのに止まっていた俺は化け物に捕まってしまう。

 

「くっそっ! 離せっ! うぐっ……」

 

 かなり強い力で捕まれ骨が軋んだ気がした。そして、化け物は俺を食おうと大口を開ける。

 

「たっちゃんっ!」

 

 竜二の放ったロケット花火は大口を開けた化け物の口の中へと吸い込まれ爆発する。ダメージを追った化け物は思わず俺から手を離し、俺は自由の身となった。

 

「さすがだなっ! 竜二っ!」

 

「そんな事より早く逃げ――」  

 

 竜二が言い切る前だった。後ろから迫っていた化け物がジャンプ一発で俺達の前に立ちはだかったのだ。

 

「くっ――」

 

「たっちゃん。ロケット花火を一本渡しておくっスよ」

 

 俺も竜二も目は合わせない。

 

「良いっスよね。たっちゃん」

 

「くそっ……」

 

 竜二の覚悟に言葉が出ない。竜二は囮となって俺に逃げろと言っている気がした。俺一人で2匹の化け物相手に逃げきれるとは思えないが、竜二の覚悟を無碍にもしたくなかった。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 竜二は叫びながら自らの体を囮として化け物に突っ込んで行った。俺は導火線に火を着け、狙いを定めようとした瞬間だった。後ろから俺に近付いて来る足音。俺は振り向き突っ込んで来た化け物の口にロケット花火を発射させた。爆発音がなり、化け物は怯み動きが止まる。

 

 竜二の方を見ると竜二が捕まり口へ運ばれる瞬間だった。

 

「竜二っ!」

 

「た……たっちゃ――」 

 

 竜二の頭が口へ運ばれる直前だった。竜二を持っていた化け物の腕が消えたのだ。

 

 その腕は真下に落ち、竜二は化け物の腕から脱出をしている。

 

「あぶないっ!」 

 

「うっ……」

 

 化け物の腕から脱出した竜二は俺へ体当たりをする。俺のいた場所へは化け物が突進して来ていた。

 

 そして、化け物の腕を切り落とし、竜二を助けた者。そう、あのロボットだ。ロボットは素早い動きで化け物を紫電の剣で突き刺し、1匹目を爆散させた。俺を狙った化け物は後ろへ飛んで間合いを取ろうとしていたが、ロボットはそれを許さずに化け物を追撃し、紫電の剣で突き刺し、化け物はぶくぶくと膨れたかと思えばすぐに弾け飛んだ。

 

 絶対絶命のピンチだった。ロボットが来なければ、俺も竜二も助からなかっただろう。

 

 今回はロボットも俺と竜二の事を認識している。ロボットの赤い目を見る俺。ロボットは俺と竜二の方へ歩いて来るとしゃがみ込み、両手を差し出した。

 

「乗れって事なのか?」

 

 俺が呟くとロボットは頷いた。俺は竜二と目を合わせてロボットの手の平へと乗り、座る。

 

「助かったスよ。ありがとう」

 

 竜二がそう言うも、ロボットは頷くのみだ。

 

 ロボットの手の平へ乗り時間が過ぎる。辺りは夕焼け色に染まり、太陽が真っ赤に輝いていた。太陽を背に歩いたロボットは目的地だろうか、何かの跡地のような場所へ着くと、エレベーターがあり、ロボットはそれに乗って地下へ降りていく。到着したのは薄暗いが格納庫のような場所だった。

 

 ロボットはしゃがみ込んで俺と竜二を手の平から降ろすとロボットのコックピットだろうか。パイロットと思われる人間がロボットから降りて来る。そして、ヘルメットのような物を外すとそれは俺のよく知る顔の人物だった。



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