不安4
「これが竹の花スか。これが花なんスね」
俺達3人は今竹林沿いにある道路で竹の花の観察に来ていた。委員長によると竹の花は100年に一度咲く物らしいから、とても珍しい物だ。奏がいたら興奮していたに違いない。
「私も写真でしか見た事が無かったけれど、実際に見てみると、確かに西条君みたいに不安にもなるかもしれないわ」
竹林がその花によって薄い黄色で溢れていた。遠めに見れば綺麗なのかもしれないが、近くで見るとそれは不気味の何かにしか見えない。
「こんな所で何をしているんだ?」
竹林を眺めていると、そこに現れたのは環だった。環こそ、こんな所で何をしているのかと聞いてみたいが、何となく予想は出来る。
「この竹林に花が咲いたからみんなで見に来てたんだよ」
「ほう。竹にも花が咲くのか。知らなかったな」
環はそう言いながら竹林を眺める。道行く人が俺達だけを見れば竹林を見つめるおかしな集団に見えるだろうが、この竹の花を見れば話は別だろう。
「そろそろ帰るか」
ただ、珍しい物を見てみたい。それだけの理由で見に来たのだから、長々と居座る事も無い。見る物を見れば帰るだけだ。
「そうね。もしかすると、生きている間にもう見れないかもしれないけれど、近所だから咲いてる間には見に来れるだろうし、もういいわね」
「なんだ。もう帰るのか。私はそれでもいいがな」
環は来たばかりだからだろうが、俺達は割りと長い時間ここで竹の花を見ていた。時間的にも辺りが薄暗くなっているから頃合いだろう。
「私は先に行っているぞ。達弥」
「それじゃ、俺はこっちなんで先に行くっスね」
この竹林のある場所は調度、交差点の近くにある為、竜二とはすぐに別れる。環は恐らく俺の家に行くのだろう。
「あら、西条君は帰らないのかしら?」
「送るよ。委員長。すぐ近くだけどな」
頭を掻きながら笑う。俺は少しでも委員長と一緒にいたいし、比較的治安の良い地区ではあるが、これから暗くなっていく時間帯だ。一人にはしたくなかった。
委員長と二人で歩く。竹の花の事を少し話しているうちに委員長の家に着いた。
「ありがとう。西条君。西条君も気を付けて帰ってね」
「ああ。気を付けて帰るよ。また明日な」
「ええ。また明日」
委員長を送り届けて、俺は来た道を戻った。風に煽られる竹林を横目に家へと向かい、家に着くと俺の家の電気がついているのが分かった。予想通りだ。
「お帰りなさいませ。達弥様」
「なんだ、達弥。もう帰って来たのか」
俺を出迎える美鈴さん。美鈴さんがエプロンをしていた所を見ると料理の最中なのかもしれない。環の声はリビングから聞こえてきた為、ソファに座ってくつろいでいるのだろう。
「委員長の家は近いからな」
リビングに行き、制服のネクタイを外しながら環に言う。ネクタイを外し終わった所で俺は続けた。
「今日も学校を休んだのか?」
私服姿の環を見れば学校を休んだのだろうと予測は出来る。環の制服姿など見た事が無い為、想像は出来ないが。
「そうだな。学校は出席日数さえあれば卒業は出来るから達弥には関係無いだろう? それは置いておいて、さっき調べたが、竹の花が咲くと次の年は全て枯れるそうだぞ」
100年に一度しか咲かないのに花が咲けば枯れるとは不思議な物だと思う。
「そうなのか。竹ってなんか不敏だな」
「どうして不敏なんだ?」
「花が咲けば枯れるわ、その花も綺麗な花とは言えないだろ? 俺からすれば不敏な物だと思うぞ?」
「それは私達人間の都合に過ぎないな。人間からすれば竹の花は綺麗には見えないが、竹からすれば、そんな事知った事では無いし、理由があって竹も花を咲かせたんだ。深く考える事でも無いと私は思うがな」
こうやって、環と話しているうちに美鈴さんが俺達を呼びに来て食卓へ座った。運ばれてきた料理を俺と環が二人で話をしながら食べる。美鈴さんはいつ食事をしているのだろうかと気にはなるが、俺や環の見ていない所で食べているのだろう。俺と環の会話が少なくなって来た所で環が美鈴さんに話を振った。
「そういえば、美鈴は竹の花は見たことがあるのか?」
「そうですね。竹の花が咲いている所は何度か拝見させて頂いた事はあります」
美鈴さんは何度か竹の花を見た事があるようだ。滅多に咲かない竹の花を何度かでも見た事があるというのは美鈴さんは幸運なのかもしれない。
俺と環は食事を終えた。環が先に風呂に入り、その後に俺が入る。この流れにも慣れてしまい、風呂の中ではリラックスする事が出来た。その後、環とゲームをしたりしながら過ごし、明日もあると言う事で、寝るにはまだ早いと言う時間ではあったが俺は部屋へと戻った。環はと言うと、まだゲームを続ける言い、夜更かしをするようだ。
昨日から妙な不安を煽るような事が多く起こっていた為、環の存在が今日はありがたく思えた。何も無いように装ってはいたし、昨日ほど不安な気持ちにはなっていなかったが、俺の心では不安な気持ちが未だに燻っている感じだ。
「何も起こらなければいいけどな」
ベッドに仰向けに寝転がり、天井に呟くように言葉を投げかける。誰に言う訳でも無いが、口に出したかった。
家の前を走っていく車の音がやけに大きく聞こえる気がした。少し敏感になっているのかもしれない。俺は胎児のように身を縮こませ、何も考えないようにしようと考えながら眠りに落ちていった。




