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えぶりでい!  作者: あさの音琴
日常編
31/44

不安5

 みんなで竹の花を見てから何日かが過ぎた。奏ともメールでやり取りをしているし、全てうまく行っていると思う。

 

 昨日、奏から今日から学校に復帰すると連絡もあり、俺は朝からリビングでコーヒーを飲みながら奏が来るのを待っていた。

 

 コーヒーを飲み終わった時に玄関を開ける音が聞こえた。間違いなく奏だろう。

 

「たっちゃん。ただいま」

 

「おう。おかえり。奏」

 

 短いやり取りの後、俺は奏の為にココアを作る。今日は暑いからアイスココアだ。口の中を火傷する事も無いだろう。奏のマグカップは俺が割ってしまった為、新しいマグカップを買った。このマグカップは奏の物だ。

 

「一杯飲んでから学校に行こう」

 

 奏にココアを渡す。入れた氷はあっという間に溶けて無くなってしまったが充分に冷えていると思う。


「うん!」

 

 大きく頷いてから奏はココアを口に含む。俺の分のコーヒーを作っていないのはさっきコーヒーを飲んだばかりだからだ。 


「冷たくて甘くて美味しい」

 

「今日は暑いし、また火傷したら目も当てられないからな」

 

 ココアを飲みながら食卓へ座る奏。俺もそれに倣うように食卓へ座る。

 

「そうだ。たっちゃんにプレゼントがあるんだよ」

 

「そうなのか? どこかへ行ってたみたいだけど、そこの名産か何か?」

 

「うん。そんな感じだよ」

 

 奏は持っていたココアをテーブルに置いて鞄を漁る。

 

「あった! はい。たっちゃん!」  

 

「お。ありがとな。開けていいか?」

 

「うん!」

 

 奏から渡された小さな紙袋を開けてみる。中に入っていたのは宝石のような綺麗な石のついたネックレスだ。その宝石はワインレッドと言えば良いのだろうか。紫がかった赤い色をしている。透き通っておりとても綺麗だ。

 

「これ高そうだな。いいのか? こんな物貰っても」

 

「全然高くないよ。私の手作りだしっ! たっちゃんの為に作ったんだからね!」

 

 得意げな顔で胸を張る奏。かなりの自信作なのだろう。俺は普段からアクセサリーはつけないし疎いが、奏から貰った物だ。身につけていたいと思う。

 

「男でこんなネックレスって大丈夫かな」

 

「大丈夫だよ。お守りで作ったから、見せる必要も無いし。私がつけてあげるね!」

 

 奏はそう言うと俺の後ろに回り、ネックレスを付けてくれた。見せびらかすには恥ずかしいからネックレスが見えないようにする。

 

「それじゃ、たっちゃん。そろそろ行こう」

 

「ああ。そうだな」

 

 奏はマグカップを両手で持ち、ココアを一気に飲み干す。俺は奏からマグカップを受け取ると俺が使っていたマグカップと一緒に水に浸けた。

 

 家を出ると今日も快晴だった。ここ何日かはずっと良い天気だ。

 

「なんか久しぶりでドキドキするな」

 

「今日学校に行っても明日から連休だから次の時も久しぶりの学校になるな」

 

「そうなんだよね。なんかズルしちゃった気分だよ」

 

 奏は一週間近く学校を休んでいたし、これから大型連休が始まる。

 

「家の用事があったんだろ? 仕方ないさ」

 

「そうだよね! 仕方ないよ!」

 

 俺と奏はいつものように話をする。奏がダサイダーVを見逃したとか、竹林の横を通った時には竹の花の事など笑い合いながら歩いた。委員長の家の前を通り掛かった時、タイミング良く委員長が家から出てくるのが見える。

 

「おぉ! 翼ちゃん。久しぶり! おはよう!」

 

「あら。相澤さんに西条君。おはよう。相澤さんは今日から学校に来れるのね」

 

 ここで、委員長も合流して3人での登校になった。委員長はいつもより遅めの登校のようだ。

 

「今日は遅いんだな。委員長」

 

「そうね。少しのんびりしすぎて、いつもより遅くなったのよ」

 

 3人で話ながら登校するも、ホームルームまでにはかなりの余裕を持って学校に着いた。教室に着いたらそれぞれで一旦別れる。奏は他の女子と話をしているし、委員長は一人で読書をしている。俺が暇を持て余していると竜二が教室へ入ってくる。

 

 俺は竜二と軽く挨拶をしてから二人で話す。竜二と話していると今度は洋介が教室に入ってきた。

 

「お、洋介おはよう」


 俺が洋介に挨拶をするも、洋介は俺を一瞥しただけで自分の席へと向かっていった。洋介に嫌われるような事はしていなかったのだが、洋介のこの反応が気になってしまい、俺は洋介の元へと行く。

 

「なんかあったのか? 洋介」

 

「んにゃ。別に」

 

 俺を無視するように視線すら合わせない洋介。俺が何かをしたのだろうか。

 

「そ、そうか。心配事とかあったら相談乗るからな」

 

「ありがとな」

 

 素っ気ない態度の洋介。今までの洋介とは違うと思う。そう思うのだが、俺を寄せ付けようとしない洋介の態度とその空気で会話も進まなくなってしまった。

 

「じゃまたな」

 

 洋介と会話をするきっかけも掴めないまま俺は自分の席へと戻る。

 

「斉木の奴どうしたんスかね。好きじゃ無かったスけど今日の態度はおかしいスよ」

 

「そうだな。親と喧嘩でもしたんじゃないのか?」

 

 親と喧嘩をしただけであのような態度になるだろうか。俺は考えてみるが、親と喧嘩すらした事が無かった為、答えにもならなかった。

 

 洋介とギクシャクした雰囲気になってしまったがそれ以外はいつもの学校生活だ。奏も戻ってきてクラス全体が明るくなった気もする。奏の明るい性格は周りに伝染するのかもしれない。

 

 学校の授業が終わり、宿題をする準備をしていた頃に俺の携帯がメールを受信した。環からだ。 "5枚ほど遊園地のチケットがこちらに流れて来たから、この間遊んだメンバーで連休中に行かないか?" 

 

「たっちゃんお先っス」

 

「先に帰るね! たっちゃん」

 

 俺がメールを確認している時に竜二と奏が帰ろうと俺に挨拶をして来る。俺は急いで二人を呼び止めた。

 

「あっ。二人ともちょっと待って」

 

 委員長は宿題の準備をして、いつものように俺の席の近くへ来た。竜二は自分の席へ戻ったが奏は立ったままだ。

 

「今、環からメールが来て、遊園地のチケットが5枚手に入ったから一緒どう? って」

 

 俺は全員を見渡すように環からのメールの内容を伝える。

 

「私は連休でも予定が入って無いから大丈夫よ」

 

「私も行きたい!」

 

「俺も大丈夫スね。ただ、明日は兄貴がこっちに来るみたいスから明日以外ならいつでもいいっス」

 

 俺も連休中はやる事が無い為、環の誘いには乗りたいと思っている。

 

「それじゃ、みんな大丈夫って事だな。日程は夜にでも連絡するよ」

 

 こうして、俺達は連休中に遊園地で遊ぶ事が決まった。奏と竜二は先に帰り、俺と委員長は一緒に宿題をし、遊園地の日程などを話ながら家に帰った。

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